介護にまつわる基礎知識~介護保険、成年後見、福祉サービス~
福祉サービス支援事業(地域福祉権利擁護事業)
いきなり成年後見制度を利用することは敷居が高いと思うとき
成年後見制度の利用には、家庭裁判所への報告義務、弁護士・司法書士・社会福祉士などに依頼した場合の報酬、家庭裁判所への申立てや、ときに医師の鑑定費用も必要となります。
本人の状況・資産などから、いきなり成年後見制度を利用することは敷居が高いと思われる人は、都道府県の社会福祉協議会を窓口とする「福祉サービス支援事業」を利用するのもいいでしょう。
「福祉サービス支援事業」は、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等で判断能力が不十分な人(但し、ある程度の契約能力が必要)が、地域で自立した生活を送れるよう、福祉サービスの利用や日常的な金銭管理などの援助をします。
成年後見制度と似ていますが、支援の範囲が以下のように限られています。相談は無料、支援は原則利用料が必要ですが安価(訪問1回当たり1,200円ほど)です。
- 福祉サービスの相談や利用援助
- 大切な書類や証書、印鑑の預かりサービス
- 年金や各種手当ての受取り、福祉サービス利用料など日常的金銭管理サービス等
ケーススタディー認知症 要介護2の橋本洋子さん(90歳)の場合
1Kの賃貸アパートに1人で住んでいた洋子さんは、これまでずっと独身で若い時は小さな商店の事務の仕事をしていました。国民年金未加入で無年金ですが、当座の暮らしの維持には問題ない預貯金額があります。弟妹2人が存命ですが離れて暮らしています。
80歳過ぎから週2回デイサービスを利用、夕食は宅配を利用していました。
徐々に認知症の症状が出始め、物取られ症状が頻繁になり隣室とのトラブルも増え、お金のほか、食事と薬の管理などができなくなり、家庭裁判所に弟妹が申立て、成年後見制度を利用することとなりました。類型は「保佐」、保佐人はA社会福祉士となりました。
その後、在宅がますます難しくなり、福祉関係者全員で認知症のグループホームの入居を検討しますが、本人の同意は得られません。
ある夜、ベランダの側の大きな窓ガラスに寝ぼけてぶつかった洋子さんがケガをしたことから、やっと本人も在宅は無理と感じ、グループホームに移ることができました。
グループホーム入居後、Aさんが定期訪問するたびに本人は、「ここに来て良かった」、「隣にお風呂があるのよ」、「食事が美味しいのよ」、「仲間がいるから楽しいのよ」とAさんに報告してくれます。あんなにグループホームの入居を嫌がった人と同じ人とは思えません。この施設は、レクリエーションも多く、何か起これば職員が即対応してくれ助かります。施設に入居させることを、後ろめたく思っている人が多いのも事実ですが、洋子さんの場合、施設の暮らしを単に知らなかっただけみたいです。
月支出(6万円+保佐人報酬分)は増えましたが、安心快適な生活を得ました。
賃貸アパートでの暮らし | 月額 | グループホームでの 暮らし |
月額 |
---|---|---|---|
アパート代 | 4.5万円 | グループホーム代 (介護サービス費等含) |
20万円※ |
本人生活費 | 4.5万円 | ||
介護サービス費・弁当代 等 | 5万円 |
- 別途保佐人報酬要(通常月額2万円程度だが、管理財産額、本人に対する支援内容等により異なる)。
その後洋子さんは要介護3になり、特別養護老人ホームに入所できました。施設(多床室)代は月約6万円、うち高額介護サービス費の戻りが約1万円、実質負担は月約5万円です。
保佐人のAさんは、洋子さんの状況を見守りつつ、時に福祉関係者と連携し、グループホームや特別養護老人ホーム探し、入居(入所)の手続き、住民票の異動、介護・医療保険の手続きなどを行いました。成年後見制度の利用で洋子さんの暮らしは守られています。
コラム最期まで自分らしく暮らす ~ キーワードは早めの準備
老後の不安3K ~ 健康(介護)・お金(経済)・孤独
65歳以上の第1号被保険者に占める要介護者等(要介護・要支援認定者 2016年末)は17.9%、75歳以上が32.5%と要介護等の認定を受ける人が増えており、実際、多くの人は自分が介護を受けることを心配し不安を抱いていることと思います。
今から、高齢期の壁の75歳を目標にできる限り介護を受ける期間を短くする出会い(介護予防)にトライしてもいいでしょう。地域には、手・口・頭・体などを使う安価で楽しめるサークルが目白押しです。楽しむ生活習慣を自分で身につけましょう。
人との出会いは何より生活を活性化させます。新しい仲間が増え、生きがいも増え、居場所がある幸せです。
併せて、介護予防事業には、介護認定を受けていない高齢者が少しでも元気に暮らせるよう、運動や機能訓練などの教室、栄養改善の指導、自主サークルへの参加のお願い、地域ボランティア育成のための研修なども実施しています。
社会福祉協議会で「寿大学」などを実施しているところもあります。
メニューは、中国語、書道、陶芸、英会話、絵手紙、折り紙、体幹ストレッチ、ヨガ、キーボード(ピアノ)、初めてのパソコン、料理(男性限定)等・・・。楽しみが一杯です。
介護予防 ~老化のサインに気づくことから~
- 日常生活のいろんなことに対する対応が遅くなってきた
- 外出がおっくうになってきた
- もの忘れが増えてきた
- 食べる量が減り、食生活がパターン化し工夫がなくなってきた
- つまずいたり転びやすくなったり、歩く速度が遅くなってきた
- 食べものや飲み物にむせやすくなった
- スラスラと字が書けない、思いだせなくなってきた
- うとうとする時間が多くなってきた・・・
高齢期を楽しく生き抜くには、閉じこもらないで誰とでも交流できるコミュニケーション能力を若いときから磨いておくことも大切でしょう。いろんな人との出会いが生活を活性化し、介護期間も短くなり、介護にかかるお金も減り、孤独の不安も減ります。
老化は、生存していれば、誰にも確実に訪れます。しかし、自分では気づかない、または認めたくないのも現実です。気になることがあれば、早めに社会福祉協議会や地域包括支援センターなどに相談するとよいでしょう。最期まで自分らしく暮らすために、地域の情報を集め、介護保険の制度も上手に利用していただければと思います。