先生のための金融教育セミナー
2013年度 教員のための金融教育セミナー
2.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
小学校分科会
- 進行およびコメント:
- 文部科学省 初等中等教育局 澤井 陽介 教科調査官
実践発表およびワークショップ(1)
「お金の三つの役割の学習」
京都教育大学附属 桃山小学校 池田 恭浩 教諭
実践発表
私が小学校社会科でお金のことを取り入れようと考えた理由は、三つあります。一つは、授業が知的にかつ面白くなるからです。二つ目の理由は、お金を授業に取り入れることで、経済教育、金融教育、キャリア教育、エネルギー教育、租税教育といった様々な教育を行うことができることです。学校現場では、授業時間数の制約等から、それらの教育を導入することに難しさを感じている先生も多いのではないでしょうか。お金を社会科で取り上げることで、こういった教育がかなりカバーできるのではないかと考えています。三つ目の理由は、小学校社会科でお金について学ぶことが、子どもたちにとってお金の生涯学習のスタート地点になると考えることです。私は、お金の生涯学習を、お金とうまく付き合えるようになること、お金が私たちにもたらす恩恵とその限界を認識し、お金の未来像について議論を深めることができるようになることと捉えています。お金と社会との関わりについて、日常生活だけで学ぶことは難しく、その基礎を学校教育で学ぶべきであると私は考えています。
「お金の三つの役割」とは、経済学でも言われていることですが、1.交換を助ける役割、2.価値を計る役割、3.価値を貯める役割のことです。この3つの役割が理解できれば、なぜ買い物をするときにお金を払うのか、なぜお金を稼ぐ必要があるのか、なぜお金を貯めるのかといった疑問に答えることができ、お金とは何なのかを認識することにつながります。
この「お金の三つの役割」を、3年生社会の仕事の単元の授業で取り上げました。仕事についての話し合いの中でお金に関する発言が出たことを受けて、子どもたちに「お金って何?」と問いかけ、「買い物するときに使うもの」、「じゃあ、なぜお金で物が買えるのかな」といったやり取りをきっかけに、お金の役割を考えていきました。もちろん、重要なのは子どもたちがこの三つの機能を暗記することではありません。「お金がまだなかった時代はどうやって欲しいものを手に入れていたのだろう」ということから、物々交換の仕組みと問題点を考え、その問題点を解決するためにお金が生まれたことを本質的に理解できるようにしました。実践の具体的な内容は、金融広報中央委員会ホームページの「第9回 金融教育に関する小論文・実践報告コンクール」に掲載されている私の入賞作品でも紹介しています。
こうしてお金の役割の本質に迫ることで、子どもたちはお金を活用し、お金の役割をいろいろな場面で生かすことができるようになると考えています。
ワークショップ
ワークショップでは、実践発表の事例と同様に、グループごとに物々交換の問題点をできるだけ多く挙げるという学習を体験しました。短時間で20点近くもの問題点を挙げたグループもありました。次の段階として、児童がお金の役割の本質を学ぶことができるようにするために、物々交換から迫る方法以外にどのような方法が考えられるかを検討し合い、発表しました。スーパーマーケットの学習で流通と絡めながらお金の役割を学ばせてはどうか、お金を大切にすることや計画的に使うことを学ばせるために労働の対価を含めて考えさせたい、やはり児童には物々交換から理解させるのが一番良いのではないか、といった様々な意見が出されました。
コメント
澤井氏は、教科が縦串だとすると、金融教育やキャリア教育のような「○○教育」は各教科を横串に刺そうとするものであり、その目的は、教科を超えて必要なことが子どもたちの頭の中でつながるようにし、実生活で生きて働く力を身に付けさせることであると述べられました。また、今の社会科が、社会の仕組みそのものを学ばせるというよりも、社会的事象の意味を学ばせるようになってきている中で、お金のことを社会科のカリキュラムの中に取り入れるのは簡単ではないが、池田先生の実践のように、お金の全てを教えようとするのではなく、お金を一つの側面から切り込んで、置き石としてカリキュラムに入れていくような工夫が大切ではないかと述べられました。
本実践事例は、第9回 金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2012年)優秀賞作品として当ホームページに掲載されています。
第9回 金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2012年)
実践発表およびワークショップ(2)
「児童が主体的に学ぶ金融教育の実践~
円環型経済教育の流れを基盤とした単元構成の実際~」
北海道北見市立北小学校 川﨑 理恵 教諭
実践発表
外国語活動に関する教員等の研究団体である旭川英語教育ネットワークでは、経済を円環型、つまり生産、流通、消費の3つの要素がスパイラル状に循環することで成り立っているものと捉え、各々の勤務校で外国語活動等と関連付けながら金融教育の実践を進めました。ねらいは、商品の価値を知ることと、物の大切さを知ることの二つです。
まず生産部門で、物がどのように作られているかを学びます。次に流通部門で地域の産物がどのように世界に広がっていくのかを調べます。また、流通の過程で価値がどのように変化していくのかについても考えます。最後に消費部門で、生産され流通した商品がどのように購入されていくのかを学びます。そして再び生産部門に戻り、さらなる品質の改良等につながっていくという形です。
最初の生産部門を、調べ学習や体験的な活動を通して行動を始めるための入口として捉え、米作りについて学習しました。この活動を通して調べ学習を行いまとめた「米新聞」は、農家の方にインタビューをしたり稲の写真を撮ったりしながら子どもたちが意欲的に取り組んだもので、その取り組み姿勢は大変評価できるものでした。ただ、この部門の学習では、金融教育との関連付けが難しい部分があり、米の等級による価格の決定、農機具購入のための銀行借り入れ等を盛り込んでいけると、さらにお金との関わりが見えてくるように思います。
流通部門では、外国語活動を切り口としました。オーストラリア大使館より保管・貸出しを委託されている「オーストラリア体験キット」や簡易貿易ゲーム等で、子どもたちの視野を世界へと広げ、世界では不均等な資源配分の中で貿易が行われていることをゲームを通して学びました。
最後の消費部門でも、外国語活動を切り口としながら、金融機関との連携を図りつつ教育の実践を進めました。外国の通貨単位と為替レートについて学び、子どもたちは模擬紙幣や電卓を使って通貨の両替をした後、そのお金を使って買い物学習等を行いました。また、信用金庫から外部講師を招いて、銀行の役割と仕事、マネーサイクル(通貨の動き)等について説明して頂く中で、子どもたちは、疑問に思ったことを実際に働いている人に直接質問するという普段なかなかできない体験もすることができました。
今後の課題としては、これらの実践を同一校で行うことを前提としてカリキュラム化し、学校現場に定着させていくための検討が必要と考えています。小学校で学習した内容が、児童の視野を広げ、情報を見極め判断し行動する原動力になると確信しています。これらの学習に触れた児童一人一人が、活力のある社会を作り上げる社会の一員へと成長していくことを願っています。
ワークショップ
川﨑先生の実践にあった簡易貿易ゲームを、実際に参加者の先生方にも体験して頂きました。各グループに不均等に割り振られた所持金、資源、道具をうまく使いながら、できるだけ多くの富を得ることを競う貿易のシミュレーションゲームで、参加者の先生方はそれぞれ大変真剣に取り組んでいらっしゃいました。また、早速このゲームを授業に取り入れてみたいという声も多く聞かれました。
コメント
澤井氏より、貿易ゲーム等の体験的な活動では、勝ち負けではなく、それを学習活動として行った意味に子ども自身が気づくこと、その気づきを促すために教員が振り返りで意味付けをすることが重要である、とのコメントを頂きました。
また、金融教育だけでなく、環境教育、人権教育といった「○○教育」の目標は、子どもたちがそれぞれに含まれる関係性を理解し、価値を見出し、それを踏まえて自分で判断したり、自分の生き方や社会との関わり方につなげたりできるようにすることであり、教員はそのような目標を踏まえて、教科等の枠組みと「○○教育」の視点を整理することが大切であると述べられました。そして、「○○教育」に関わる内容が各教科等で扱われる際に、扱われる時期や教科等を超えてそれらの内容が子どもたちの頭の中でつながるように工夫することが必要であり、つないでいくためのベースとなる体験的な学習を適切に導入することができるようにカリキュラムを構成することが重要であると述べられました。