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先生のための金融教育セミナー

2013年度 教員のための金融教育セミナー

2.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)

高等学校分科会

進行およびコメント:
帝塚山学院大学 人間科学部 工藤 文三 教授

実践発表およびワークショップ(1)

「豊かさを分け合う『経済』を考える」
東京都立桜修館中等教育学校 高橋 勝也 主任教諭

実践発表

私は東京都の教員となった最初の年から、金融経済教育にこだわってきました。金融がなければ世の中が成り立たない一方で、金融には一部に悪いイメージもあり、当初は金融教育の理解を得ることが難しい場面もありました。ただ、生徒が金融に悪いイメージを持っているかというと決してそうではなく、彼らに金融について聞いてみると「よく知らない」という回答が圧倒的に多いのです。生徒は金融が嫌いなわけじゃなくて、知らないだけなんだ、これはきちんと教えなければいけない、という気持ちで頑張っています。

まずは、生徒が経済そのものを好きにならなければ、金融の話もできません。金融を教えるにあたり、まずは経済を好きにさせたいと考えるようになりました。本校は中高一貫校で、私は中学校の教員もしていました。本校の生徒は、一生懸命に勉強をして入学してきますが、それでも中学生にアンケートをしたところ、経済が「好き」と答えたのは11人、「嫌い」が16人、「どちらでもない」が116人で、「嫌い」と答えた生徒が16人もいるのか、と思いました。「嫌い」と答えた生徒にさらにインタビューしてみると、受験勉強をするときに経済に関わる部分を暗記で詰め込まれた生徒たちでした。これは高校生でもおそらく同じで、一生懸命授業を聞いていたけれどよくわからなくて難しいなと思わせたら、生徒は経済が嫌いになってしまう。教え方に工夫が必要だと考えさせられました。教科書では、経済のことを、生産し、流通を経て、消費する一連の活動を指すものだと説明していますが、経済は面白い、金融は社会にとってなくてはならないものだ、と生徒に感じさせるための工夫の一つとして、私は、中国の古典に登場する言葉を使って、「経済とは、経世済民、つまり世の中をうまく治め、人々を救うもの」と教えたりしています。「経済は、みんなが幸せになるためのものなんだよ」と説明すると、生徒は「えー、そうなんですか」と言ってくれます。今日は、「経世済民」を一緒に考えようという授業の一つをこのあとのワークショップで皆さんにも体験して頂きたいと思います。

ワークショップ

ワークショップの前半では、資本主義と社会主義から経済を考察するというテーマで、国民の半分が年収900万円、残りの半分が年収100万円のA国と、国民全員が年収400万円のB国があるとしたら、どちらの国に住みたいか、国全体で考えるとどちらが豊かだと思うか、A国で年収900万円の人が年収100万円の人に400万円を渡すことができるとしたらA国はB国にくらべてより豊かで平等な社会と言えるかどうか、といったことについて考えました。

ワークショップの後半では、参加者の皆さんに二つのグル―プに分かれて頂き、いわゆる「囚人のジレンマ」をもとにした高橋先生考案のゲームを体験して頂きました。隣り合う二つの村が、近くの川から水を引く灌漑工事を行うか否かを意思疎通なしに決定するゲームで、両者が協力することでより豊かになることや、両者が協力するような意思決定が望ましいことに気づかせることをねらいとするものです。

実際に学校で授業を受けているかのような実践的な雰囲気の中でワークショップを体験した参加者の皆さんから、早速今後の授業に取り入れてみたいという声が多く聞かれました。

コメント

工藤先生より、ワークショップで再現された二つの実践は、所得の再分配を単純化・モデル化したもの、囚人のジレンマや共通の利益といった概念を具体化したものであり、生徒に選択・意思決定をさせる点で共通する、また、とくに二つ目の実践は、ゴミ焼却場や下水処理場などの立地をどう考えるかという実際の問題に応用できるのではないか、とのコメントがありました。

高等学校分科会の模様(1)

実践発表およびワークショップ(2)

「自立した社会人をめざして 主体的に判断できる消費者になろう
~体験的・実践的に学ぶ金融教育~」
三重県立松阪高等学校 岡 恵美子 教諭

実践発表

今回発表するのは、前任校(三重県立伊勢工業高等学校)における家庭総合での二つの実践です。経済産業省が提唱している「社会人基礎力」に着目しました。「社会人基礎力」とは、生徒が職場や地域社会で働く上で必要な力のことで、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力、さらに細かく分類すると12の要素から構成されています。これらの力を育成することが重要と考え、チェックシートを用いて生徒たちの自己評価を確認したところ、「働きかけ力」、「創造力」、「計画力」、「主体性」の値が低かったため、この四つの力の育成を目標として、生徒が主体的に取り組める実践を試みることにしました。

一つ目の実践は、ユニバーサルデザインを取り入れた家電製品を開発するという工業高校ならではのテーマです。生徒一人一人に、ユニバーサルデザインを取り入れた家電製品について調べさせ、どういう製品を開発したいかを考えさせました。その後、高齢者疑似体験等を経て、グループ学習として、省エネ方法等の環境教育の分野も盛り込みつつ、生徒がそれぞれのアイディアを出し合い、各グループで考案する家電製品の品目を決定し、プレゼンテーション資料を作成、発表しました。
発表では生徒からユニークな発想やネーミングのアイディアが出され、大変面白いものでした。発表後に、生徒に自己評価と他班の評価をさせたところ、評価の結果を話し合ったときに大いに盛り上がり、自分自身や生徒同士で評価をさせることの大切さについても認識させられました。社会人基礎力診断チェックシートを実践後にもう一度実施したところ、前述の四つの力だけでなく、その他のほとんどの力についても評価が向上していました。

二つ目の実践では、体験的・実践的に学ぶ金融教育として、消費生活分野で外部の教材を活用しながら主体的な学習態度を引き出す実践を行いました。金融広報中央委員会の『これであなたもひとり立ち』には、自分が今まで生きてきた中でどのくらいのお金がかかったのかを考えさせるワークがあり、授業でもかなり盛り上がります。悪質商法やカード社会と金利についてのワークも授業で活用しており、リボルビング払いと一括払いとで最終的にどのくらい支払額が違うのかを実感させています。また、県外に就職する生徒も多いため、一人暮らしの費用についても学ばせます。平成24年度には、新たな試みとして、クイズやシミュレーションなどのウェブコンテンツや消費者庁の教材も活用したほか、ネットショッピングのトラブル例として、当時話題になっていたペニーオークションを取り上げ、グループ学習を行いました。消費者の視点からだけでなく、取引によって不当な利益を得ようとする悪質業者の視点にも立って考えることで、消費者としての知識が身に付き、消費者トラブルを避けることにつながると考えました。

外部の教材をうまく活用することで、授業の準備時間を削減することができますし、生徒主体の学習活動を行うことができます。今後も、金融教育等の様々な視点やアクティブラーニングを授業に取り入れ、家庭科教育全体の充実と生徒の将来の生活の充実につなげていきたいと思います。

ワークショップ

生徒がアクティブラーニングの形式で体験した授業の一部を、参加者の皆さんにも体験して頂きました。ペニーオークションを題材に、運営側と利用者側のそれぞれの立場から見た有利な点と不利な点をグループで考えました。グループごとの発表の際には、岡先生が実際に授業で活用している簡易ホワイトボードシートを使用し、参加者の先生方からはその便利さについても注目が集まりました。

コメント

工藤先生は、岡先生が「社会人基礎力」から自校の学習の課題を浮き彫りにし、授業の計画を練られたという点や、参加・選択・企画・表現という一連の活動を通して生徒がどのように変容したかを検証している点で大変よい研究ではないかと述べられました。また、ご担当教科の異なる高橋先生、岡先生が共通して行っている、生徒が学び合い深め合っていく学習の過程で、生徒が調べる技能、発表する技能、友だちと話し合う技能を身に付けることができると述べられました。

高等学校分科会の模様(2)

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