介護にまつわる基礎知識~介護保険、成年後見、福祉サービス~
介護を取り巻く環境
介護保険制度の創設(2000年4月)から約20年、この間の長命化で65歳以上(以下、高齢者)の人口が増えるにつれて、要介護認定者の増加や介護期間の長期化等により介護ニーズはますます増大するなど、介護を取り巻く環境は、大きく変わってきています。
介護される側の状況
2025年には高齢者の5人に1人が認知症
日本の総人口は、2011年以降減少し、直近(2017年9月15日現在)の推計では1億2,671万人です。一方、高齢者は、1950年以降増加を続け、直近の推計では3,514万人です。これらの結果、総人口に占める高齢者人口は27.7%と、過去最高を記録しています。
今後、高齢化がさらに進むと、団塊の世代が75歳以上となる2025年には認知症患者が約700万人と、高齢者の約5人に1人が認知症になると推定されています。
年 | 各年齢層の認知症有病率が 一定の場合の将来推計 |
各年齢層の認知症有病率が 上昇する場合の将来推計 |
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2012年 | 462万人 (15.0%) |
462万人 (15.0%) |
2015年 | 517万人 (15.2%) |
525万人 (15.5%) |
2020年 | 602万人 (16.7%) |
631万人 (17.5%) |
2025年 | 675万人 (18.5%) |
730万人 (20.0%) |
2030年 | 744万人 (20.2%) |
830万人 (22.5%) |
2040年 | 802万人 (20.7%) |
953万人 (24.6%) |
2050年 | 797万人 (21.1%) |
1,016万人 (27.0%) |
2060年 | 850万人 (24.5%) |
1,154万人 (33.3%) |
- かっこ内は有病率(ある一時点において疾病を有している人の割合)
二宮利治ほか「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業)をもとに作成
要介護等認定者数の約7割が女性
要介護・要支援認定者数は、2016年(平成28年)度末現在、約619万人となっています。
このうち、女性が占める割合は約7割です。
女性 | 男性 | 計 | |
---|---|---|---|
65歳以上 (介護保険の 第1号被保険者) |
429.4万人 | 189.3万人 | 618.7万人 |
40 歳以上65歳未満 (同第2号被保険者) |
6.0万人 | 7.2万人 | 13.3万人 |
計 | 435.4万人 (68.9%) |
196.6万人 (31.1%) |
632.0万人 |
厚生労働省「介護保険事業状況報告(年報)」平成28 年度をもとに作成
介護する側の状況
介護を機に転職・離職した人は年間約10万人、うち8割が女性
2017(平成29)年の総務省「就業構造基本調査」によると、雇用者で介護をしている人は299.9万人、性別でみると女性が173.2万人、男性が126.7万人となっています。さらに年齢別では、男女とも「55歳~59歳」が最も多い状況です。
こうした中、過去1年間(2016(平成28)年10月から2017(平成29)年9月までの間)に家族の介護や看護を理由に転職・離職した人は9.9万人で、うち約8割(7.5万人)が女性です。
介護を機に仕事をやめた人の半数以上は「仕事を続けたかった」
2012(平成24)年の厚生労働省委託調査「仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書(労働者調査)」によると、介護を機に仕事をやめた人の5割以上(女性55.7%、男性56.0%)は「仕事を続けたかった」としています。
また、離職の理由としては、「仕事と手助け・介護の両立が難しい職場だった」が最も多く、次いで「自分の心身の健康状態の悪化」となっています(下図参照)。
厚生労働省委託調査「仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書(労働者調査)」平成24年をもとに作成
「介護離職」をしないために、させないために ~制度を知って利用しよう~
「介護離職」とは、家族の介護を理由に会社員などが仕事をやめてしまうことです。
介護はいつ終わるか分かりません。介護を続ける人の不安は相当なものでしょう。高齢化により、今や誰もが直面する可能性がある家族の介護。そのときになってから困らないためにも、早めの準備が大切です。
自分が40歳になった(すなわち、介護保険の第2号被保険者になった)とき、または、親が65歳になった(介護保険の第1号被保険者になり「介護保険証」が届いた)ときを機会に、介護について話し合っておくとよいでしょう。
あわせて「エンディングノート」をお互いに作成しておくのもよいかも知れません。
働く人を応援する制度は徐々に整いつつあります。
介護即離職と考えず、できる限り制度を上手に利用して、介護をしている期間はゆったりと働く選択肢があってよいかも知れません。
不安が頭をよぎったら1人で抱え込まずに、職場の上司、人事部、自分の居住地や両親の居住地の地域包括支援センターなどに相談しましょう。話すことで多面的なアドバイスがもらえ、柔軟な対応も可能になります。長期になりがちな介護だからこそ、自分のことも大切に、仕事と介護の両立を支援する「介護休業」や「介護休暇」など職場の制度も利用していきましょう。
介護離職した場合の老齢年金額
公的老齢年金の受給額は、支払った保険料、すなわち加入期間と加入期間中の給与・賞与額で決まります。したがって、退職までフルに保険料を払い続けた場合と、40歳代や50歳代で離職する場合とでは、離職する場合のほうが将来もらう年金額は当然に少なくなります。
下図は、20歳で就職して厚生年金に加入した人が、50歳で離職(退職後の10年は、国民年金の保険料免除と仮定)した場合と、60歳の定年退職まで(プラス10年間)働き続けた場合の、年金受給額のイメージです。この例では、50歳で離職した場合の年金受給額が、定年まで働き続けた場合よりも約40万円少なくなっています。
親の遺族年金を子は受給できない
例えば、父親が亡くなった後、母親は(父親=母親の夫の)遺族年金を受給することになります。では、母親(=父親の妻)も亡くなったとき、50歳の子はその遺族年金を継続して受給できるでしょうか?答えは「ノー(受給できない)」です。
以上のように、親の介護で子が離職を選択した場合、離職以降の子の収入は大きく限られます。子の人生は親の介護が終わった後も続き、子には子の老後が訪れることを視野に入れておきましょう。
子を持つ親としては、自身が持っているお金を活かして介護サービスを上手に利用し、その間を子に協力してもらうという視点が大切です。一方、親を支える子については、「離職してから相談」ではなく、「離職する前に相談」が原則です。
親子それぞれが都合の良い期待をするのではなく、親子一緒に様々なケースを想定し、お互いの疑問点を書き出し、相談しておくことが大切です。
介護休業制度と介護休業給付
仕事と介護の両立を支援し、介護離職を防止する制度として、「介護休業制度」があります。また、雇用保険においては介護休業を取得した場合に「介護休業給付」の支給を受けることができます。これらを積極的に利用しましょう。
介護休業制度
介護休業は、要介護状態にある対象家族を介護するための休業で、法律(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)により定められています。勤務先の就業規則などに具体的な制度が記載されていますので、確認しておきましょう。
項目 | 内容 |
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要介護状態 |
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対象家族の範囲 |
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休業期間 |
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介護休暇 |
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介護のための所定労働時間の短縮措置等(選択的措置義務) |
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介護のための所定外労働(残業)の免除、時間外労働・深夜業の制限 |
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厚生労働省資料をもとに作成
介護休業給付
介護休業給付は、介護休業終了後に勤務先(事業主)を通じて申請を行います。申請手続きの詳細については、勤務先の人事部等に確認しましょう。
- 原則、介護休業開始前6か月間の賃金を180日で除した(割り算した)額
- 30日(ただし、休業終了日の属する月は休業終了日までの日数)
- 上限 329,841円(2017年8月1日~2018年7月31日)
事業主から支給された賃金額の休業開始時賃金額月額に対する割合 | 介護休業給付支給額 |
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13%以下 | 賃金月額×67% |
13%を超え80%未満 | 「賃金月額×80%」と「事業主から支給された賃金」との差額 |
80%以上 | 支給なし |
コラム高齢社会対策大綱
長くなった人生を豊かに過ごしてもらうために、国は今後年齢に関係なく誰もが地域でイキイキ暮らせる環境づくりとして、高齢社会対策の指針となる「高齢社会対策大綱」(2018年2月16日閣議決定)をまとめました。各分野別の基本施策のうち、福祉・健康分野における基本的施策や数値目標などは以下のとおりです。
施策 | 数値目標 |
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健康寿命を1歳以上延伸(2020年)、 2歳以上延伸(2025年) ※2013年の健康寿命:女性74.21歳、男性71.19歳 |
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持続可能な高齢者医療制度の運営 | ― |
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住民等を中心とした地域の支え合いの仕組み作りの促進 | ― |
内閣府「高齢社会対策大綱」をもとに作成