金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(2023年10月改訂版)
4.金融教育の指導計画の作成と実施に向けて
(2)各教科等の学習と金融教育
③ 総合的な学習(探究)の時間と金融教育
ア.総合的な学習(探究)の時間の性格と金融教育
総合的な学習の時間(高等学校においては総合的な探究の時間)は、各学校が創意工夫を生かして、地域や学校の実態、児童生徒の特性等に応じて、横断的・総合的な学習や児童生徒の興味・関心に基づく学習を実施する時間とされている。金融教育を総合的な学習(探究)の時間で扱う場合の特色は次の通りである。
金融教育を他教科等で扱う場合、それぞれの教科等のねらいをおさえながら、関連する事項に金融教育の視点を位置付けて取り扱うことになる。この点、総合的な学習(探究)の時間では、横断的・総合的な課題や児童生徒の興味・関心等に基づく課題、職業や自己の将来に関する話題などを取り上げることが可能であり、金融教育の内容を、ある程度まとまった時間をとって、集中的に、かつ多面的・多角的に取り扱うことが可能である。
また、総合的な学習(探究)の時間においては、見学・調査、発表や討論、ものづくりや生産活動等の幅広い体験が重視されている。さらに、地域の施設の活用や各種団体との連携も求められている。金融教育を進める場合、これらの総合的な学習(探究)の時間の特色を生かした展開を行うようにしたい。
このような特色を生かしながら、金融教育を総合的な学習(探究)の時間において展開する場合、次の点に配慮することが大切である。
イ.金融教育の目標、内容を明確にし、全体計画に位置付ける
総合的な学習(探究)の時間は、児童生徒が「探究的な(探究の)見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための(自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための)資質・能力」(カッコ内は高等学校)を身に付けることをねらいにしている。学習の特色は児童生徒の主体的・創造的な学習にあるが、児童生徒の主体性を重視するあまり、身に付けるべき目標が不明確になったり、扱う課題が拡散したりすることのないように、学習のゴールを設定し明示することが必要である。
金融教育として展開する場合、学習を通じて児童生徒に気付かせたいことは何か、身に付けさせたい資質・能力は何か、関心をもたせたいことは何か、自分の問題として考えさせたいことは何か、などの点について、十分吟味し明確にすることが必要である。また、豊かな体験を準備することは重要であるが、それはどのような指導内容と結び付いているのかを明確にしておくことも大切である。
一方、総合的な学習(探究)の時間の実施に当たっては、学校としての全体計画を作成する必要がある。全体計画を作成することによって、各学校における総合的な学習(探究)の時間のねらいや実施の方針が明確になるとともに、事後の評価・点検・改善の拠り所ともなる。全体計画においては、学校としての基本的な考え方や目標を明確にすると同時に、重点的に実施する教科、具体的な指導内容、指導体制や指導方法、評価の方法等を明確にすることが必要である。
ウ.他教科等との関連を明確にする
総合的な学習(探究)の時間では、「各学校において定める目標及び内容については、他教科等の目標及び内容との違いに留意しつつ、他教科等で育成を目指す資質・能力との関連を重視すること」や、「日常生活(地域)や社会との関わりを重視すること」とされている。金融教育を総合的な学習(探究)の時間において実施する場合、各教科、特別の教科 道徳、特別活動などとの関連を明確にする必要がある。具体的には、金融教育の目標、内容を設定する際に、他教科等で身に付ける知識や技能等との関連を洗い出し、どのように関連するのか、あるいは関連させるのかを明らかにする。
例えば、国語科で培われる表現力やコミュニケーション能力と、総合的な学習(探究)の時間における発表活動やレポート作成の活動との関連を明確にすることが考えられる。社会科や公民科、家庭科などは指導内容として金融・経済に関するものを含んでおり、総合的な学習(探究)の時間における学習課題やテーマと内容面で関連する。算数科・数学科は、数理的な処理や数学的な見方・考え方を総合的な学習(探究)の時間で生かす場面が想定される。特別活動については、勤労生産・奉仕的行事と総合的な学習(探究)の時間における体験的な学習との関連が想定される。いずれにしても各教科等と総合的な学習(探究)の時間の関連を、総合的な学習(探究)の時間の全体計画や年間指導計画にできるだけ具体的に示すことが必要である。
エ.体験的な学習を重視する
総合的な学習(探究)の時間では、「体験活動、観察・実験、見学や調査、発表や討論などの学習活動を積極的に取り入れること」とされている。この趣旨を生かし、総合的な学習(探究)の時間における金融教育については、例えば、金融や経済、生活設計や家計管理、消費者保護等に関するテーマを具体的に設定し、児童生徒による調べ学習や調査研究、関係施設の見学、調べた結果の発表等の学習活動を展開することが考えられる。その際、グループごとにテーマを設定したり、一人一人がテーマを設定したりして学習を進めるなど、学習集団の編成方法にも配慮したい。
これらの学習を展開する際には、テーマの設定、調べ方の吟味、計画の作成、結果のまとめ方及び発表などの学習場面で、教師が適切な指導と助言を行うことが大切である。
オ.地域の施設等との連携や人材の活用
総合的な学習(探究)の時間の実施に当たっては、学校図書館の活用、地域の公民館、図書館等の社会教育施設や各種団体との連携、地域の教材や学習環境の積極的な活用などについて工夫することとされている。総合的な学習(探究)の時間において金融に関する学習を展開する場合、調べ学習等については、ICTの活用に加え、図書館を有効に活用するようにしたい。また、地域における事業所の協力を得て、訪問やインタビューの活動を行ったり、校外講師として授業への協力を依頼したりすることも考えられる。さらに、自治体の消費生活センター等と連携して、消費者保護に関する情報提供を受けることが考えられる。
金融・経済に関する内容は難解で専門的との印象があるが、地域でこの分野の実務を担っている人材の協力を得て授業を進めることによって、児童生徒の理解をより具体的で納得したものにすることができる。