先生のための金融教育セミナー
第4回 「金融に関する消費者教育セミナー」 (東京)
実践例報告およびワークショップ
(1)金融に関わる「消費者」として考える、「起業」、「契約」──『これであなたもひとり立ち』を使って──
神奈川県立海老名高等学校教諭 梶ヶ谷穣
高等学校・公民科の『現代社会』と『政治・経済』の両科目では、経済主体としての企業の役割や企業に関する法制度、現状を学習する「現代の企業」と、貨幣や金融制度、金融市場、さらに中央銀行と金融政策などを学習する「金融の役割」という学習項目があります。また教科書の中には、後者の「金融の役割」に関して「金融の自由化・国際化」という項目を立てて詳述しています。
そこで、「企業」と「金融」の両分野の学習内容をベースに、「起業」という横断的なテーマでグループ学習を実施してみました。
会社や「起業」学習については、『これであなたもひとり立ち』のワーク14にも掲載されています。実際の授業では、『高校生のファイナンス入門』や新聞記事なども活用して、例えば企業の社会的責任(CSR)やコーポレート・ガバナンス、ディスクロージャー、コンプライアンス(法令順守)、さらにハイリスク・ハイリターンやSRI(社会的責任投資)などの概要についても学習させました。
この「起業」のグループ学習を実施して驚いたのは、多くの生徒が会社を創ることについて、ものすごく興味や関心を持っていたことです。生徒の中には、実際に書店に行って、例えば『小さな会社をつくるには…』とか『週末起業のしかた…』などのビジネス書を参考に、積極的に学習していました。
また、このグループ学習が展開する中で、同種の企業・ビジネスを立ち上げるグループ同士が学習途中で合併したり、またイラストやマンガを特技とする生徒が、設立しようとする会社のロゴマークの作成を担当するなど、グループ内での分業も見受けられたことなどは、非常に興味深かったといえます。
さらに『これであなたもひとり立ち』のワーク14に関連して、生徒に「もしあなたが、30万円の資金を持っていたら、どういう貯蓄・投資をしますか」という課題も提示してみました。この課題は、直接金融や間接金融などの基本的な学習内容を別の観点から、つまり「起業」という経営者サイドではなく、「賢い投資家」・「金融消費者」として考察させようとしたのですが、限られた授業時間数や教師サイドの準備不足もあり、金融商品の選択についての生徒の回答はいま一歩でした。
また、ちょうどこの「起業」のグループ学習の時期に、中小企業挑戦支援法が制定され、1円でも株式会社が設立できるようになりました。そのため多くのグループがいわゆる「1円起業」を選択したために、当初の基本的な学習事項の1つである起業における資金計画について、つまり1,000万円を準備して株式会社を設立するか、あるいは300万円を準備して有限会社を設立するかということについて、各グループでの論議が希薄になってしまいました。
さて、「契約」に関してですが、6月の3年生の『政治・経済』の授業では、憲法の基本的人権の「人身の自由」部分を学習していました。そしてちょうどその時に、私宛に架空請求のはがきが送りつけられてきたので、そのはがきを生徒に見せるとともに、弁護士の宇都宮先生からお借りした「ヤミ金融」の取立てのダビングテープを生徒に聞かせて、「契約」の授業の導入としました。
公民科の授業においても、「消費者問題」部分の学習は、悪質商法のパターンを学習させて終わるという傾向が強いと思われますが、やはり「契約」については、基本的なこと、例えば契約は意思表示によって成立すること、そして「口約束」も契約であること、逆に、契約書を作成して印鑑を押すことや代金を支払うことが契約の成立ではないこと、さらに自分の勝手な都合で契約は解除できないことなど、契約の基本的な内容を授業では説明しました。