先生のための金融教育セミナー
平成21年度教員のための金融教育セミナー
2.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
分科会3(高等学校)
- 進行およびコメント:
- 横浜国立大学教育人間科学部 西村 隆男 教授
実践報告およびワークショップ(1)
「『フェア(公正)』な経済行為とは、そして『お金』とは?
~経済ニュースからアプローチする『金融経済学習』~」(1年 公民<現代社会>)
神奈川県立海老名高等学校 梶ケ谷 穣 教諭
実践報告
新学習指導要領には「個人や企業の経済活動における役割と責任」という視点が盛り込まれました。現代の経済活動においては、企業だけでなく一般国民、消費者、投資家もそれなりの責任を果たすことが求められています。授業では、粉飾決算、株式取引の誤発注などの経済ニュースを活用し、合法的な経済行為は常にフェアな経済行為といえるのか、法に違反しなければどのような経済行為でも市場では許されるのかを生徒に考えさせました。
授業の導入時とまとめ時に生徒39人からアンケートをとったところ、「一獲千金を目指す」は8人から3人に減った一方、「生活できるだけのお金があればいい」は2人から11人に増えており、全体的に健全な金銭感覚が身についてきたように思われます。
ワークショップ
「投機行為に対する是非」、「違法ではないが公正の観点からは疑問である事例」について、想定される生徒の意見、それに対する説明・指導内容、課題に対するまとめを考えました。
参加者からは、「パレート効率性の議論を授業に取り入れて所得の再分配を考えさせたらどうか」、「いろいろな問題を教師が提示した上で、生徒の自発的な意見や感想を引き出すとよいのではないか」、「証券会社や銀行の方を授業に招いたらどうか」、「コンサートのチケットをネットオークションで売買するケースを例にとったらどうか」などの意見が出ました。
コメント
西村教授から、「フェアな経済行為とは何かという議論には正解があるわけではなく、まさに問題解決型の学習だ。大いに生徒たちに議論してもらい、自分自身の問題としてとらえさせ、それぞれがそれなりの考えをもつことが重要だ。それにより洞察力と倫理観を養い、子どもなりに社会に参画するという意識をもたせていく。新学習指導要領の家庭科の解説書の中には、『代表的な金融商品やそのリスクについて学ぶ』という項目が入れられた。経済社会の中のリスクを生徒に積極的に提示していただきたい」というお話がありました。
梶ヶ谷穣教諭の実践事例は、金融広報中央委員会の『はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集-』で紹介されています。
はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集- 高等学校における実践事例
実践報告およびワークショップ(2)
「生徒自主開発商品『オリジナル鞄』の開発・販売
~近江商人の『三方よし』を実践し、お金を得る喜びを体験しよう~」(3年 商業 <課題研究>)
滋賀県立大津商業高等学校 田村 光宏 教諭
実践報告
リスクが生徒を育てるという考え方に立ち、平成18年度に3年生のベンチャービジネス講座で「大商オリジナル鞄」を開発・販売しました。まず何をつくるかを考え、全校生徒のニーズ調査、商品デザイン決定、製作業者選定、業者との交渉、生徒会からの資金の借り入れ、販売価格設定、サンプル展示、予約販売、注文、商品引き渡し、収支報告書の作成という流れで進めました。金融教育を通して教えたいことは、近江商人の「三方よし」、「薄利多売」、「陰徳善事」、ロスチャイルドの「富者の義務」、マーシャルの「経済騎士道」の考え方です。「三方よし」とは適正価格での販売による「売り手よし、買い手よし、世間よし」という考え方で、お金儲けやお金を使う行為は人々の明日の幸せに貢献するものでなければならないという考えを生徒にもってほしいと考えています。
ワークショップ
各グループが考えた高校生向けの「オリジナル鞄」を画用紙に描き、価格、個数、利益、コンセプト、ネーミングを決めて、それぞれ発表しました。ペットボトルからつくった「エコペットバッグ」、売り上げの一部を中国の四川省のパンダに寄附する「カパンダ」、イラストや文字が描いて消せる素材の「マイバッグ」、表はスイカ模様で裏返すと黒の「1年じゅう使えるバッグ」等、それぞれユニークなバッグが紹介されました。
コメントおよび分科会総括
西村教授から、「公民では経済活動における役割と責任の問題、商業科では実体経済の中で企業経営を実践していくプロセスを扱った実践の報告があった。責任をとることができる大人になるためには、パーソナルファイナンスの教育も重要である。消費者金融の広告のからくりを的確に見抜く力をもち、携帯電話やインターネットのプラス面とマイナス面を知って、しっかりと使いこなしていく。日本でもこのようなことを学校で教える必要があるという考えがようやく広がってきた。家庭科、社会科、商業科等々の協力のもと、新しい科目をつくることも今検討課題に上っており、これからの社会に向かって我々が考えていかなければならない方向性が示唆されている」とのお話がありました。
田村光宏教諭の実践事例は、金融広報中央委員会の『はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集-』で紹介されています。
はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集- 高等学校における実践事例