2012年度 教員のための金融教育セミナー
2.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
高等学校分科会
- 進行およびコメント:
- 岐阜大学教育学部 大杉 昭英 教授
実践発表およびワークショップ(1)
「イベント及び空間整備の企画立案・実践を通じた金融教育の取り組み」(商業)
山梨県立富士北稜高等学校 菅沼 雄介 教諭 中村 光夫 教諭
実践発表
今日はまず、まちづくりや空間整備を教材化した取り組みを、生徒が編集したDVDをご覧頂きながら紹介します。取り組みを行うにあたっては、周囲の理解をどう得るか、活動資金をどうするかなど様々な課題がありました。
本校のある富士吉田市の商店街は、以前は沢山の人で賑わいましたが、今ではシャッターが連なっています。そこで生徒たちが、どうしたら自分たちが住み続けたくなるまちになるのかを考え、商店主や行政職員へのヒアリングなどを踏まえて、地元住民が主体となったまちづくりを呼びかけました。その結果、地元の方の協力を得て、交流空間の実現に向けた土蔵の改修に取り組むこととなりました。自分たちで床の塗装を行い、和紙を作り、地元で収穫されずに放置されていた柿を使って塗料の柿渋を作り、柿渋を塗った和紙を壁紙として土蔵の内装仕上げを完成させました。オープン以来、この場所ではコンサートや落語、講演会などが行われており、今までに延べ2,000人の利用者が訪れています。
続いて生徒たちが企画したイベントの例を紹介します。地域の商店主から、地域のお祭りがマンネリ化しているとの声があり、地域が元気になるイベントを企画することになりました。富士吉田はきれいな水が豊富な土地柄であるため、水祭りを企画しました。手作りの水鉄砲を使って「水合戦」をしようというイベントです。1回目の昨年は、事業計画書や広報ツールの作成が遅れ、十分な集客ができなかったなどの反省点がありましたが、生徒たちはイベントを企画して実行することがどういうことか、実感できたと思います。
また、水祭りの予算を立てるにあたり、材料費や広報宣伝費でお金がかかるため、参加してくださる方々から参加費を頂いても収支が合わないことから、今年の9月に実施する2回目の水祭りは、地域の企業にスポンサーになって頂き、協賛金を頂いて実施しようと考えました。今、生徒と一緒に企画書をもって各企業に説明に上がっているところです。こうした取り組みにより生徒たちの責任感やお金を頂くことに対する意識が芽生えてきていると思います。
ワークショップ
昨年の水祭りで生徒たちが実際に制作したポスターと、別のイベントのポスターとを比較し、効果的な水祭りのポスターはどういうものかを考えた上で、参加者それぞれがイベントの企画書を作り、企画書にあったポスターを制作しました。地元や学校の特色を活かし、工夫を凝らした様々な企画書やポスターが作られていました。また、お金をかけずにお祭りの参加者を増やすには、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを利用してはどうか、などのアイデアも聞かれました。
コメント及び質疑応答
大杉先生は、富士北稜高等学校の取り組みをイギリスのシチズンシップ教育の例と比較されながら、プロジェクト型の活動により生徒に当事者意識をもたせている点や、水祭りの企画書に目的と内容だけでなく予算編成まで記載されている点について、知識基盤社会における金融教育の進め方に適っているのではないか、こうした学習活動が今後、広がっていくことを期待したいと述べられました。
実践発表およびワークショップ(2)
「消費者センスを高めよう」(家庭)
前 東京都立忍岡高等学校長 清水 ゆかり 氏
実践発表
平成22年に消費者基本計画が閣議決定され、消費者教育推進会議が設置されました。当時、高等学校の代表として消費者教育推進会議に関わらせて頂きました。会議の中では、学校での消費者教育を進めていくために、学校全体で消費者教育を推進していく上でのキーパーソンとなる消費者教育コーディネーター(仮称)を設置すること、教科間の連携を通じて授業時間数を確保すること、外部の団体が作成した消費者教育のための教材を利用しやすくするためのポータルサイトを構築することが検討されました。
学校全体で消費者教育に取り組むには、各校における消費者教育指導計画を作ることが重要で、消費者教育の全体像については、消費者教育支援センターと消費者庁の「消費者教育の体系シート」が参考になります。商品の安全性、契約・取引、情報、環境に関する項目などがあり、このうち、契約や取引に関する項目は、まさに金融教育と直接結びつく部分です。これらの項目を挙げただけでも、扱う範囲が広く、ある教科だけでとり上げればよいというのではないことがお分かりいただけると思います。
先生方が新たな教材を一から作っていくのは、時間的にも厳しいと思います。外部団体により教材が作られていますので、すでにあるものを有効に活用するという考え方も必要です。その一つとして、消費者庁で配付している「消費者センスを高めよう」という中学生向けの教材と「もしあなたが消費者トラブルにあったら」という高校生・若者向けの教材をご紹介します。
消費者教育は、生徒に「生きる力」をつけさせるために必要な教育です。そして、消費者教育の目標を達成するためには、学校全体で消費者教育をコーディネートすることを考えて頂きたいと思っています。
ワークショップ
グループごとに、学校全体の消費者教育を推進していくという立場で、学習指導案を作成して頂きました。消費者教育にかかわる幅広いテーマの中から、ネットショッピングを題材にとり上げたグループが多く見られました。ネットショッピングの場合にどのタイミングで契約が成立するかをクイズ形式で生徒に考えさせるという提案や、トラブルに遭った場合にどういった対応をとればよいのか、クーリング・オフの内容や消費者保護のための法律を生徒に教え、消費者として契約の基礎知識を身につけさせるための指導案が出されました。また、節電の意識が高まっているなか、自分の学校の1か月の電気代はどれくらいなのかを生徒に計算させることを導入として、売電契約の話とも絡めながら賢い消費者になるための指導案を考えたグループもありました。
コメントおよび分科会総括
消費者教育に視点を置いた清水先生のお話を受けて、大杉先生は、生徒が商品を買う際に、必要性や価格、品質などを比較検討し、意思決定する力を身につけさせる教育は非常に重要であると述べられました。
分科会の総括として、大杉先生は、「OECDが提唱したキーコンピテンシーの概念にもあるように、生きるということは、多様な社会のなかで、道具を用い、自立的に行動することである。金融教育においては、金融に関する知識を用いて他者と交流しながら協働して成果を生み出す力を育てていくことが非常に重要ではないか」と述べられました。