2012年度 教員のための金融教育セミナー
2.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
中学校分科会
- 進行およびコメント:
- 国立教育政策研究所 工藤 文三 初等中等教育研究部長
実践発表およびワークショップ(1)
「世界の国々とお金とのつながり」(社会)
福岡県小竹町立小竹中学校 永野 俊治 教諭
実践発表
本校では、自立する力と社会とかかわる力の育成を目指し、「金融感覚に基づく望ましい価値判断のできる生徒の育成」という研究主題を掲げ、研究を進めました。ここでの「金融感覚」という言葉は、お金を通じて世の中の動きを読み取り、自分や自分の将来、社会のことを考える能力として捉えています。この金融感覚に基づいて望ましい判断ができる力を、金融教育を通して育成することを目指し、教科や領域を越えた学習に取り組んできました。
実践の一つとして、金融教育を進めていく上で重要な家庭や地域との連携を目指し、「金融教育セミナー in 小竹」を開催しました。中学生による意見発表などのプログラムのほか、日本銀行福岡支店から講師を招いて講演を行いました。セミナーに参加した保護者や地域の方々からは、今後も金融教育を行ってほしいという感想が聞かれました。
続いて、社会科の地理的分野での学習を紹介します。世界の国々を調べ、さらに貿易により世界の国々が相互につながっていることに気づかせることをねらいとして、「世界の国々とお金とのつながり」という単元を設定しました。題材は生徒にとって身近な食べ物であるハンバーガーとし、「日本で一番売れる『2-2バーガー』を作ろう」をテーマに、各国からの輸入品も含めた食材の調査、比較を行いました。「2-2」は自分たちの学級2年2組から取ったものです。既存のファストフード店の材料とも比較し、2-2バーガーの材料と販売価格を学級で決定しました。さらに、貿易がストップしたら私たちの生活にどのような影響があるかを考えさせました。生徒からは、貿易がストップしたら食べたいものが食べられなくなる、商品の値段が高くなってしまう、などの意見が出ました。世界の国々とのつながり、世界の国々が貿易により相互に依存していることが理解できたようです。
こうした取り組みが、生徒の自立する力や社会とかかわる力の育成につながってきていると感じます。今後も研究を進めていくことで、生徒がこれからの社会で自立し、たくましく生き抜くための力を育てていきたいと思います。
ワークショップ
小竹中学校の生徒が体験した学習をもとに、「日本で一番売れる『知るぽるとバーガー』を作ろう」というテーマでワークショップを行いました。グループに分かれて、食材に関する資料を見ながらハンバーガーを作るための食材を選び、販売価格を決定し、食材を選んだ理由や販売価格の決定理由を発表しました。原価を抑えるため国産ではなくオーストラリア産の小麦を使用する、原価の割合が高くなってしまうが、デフレ下で競争力を保つために販売価格をできるだけ抑える、材料を東北産のものに限定して東日本大震災の復興支援にも貢献したい、など様々な工夫と意見が出ました。
また、このワークショップに参加して、貿易だけでなく環境問題などと絡めて金融教育を実践することができるのではないか、社会科だけでなく家庭科でも実習と結びつけ実践方法を考えていきたい、といった感想が聞かれました。
コメント及び質疑応答
工藤先生は、永野先生の実践について、題材としたハンバーガーが生徒にとって身近でありながら、貿易や価格の決定など広がりをもっている点や、授業のスタイルが選択・意思決定型であり、なぜそれを選択するのかを生徒に考えさせ、個人だけでなくグループ単位、学級単位で意思決定させている点に触れ、「売れるハンバーガーを作るためには他社商品との差異を意識したり、商品コンセプトを明確にするなど、まさに企業が行っているのと同様の選択や意思決定が必要になる。こうした学習が生徒の生きる力につながるのではないか」と述べられました。
実践発表およびワークショップ(2)
「レシートから経済が見える」(社会(家庭科でも実践可))
千葉市教育委員会 山﨑 二朗 氏
実践発表
今日はワークショップの時間も含めて模擬授業という形で進めさせて頂きます。私が教員生活の中で授業を作っていく、教材を開発していくときに心がけていたことが三つあります。一つ目は、授業で学んだことを、生徒が実生活の中でどれだけ再確認できるかということ、二つ目は、理解の定着度を「なるほど」と納得するレベルまでもっていけるかということ、三つ目は、時間の確保です。新学習指導要領で、中学3年生の場合、公民は週に4時間ですので、この4時間で完結できるくらいの時間数がよいのではないかと考えました。このような視点で考えたのが、レシートを使ってここから経済を見てみようという授業です。
1時間目です。まず、普段よく目にするレシートはどのようなものでしょうか。レシートの色は白、形は縦長のものが多いですね。では、お配りしたプリントにあるレシートをご覧頂き、何が書かれているか挙げてみてください。店名、住所と電話番号、担当者、販売日時、商品名、価格、消費税額など、挙げて頂いただけでも、10以上あります。生徒に、教科書の中の今挙げた項目に関連するところに付箋をつけさせると、経済単元の中だけでもたくさんの付箋がつきます。この1時間目は経済単元の学習に対する興味・関心を高める、導入の意味合いをもたせています。
2時間目は、レシートの各項目が記されている意味を考えます。なぜレシートに店名が書かれているのか、なぜ買い物のポイント数が書かれているのかといったように、「なぜ」というのをしっかり考えさせていきます。店名が書かれていなければ消費者は返品のときに困ってしまいます。返品の話から、消費者の権利や消費者基本法に触れるなど、教科書に書かれた内容につなげて学習していくことがねらいです。
では、皆さんでレシートのどの項目が一番重要か、消費者側から見た場合、また企業側から見た場合を考えてみてください。消費者にとって一番重要な項目はどれだと思いますか。値段、商品名ですか。では、企業側から見たら、会社名、バーコードでしょうか。このように、消費者側と企業側の両方から考えることによって、消費者の権利や契約、企業の経営戦略など、実際の経済活動を理解させます。
3時間目です。手元にあるレシートを消費者の立場から改善するとしたら、どの部分をどう変えますか。その理由も含め、企業に提言するつもりで考えてみてください。私の授業構想では、実際に企業に提言していきます。紙質を良くする、文字が小さいので大きくする・・・他にどうでしょうか。生徒たちの理解を社会への提言という形で発信することで、その理解が正しいのか否かを学ばせ、理解をより深めることをねらいとしています。
4時間目には、別のレシートを使います。お手元のレシートを見てください。同じ日に同じ店で買った品物なのに、値段が違います。その理由と思われるものをレシートの中から探してみてください。2枚のレシートで異なるのは「買った時間」です。閉店間際には値段が安くなることがありますね。でも、このレシートでは午前中に買った方が安くなっています。なぜでしょうか。このようにして、4時間目は、価格が決定される理由、需要と供給などについて考えます。
このようなレシートを題材とした授業は、家庭科や小学校の授業でも実践できるのではないかと考えています。
コメントおよび分科会総括
「子どもたちのレシートについての提言を実際に企業に伝える場合、どのようなことに留意すべきなのか」という参加者からの質問に対して、山﨑先生は「企業には事前に授業の意図を十分に説明する。子どもたちの提言がすぐに具現化されることは難しいのが現状だが、消費者でもある中学生の立場からの意見として受け止めてほしい旨を伝える。」と回答されました。
工藤先生からは、消費者側と企業側をつなぐ象徴的な記録とも言えるレシートは、身近で集めやすく、また契約や契約の解除、クレジットカードによる支払いなど非常に広がりをもっている点で教材として価値がある、同じ題材を使って他の教科で授業を展開することもできるのではないか、というお話がありました。また、金融教育を進めるにあたっては、金融に関わる題材を生活や社会とのつながりの中で見出していくこと、さらに小学校、中学校、高等学校とつながるような形で幅広い金融教育が展開できれば、子どもたちの生きる力になっていくのではないかと述べられました。