先生のための金融教育セミナー
平成21年度教員のための金融教育セミナー
2.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
分科会2(中学校)
- 進行およびコメント:
- 国立教育政策研究所 工藤 文三 初等中等教育研究部長・教育課程研究センター基礎研究部長(併任)
実践報告およびワークショップ(1)
「起業体験学習『株式会社黒潮』~人とのつながりを大切にした活動を通して~」(3年 総合的な学習の時間)
静岡県静岡市立安東中学校 増田 富 教諭
実践報告
子どもたちが模擬店の会社を設立し運営するという学習を行いました。3年生が社長・社員となって「株式会社黒潮」を設立、保護者を対象として出資を募り、得た資金を、クラスごとに出店した模擬店の運営、宣伝費用、会場警備・場内整理などに充てました。また、豚汁、和菓子などの出店・販売を外部業者に委託しました。
出店当日に予想ほど売れなかったこともあって、利潤は計画の半分となりました。社員の給与を80%、残り20%を株式配当として、1株当たり37円を配当することとし、後日開いた株主総会で承認されました。
人とのつながりの中でどのように社会とかかわっていくかということを、勤労体験を通して子どもたちに考えさせていくことをねらいとする学習です。
ワークショップ
各グループがクレープ店を出すことを想定し、社員、店長、広告担当、外部業者(豚汁販売店長)、株主でクレープを予約した人、株主で予約はしなかった人などの役割を決めました。そして、次年度の再出店に向けて、計画書と決算書を比べながら、1株当たりの配当を増やすための改善点を検討しました。各グループから、「マーケティングをしっかり行うことで、商品ロスをより少なくすることができるのではないか」、「地域の特性などさまざまなニーズに対応した商品開発や、セット販売などの工夫が売り上げ増には必要」、「環境への配慮なども、収支に直接つながらないかもしれないが大事だと思う」といった考えが発表されました。また、「このようなことを子どもに考えさせることが総合的な学習の時間での学習の強みで、販売までできたことは非常に大きなことではないか」という意見が出されました。
コメント
工藤先生からは、「それぞれの役割に沿って考えるということでワークショップが進められたが、これをまとめていくと、企業活動のプロセスに応じた整理もできるのではないか。企業が活動する上では、原材料の仕入れ、価格の設定、販売促進、法令遵守、保健衛生など、考えなければいけない点が多いので、これらをリストアップするだけでも、企業活動に関して押さえるべきポイントがたくさん出てくる。発展形としてはそんなまとめ方もできるのではないか」というコメントがありました。
増田富教諭の実践事例は、金融広報中央委員会の『はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集-』で紹介されています。
はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集- 中学校における実践事例
実践報告およびワークショップ(2)
「企業(会社)を作ってみよう~金融機関の働きに留意して~」(3年 社会<公民的分野>)
東京都港区立朝日中学校 仲村 秀樹 主幹教諭
実践報告
社会における企業の役割と責任とは何か、企業は儲けるだけではいけないのか。銀行はお金を預かっているだけなのか、銀行はどうやって儲けているのか。模擬的な企業づくりを通して、子どもたちが金融の仕組みや働きを理解し、社会における企業の役割と責任について具体的に理解することをねらいとする実践です。
各グループで、設立する会社の名称、業務内容、キャッチフレーズ・資本金・職種・賃金・待遇などを決めて、投資家向け、求人向けの2種類の広告を作り、会社説明会を行います。一方、生徒一人一人が投資家、求職者として、投資や入社を希望する会社のところに付せんをつけます。将来性、収益性、社会貢献、環境配慮などの点について、自分たちの評価が本当に正しいのか、発表の仕方の上手下手に左右されていないかをもう一度見直させた上でまとめることによって、企業の役割と社会的責任は何かということに対する子どもなりの答えが出せるのではないかと考えています。
ワークショップ
各グループで企業づくりの作業を行いました。大まかな会社のコンセプトを話し合い、投資家向けと求人向けのポスターをつくり、発表しました。次に、各自が投資したいと思う会社を選んで、付せんをつけました。参加者からは、「子どもたちに夢や楽しみを与えることのできる学習だと思う」、「地域で実際に中小企業に融資をしている金融機関の職員などに外部のアドバイザーとして加わってもらうと、子どもたちの理解がより深まるのではないか」といった意見が出されました。
コメントおよび分科会総括
工藤先生からは、「全体的に動きがあり、子どもたちの参加場面、自己表現場面もあって、子どもたちの充実感が大変高い授業だと思いました。また、例えば会社づくりを提案するときに、その業種について調べさせる部分があると、企業についての視野も広がっていくのではないかという感じもしました」というコメントがありました。
仲村秀樹主幹教諭の実践事例は、金融広報中央委員会の『金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-』で紹介されています。
金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは- 中学校における金融教育の指導計画例