先生のための金融教育セミナー
平成22年度教員のための金融教育セミナー
1.来賓挨拶/パネル・ディスカッション
(1) 来賓挨拶
文部科学省初等中等教育局教育課程課の樫原哲哉学校教育官よりご挨拶をいただきました。
樫原学校教育官は、「児童・生徒が自分の意思で真に豊かな生活を築いたり、よりよい生活の創造に参画したりするために、金融教育や消費者教育の果たす役割は大きい」と述べられました。
また、新学習指導要領における経済・金融や消費生活に関する記述の充実等に触れ、文部科学省としても金融広報中央委員会や関係省庁等と連携して金融経済教育・消費者教育の一層の充実に努めていく方針をご説明されました。
(2) パネル・ディスカッション
「金融教育のあり方と学校における実践」というテーマでパネル・ディスカッションを行いました。パネリストは、来賓挨拶をいただいた文部科学省初等中等教育局教育課程課学校教育官の樫原哲哉氏のほか、帝京大学教職大学院講師の小関禮子氏、石川県能美市立根上中学校教諭の朝倉京子氏、東京都立西高等学校主任教諭の篠田健一郎氏。コーディネーターは、金融広報中央委員会事務局長の大川昌利が務めました。
まず、学校教育における金融教育の位置づけに関連して、樫原学校教育官より、「知識基盤社会、グローバル社会において、経済や金融に関して習得した知識等を活用して課題を見出し解決する能力を育成することが重要」とのご説明がありました。
次に、金融教育に取り組んだきっかけについて、「目の前の小学生の実態から、責任をもって自分らしさを出しながらお金を使うことを指導する必要があると考えた」(小関氏)、「金銭教育研究校の委嘱を受けたことをきっかけとして、ロールプレイングなどの体験的な授業を工夫するようになった。家族が働いて収入を得、計画を立てて消費や貯蓄をしていることを実感することはとても重要だと思う」(朝倉氏)、「コミュニケーション能力や問題解決能力を鍛えるための『主体的な学び』の一つとして、金融経済教育が有効だと考えた」(篠田氏)といったお話がありました。
続いて、金融教育の手応えや子どもたちの反応などについて、実践の経験を踏まえてお話しいただきました。「買物の寸劇とその後の話し合いを通じて、子どもたちが自分の生活に引きつけてものごとを考えるとともに、友だちの考えを知って多様な意見を認めることができるようになった」(小関氏)、「中学校入学の際にかかった金額や進学のために必要な金額を考えさせ、その後自分の筆箱の中にあるものの金額を調べさせると、生徒は、自分たちが勉強する理由を考え直し、ものを大切にしようと考えるようになった」(朝倉氏)、「コンビニエンスストア経営のシミュレーションの授業では、試行錯誤を通して生徒の思考力がつくし、組織論・戦略論にもつながる奥の深さを実感させることができるので、学校説明会でのデモ授業にも取り入れて好評を得ている」といった実例が紹介されました。
これを受けて、樫原学校教育官は、「社会生活を送るための思考力・判断力等を身につけるうえで、こうした実践事例は有効だと思う」、「体験を通じて子どもたちが興味をもって学習することによって、伝えたいことが児童・生徒に定着していく」と評価されました。
金融教育の実効性を上げていくための工夫については、まず樫原学校教育官より、「基礎的・基本的な知識・技能の習得と、思考力・判断力・表現力を身につけるための体験的学習の両方の要素が兼ね備わっていることが重要」、「優れた実践を他の先生が取り入れていくうえで、金融広報中央委員会等の刊行物を活用することも有効」といったポイントが示されました。
続いて先生方より、実践事例に基づき、「『お金は尊い』と言われるだけでは子どもは実感できないが、一日中同じ仕事が続く作業体験を通して、お金を稼ぐ大変さを身を持って知り、自分が普段もらっているお小遣いを見直すことにもつながっていく。このように、知識と意識と行動の3つをバランスよく指導することが大事」(小関氏)、「2時間続きの家庭科の授業で子どもたちの興味・関心を持続させるためにも、生徒同士が気づいたことを発表してそれを聞き合うことなどを通じて、生徒が意欲的に学べるように工夫している。その一方で、大切な点の理解が不十分にならないよう、振り返りの時間を設けることを意識している」(朝倉氏)、「初めから完成度の高い授業にこだわらず、自分ができることをできるところから始めればよいのではないか」、「生徒同士の議論を促し様々な意見を引き出すためにも、授業秩序を乱すと言われかねないような発言も容認している」(篠田氏)といった工夫をご紹介いただきました。
最後に、金融教育を実践するうえでの課題とその対処法についてお話を伺いました。「当初は、『お金の問題は家庭のしつけの一環だから、学校でやらなくてもいいのではないか』と言う保護者もいたが、保護者会で『受け身の生活をしている子どもに自分で考える力を身につけさせるために、金銭やものについて考えさせることは非常に有効だ』と説明し、具体的な授業を参観してもらうことで、理解を得ることができた」(小関氏)、「授業時間に制約がある中で、どのように題材を取捨選択するかをいつも考えている。また、生徒の心を傷つけてしまうことのないよう、様々な家族や家庭の状況に配慮し、1つの例が一般的なものだと思われないように注意している」(朝倉氏)、「同僚の教員や保護者の反対意見に対抗するためにも、なぜ金融教育を行うのかという理論武装は必要であるし、やりたいと思う授業を学習指導要領を根拠にして実践することは可能なはず」、「授業時間が足りないという課題に対しては、教科のねらいは何であり、どうやったら一番効果が上がるのかを客観的に考えたうえで、『選択と集中』の発想で、ワークショップを行う分野や宿題を出すことで対応する分野を選択して工夫していけば、ある程度時間は取れる」(篠田氏)といったアドバイスを各先生からいただきました。
また、樫原学校教育官からは、「小・中・高のどの教科書にもお金の使い方や金融の仕組みなどは書いてあるので、最初から大上段に構えずに、教科書に沿って教えながら徐々に実践していけばよい」、「時間的制約については、行政も環境整備に注力しているものの解決は難しいが、たとえば家庭科と社会科の先生が話し合って互いの教科を理解していけば、制約が厳しい中でも連携して金融教育を効率的に実践することができるのではないか」とのご指摘がありました。
小関禮子講師の前任校における実践事例は、金融広報中央委員会の『はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集-』で紹介されています。
はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集- 1.金融教育入門ガイド(1)小学校における入門ガイド
朝倉京子教諭の実践事例は、金融広報中央委員会の『はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集-』で紹介されています。
はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集- 1.金融教育入門ガイド(3)中学校(技術・家庭<家庭分野>)における入門ガイド