先生のための金融教育セミナー
平成22年度教員のための金融教育セミナー
2.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
分科会3(高等学校)
- 進行およびコメント:
- 国立教育政策研究所 工藤 文三 初等中等教育研究部長
実践報告およびワークショップ(1)
「クルマの“窓”から経済をのぞいてみよう ~企業の役割と経済活動の在り方~」(1年 公民)
東京都教育庁指導部 高等学校教育指導課 大山 敏 指導主事
実践報告
新しい高等学校学習指導要領では、確かな学力を育成するために、基礎的・基本的な知識・技能、思考力・判断力・表現力、学習意欲・態度・習慣を学力の三要素として一体的に育てることが強調され、特に、公民科現代社会では、幸福・正義・公正とは何かについての理解などの知識基盤を用いて社会的事象を見ることが重視されています。
自動車を通して社会を見る授業を行いました。家族や社会の中で自動車が果たす役割、自家用車を購入する場合の選択のポイントを考え、自動車メーカーの業績や自動車関連税制について調べていきました。自動車を通して、政治や経済、生活や文化などさまざまな角度から社会を見ることができます。ただし、自動車を題材として扱う場合には、生徒自身の家に自動車があるかどうかには関係なく、社会的存在としての自動車について考えるという視点を外さないように注意する必要があります。
ワークショップ
「持続可能な社会、他者と共に生きる社会はどうあるべきか」という点を踏まえて、自動車について考えました。まず、生徒の立場で将来自家用車を持ちたいかどうかとその理由を考え、その後、購入する場合はどういう車を持つのがよいか、自動車が家族に対して果たす役割や現代社会においてもっている意義は何か等をグループで話し合いました。参加者からは、「家族の中では話し合いの格好の題材という利点があり、社会の中では、製造業や物流といった多くの産業に関わっているほか、環境問題の元凶となる一方で環境問題対策の先駆者としての役割もある」、「持続可能な社会という観点では、人生のある時期には不要となることもあるので、カーシェアリング制度があれば十分なのではないか」といった意見が出ました。
コメントおよび質疑応答
「自動車の購入について考えることは金融教育とどのような関係があるのか」という参加者の質問に対して、大山先生は、「金融教育の視点はさまざまなことに関連づけることができる。たとえば、車は将来必要かどうか、もし購入する場合にどのような車を買うかといった点を考えることは、ライフプランを考えることであり、金融教育と十分な関連がある」と回答されました。
また、工藤先生からは、「自動車は、産業・歴史・雇用・交通・エネルギーなど様々な面からみることができ、現代社会を象徴する教材である。金融教育を実践する場合、さまざまな観点で考えて選択・行動する力を生徒に身につけさせることが重要である」というコメントをいただきました。
本実践事例は、金融広報中央委員会の『金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-』で紹介されています。
金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは- 7.高等学校における金融教育(3)高等学校における金融教育の指導計画例
実践報告およびワークショップ(2)
「主体的に判断し行動できる消費者をめざして~副教材を活用して実践的・体験的に学ぼう~」(1年 家庭)
岐阜県立大垣北高等学校 河合 成子 教諭
実践報告
消費生活における意思決定能力がないと、トラブルに巻き込まれてしまいますので、主体的に判断し行動する消費者を育成することを目指しました。金融教育は、お金や金融の様々な働きを理解して自分の生き方を考えることであり、主体的に行動する力を養うという点で、家庭科の消費者教育と関連します。
(1)家計管理、(2)消費者として適切な意思決定、(3)責任ある消費行動の分野で、金融広報中央委員会刊行の『これであなたもひとり立ち』を活用したり、生徒のディベートやロールプレイングを取り入れたりして授業内容を工夫しました。また、出前講座も活用し、専門家の方に契約と悪質商法、年金、税金等について説明していただきました。このような工夫により、また身近な事例を用いることによって、生徒の理解を深め、適切な判断力を養うことができたと考えています。
ワークショップ
まず、『これであなたもひとり立ち』のワークに沿って、一人暮らしを始める際に選んだ住宅物件の平面図等を記入しました。その後、生徒の記入例を見ながら、グループで話し合いました。参加者からは、「高校1年生の導入教材としてよいのではないか」、「生徒の記入例には一人暮らしには大きすぎる家電があり、生徒は現実感がない中で作成しているのではないかと感じた」といった意見が出ました。高校生の記入例が現実的でないとの意見に関して、河合先生からは「このワークシートは導入として利用しており、この後に物件の契約金額などを取り上げて、より現実的な選択を行うよう指導した」といった補足がありました。
コメントおよび分科会総括
「今回の実践において予算制限を設けなかった理由は何か」という質問に対して、河合先生は、「親がどれだけの資金を出してくれると生徒が思っているかを知るという目的があったため、予算制限を設けなかった。そのような目的がない場合は、予算制限を設けてワークを行い、お金を計画的に使うことを生徒に教えていくことがよいのではないか」(河合先生)と回答されました。
工藤先生からは、「各教科の中で金融教育を行う場合には、教科の中で細分化された内容を生活の中で活かしていくという視点が必要」、「より進んだ金融教育のあり方としては、金融教育の全体計画を作って、複数の教科・科目で担いつつ、教科・科目のねらいと金融教育の目的の両方を実現していくことが考えられる」といった意見をいただきました。
本実践事例は、金融広報中央委員会の『はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集-』で紹介されています。
はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集- 2.金融教育の実践事例集(4)高等学校における実践事例