―目前に迫る「成年年齢引下げ」―
新成人に起こり得る消費者トラブルと対策を親子で学ぶ
(成年年齢引下げで懸念される新成人の消費者トラブル拡大)
18歳で成年になる意味と成年年齢引下げの具体的内容
2018年6月、若者の自己決定権を尊重し積極的な社会参加を促すことを目的として、成年年齢を18歳に引き下げる改正民法が成立。
2022年4月の施行が目前に迫っています。
民法の成年年齢には、「1人で有効な契約ができる年齢」、「親権に服さなくなる年齢」という意味があります。
(18歳でできること、できないこと)
未成年者が契約など有効な法律行為を行うには、原則として法定代理人(親など)の同意が必要ですが、成年年齢引下げが施行されると18歳から成年となり、これまで制約されていたさまざまな法律行為が親などの同意なく行えるようになります。
ただし、クレジットカードやローンなどでは、各事業者が支払い能力や返済能力の審査を行い判断するため、法律上は契約可能でも、実際には契約できないことがあります。
また健康面への影響や非行防止、青少年保護などの観点から、現行と変わらず20歳にならないとできないことも知っておきましょう【図表1】。
20歳から18歳に引き下げられるもの | 20歳が維持されるもの |
---|---|
|
|
成年年齢引下げによる消費者トラブル拡大の懸念
未成年者が親などの同意を得ないまま契約をした場合、民法第5条に規定された「未成年者取消権」によって、原則、契約を取り消すことができます。
この取消権は、未成年者を保護(消費者被害を抑止・救済)する役割を果たしていますが、成年になると適用されなくなります。
この取消権が適用されなくなったばかりの新成人は、悪質業者に狙われやすく、社会経験や消費者知識が乏しいこともあって、内容をよく理解しないまま安易に契約を結んでしまい、消費者トラブルに巻き込まれるケースが多くあります。
(若年層の消費トラブル被害拡大懸念)
国民生活センターによりますと、成人になりたての若者(20~24歳)の消費生活相談件数は、未成年(18・19歳)に比べて約1.5倍にもなります。
今後、成年年齢引下げによって現在より2年早く新成人になる若者は、現在の新成人よりさらに社会経験が不足しているため、新成人の消費者被害がこれまで以上に広がるのではないかと懸念されています。
消費者トラブルを避け、また万が一巻き込まれた場合でも正しい対策を講じられるように、起こり得る消費者トラブルについての知識を、早くから深めておくことが非常に重要です。
18歳の新成人に起こり得る消費者トラブルとは
現在の新成人に起きている消費者トラブルは、18歳の新成人にも起こり得ると考えられます。
成人になりたての若者(20~24歳)の消費者トラブルの特徴は、情報商材(副業や投資等で高額収入を得るためのノウハウと称してインターネットで販売される情報)や暗号資産の投資、マルチ商法などの「儲け話関連」、エステティックや医療脱毛などの「美容・医療関連」、定期購入トラブルが多発している「インターネット通販関連」のトラブル相談が多く、注意が必要です(国民生活センター調べ)。
若年者によく起きる消費者トラブルをまとめましたので、参考にしてください
儲け話関連のトラブル (情報商材、暗号資産投資、マルチ商法など) |
---|
SNS広告などで「簡単に稼ぐ方法」といった情報商材や暗号資産の投資に高額で契約したが、説明内容と違って儲からなかったり、投資した資金の出金ができなくなったりする。また、販売組織に加入する友人や知人から「絶対儲かる」などと言って販売組織に勧誘されたり、商品を購入させられる悪質なマルチ商法トラブルも多数報告されている。 |
美容・医療関連のトラブル (エステティックサービス、医療脱毛、包茎手術など) |
「脱毛エステの無料体験を受けた後、高額のコースをしつこく勧誘されて契約してしまった」、「包茎手術5万円の広告を見て無料相談に行き、手術代20万円と言われたが断れずに手術した」など、高額な料金や解約に応じてくれないといった契約に関するトラブルが多い。 |
インターネット通販関連のトラブル (定期購入、模倣品など) |
近年、「初回500円というSNS広告を見て健康食品を購入したが、実は定期購入の契約になっていて高額な代金を請求された」といった詐欺的な定期購入商法が急増。「フリマサイトで模倣品を買わされた」、「偽の通販サイト(フィッシングサイト)で個人情報を盗まれた」など、インターネット通販関連のトラブルは多岐にわたる。 |
(学校内でマルチ商法の被害が拡大する可能性も)
成年年齢引下げが施行されると、高等学校では成年と未成年の生徒が混在し、悪質なマルチ商法の被害が校内に広がる可能性があります。
小遣い稼ぎのつもりで悪質なマルチ商法に手を出してしまった高校生が、遊び感覚で学校の友人を勧誘し、勧誘される側も、声をかけてくるのが同級生ということで警戒心が薄れて安易に契約してしまい、消費者トラブルに巻き込まれるケースが出てくると予想されます。
18歳を迎えていると未成年者取消権は適用されず、消費者トラブルの被害回復が難しいため、十分に注意していただきたいと思います。
(身近にひそむ消費者トラブルの要因)
また、トラブルのきっかけがSNSというケースがここ数年で急激に増加しており、今後さらに増えると思われます。
現代の若者にとって、SNSは主要なコミュニケーションの場であり、だれでも手軽に活用できる反面、悪質業者も簡単に紛れ込めるので注意が必要です。
しかし、若者はSNSに慣れているせいか、素性のわからない人でも簡単に信用してしまう傾向が強いように感じます。
(相談事例(クレ・サラ強要商法))
参考として、こちらの相談事例を紹介します。
「相談者は20代前半の男性で、見知らぬ女性がSNSで連絡をとってきました。
その女性は趣味など共通点が多く話も合うので、男性は好意を持ちます。
実はその女性は、詐欺的な投資の勧誘が目的で、事前に男性のSNSをチェックし、男性の嗜好を把握していたのです。
ある日女性から『簡単に稼げる』と投資の勧誘をされ、男性は乗り気がしないので『お金がない』と断りましたが、女性からお金が借りられる方法を紹介されました。
結局男性は、お金を借りて女性に渡してしまい、お金をだまし取られてしまったのです」。
借金をさせて強引に契約を結ばせる!若者を狙うクレ・サラ強要商法
(最も注意すべきは「お金を借りること」)
この事例は、SNSを悪用した「クレ・サラ強要商法」の手口ですが、新成人が行えるようになる法律行為の中で、もっとも注意すべきは「お金を借りること」だと考えます。
「借金」という消費者トラブルは、本人の将来に大きな禍根を残す可能性が高いからです。
例えば、悪質商法による消費者トラブルに遭ってしまっても、解約したり返金の交渉をするなど、何らかの解決の糸口があります。
しかし、貸金業者からお金を借りた場合、返済義務を取り消せるケースはほとんどありません。
返済できない場合は債務整理(債務の減額や免除、支払期限の猶予等)をすることになりますが、一度債務整理をすればいわゆるブラックリストと呼ばれる事故情報が信用情報機関に登録され、一定期間借入れができなくなります。
仕事で必要な車のローンが組めずに就職できない人や、内定が取消しになった人もいます。
そうした相談を受けるたびに、お金を借りる危険性について啓発する必要性を強く感じます。