先生のための金融教育セミナー
平成21年度教員のための金融教育セミナー
1.来賓挨拶/パネル・ディスカッション
(1) 来賓挨拶
文部科学省初等中等教育局の梶山正司視学官よりご挨拶をいただきました。まず、学習指導要領の平成20~21年改訂について、「知識基盤社会」の時代において「生きる力」をはぐくむことがますます重要になっているという認識のもとで、教育内容の改善が図られたというお話がありました。
続いて、新学習指導要領において経済や金融に関する記述の充実が図られたことを、小・中学校、高等学校の社会科・公民科、家庭科の具体例を挙げながら説明されました。そして、経済や金融に関する教育のさらなる発展のために、(1)調べ学習、施設見学、体験的な学習や問題解決的な学習を積極的に取り入れること、(2)金融広報中央委員会等による補助教材や資料を活用すること、(3)専門家による授業支援や研修の機会を活用することが効果的であるとのお話をいただきました。
(2) パネル・ディスカッション
「子どもをめぐる社会環境と学校における金融教育」をテーマとするパネル・ディスカッションを行いました。パネリストは、国立教育政策研究所 初等中等教育研究部長・教育課程研究センター基礎研究部長の工藤文三氏、東京都目黒区立目黒中央中学校教諭の三枝利多氏、弁護士の宇都宮健児氏。コーディネーターは、金融広報中央委員会事務局長の河野圭志が務めました。
まず、社会環境の変化と子どもの変容について、「社会の流動性が高まり、情報をめぐる環境も変化しているため、従来の金銭教育ではうまく対応できない状況になっている」(工藤氏)、「大人社会は自己決定を迫る方向に動いているが、自分のことが自分でできない子どもが増えており、携帯メールの普及の影響などで子どものコミュニケーション能力も落ちている」(三枝氏)、「安易に借金できる仕組みがある一方で多重債務に陥った際の相談窓口が知られていないため、生活・借金苦による20~30歳代の自殺が増えている。社会的に孤立して友人がいないという『関係の貧困』も若年層に広がっており、『生きる力』をはぐくむ教育が重要になっている」(宇都宮氏)との認識が示されました。
このような環境変化を踏まえて、金融教育の課題・役割として、「小学校から高等学校までのさまざまな活動の累積を通じて、全体として金融教育のねらいを実現することが重要」(工藤氏)、「金融教育を通じて主体的に判断する場面を設定し、自分と周囲との関わりに気づかせることで、『選択』する力を養うことができる」(三枝氏)、「他の選択肢があることを知らないから高利の融資を利用してしまう。他の選択肢があることや、やむを得ず利用してしまったときの相談窓口を、ぜひ学校で具体的に教えてほしい」(宇都宮氏)と話されました。
次に、新学習指導要領における金融教育のポイントについては、「金融教育を学習指導要領に明示的に盛り込むことはできないが、金融教育のきっかけとなる芽は小学校社会科の『販売者の側の工夫』など各所にあるので、そこを起点として実践していってほしい」(工藤氏)、「中学校社会科で現行の学習指導要領と比べると、『効率と公正』、『契約の重要性』、『金融の仕組み』などが盛り込まれて一連のストーリーとして教えやすくなった」(三枝氏)、「高等学校の家庭科で多重債務等の『消費者信用をめぐる問題』が盛り込まれたことは非常に有意義だが、学習指導要領は抽象的なので、具体的には利息制限法や労働基準法などで定められた権利を教えていくことが重要だ」(宇都宮氏)と、各氏より具体的なお話をいただきました。
最後に、金融教育の意義や手ごたえ、金融教育を進めるうえでの工夫について、「『家計のシミュレーションゲームと模擬商談』という実践の後の生徒感想文を読むと、生徒が選択の重要性、責任、計画の大切さ、勤労の意義、経済の循環等に気づいたことがわかり、手ごたえを実感することができた」(三枝氏)、「クレジットカードを通じて信用の仕組みを理解するなど、汎用性のあるテーマを徹底的に掘り下げて教材研究することが有効」(工藤氏)、「出前講師を活用して、弁護士や司法書士などの生々しい話を聞いてほしい」(宇都宮氏)とのお話がありました。