先生のための金融教育セミナー
第4回 「金融に関する消費者教育セミナー」 (東京)
講演「よりよく生きるための教育を考える」
金融広報中央委員会事務局長 湯本崇雄
「学校教育は何をめざしているのですか?」まず皆さんにこうお聞きしてみたい。
いかにして生徒をいい会社やいい大学に入れるか、これは確かに現場としては切実な課題だと思います。けれどもそれが本当に目的でしょうか? 私は「生徒が社会に出てしっかり生きていくための基礎を養うこと」これが学校教育の基本だと思います。
では、今の社会とはどんなものか、学校教育はそれに応えているのか、それが次の問題です。
「最近、世の中、何か変わってきたよね」多くの人がそう感じています。どんな変化か? 今日のテーマに則していえば、私は次の2点が大事だと思います。1つはタテ型社会からヨコ型社会への移行。もう1つは安定した社会から不確実でリスクの多い社会への移行ということです。
前者についていえば、中央と地方、官と民、大企業と中小企業、上司と部下など、これまで上下の関係でつながっていたものが、どんどんフラット化しています。後者についていえば、安全・安心という傘、例えば銀行は潰れないとか、政府に任せておけば大丈夫とか、そういう安心の傘に綻びが出てきたことです。
こうした社会変化の下では、一人ひとりの人生経路も自ずから変わって来ざるをえません。「いい大学を出て、いい会社に勤めれば人生安泰」という心地よいレールは、過去のものになりつつあります。その意味では一人ひとりが自分の力で立ち、自力で人生を切り開いていく自覚が従来以上に必要になっています。
一方で、学校教育では、そのことを意識した教育はなされているのでしょうか? 私にはむしろ今の若者は何か元気がないように感じられます。若者の気持ちが、自分で道を切り開くという方向とは逆の向きになっていないか、多少心配です。
ところで、変わりつつある社会に飛び込んでいく若者たちにはどんな能力が必要とされているのか? ここでは3つの力をあげたいと思います。一つ目は「考える力」、二つ目は「コミュニケーション力」、三つ目は「行動力」です。
社会に出てどんな仕事をするにせよ、常に求められるのは問題解決能力です。問題を発見する、問題の内容を的確に把握する、解決策をつくる、そして現実に解決を図る、というプロセスです。この問題解決プロセスをこなすためには先に上げた3つの能力を総動員しなくてはなりません。学校教育ではこうした力を身につける授業は行われているのでしょうか、この点も多少の懸念を感じます。
教育の現場を知らない者が、いろいろ批判めいたことを言うのは失敬だと承知しておりますが、あえて申し上げたのも、実は今、若者をめぐる雇用とか職業意識とかが大きな問題となっているからです。
皆さんもご承知のように、フリーターは全国で今、400万人を数えます。失業中の若者も大勢おり、若年層の失業率は全年齢平均の2倍近い数字になっています。更に最近では、NEETと呼ばれる人、職に就いていない、職を探してもいない人が60万人以上いるといわれています。
これには雇う側の問題もあるのでしょうが、労働や社会の厳しさに対する若者の認識不足、あるいは社会に出たくないという意識が原因だという人もいます。
このように、多くの若者が社会との関わりにおいて不安定な状態にあることを、先生方はどのように感じておられるのでしょうか。変わりつつある社会の実相と、そこに出て行く若者への教育について、改めて考えていただければと切に願っています。
次に、今申し上げた問題意識に立って、金融広報委員会の教育関連活動をご紹介します。
当委員会が行っている活動には、金銭・金融教育研究校制度、教員セミナー、教員による研究グループ、小論文・作文コンクール、各種教材提供などのほか、本年度からスタートした「金融学習特別推進地区制度」、また、学校での金融学習をより実践的に進めてもらうための検討作業も現在進めています。
このような諸活動は何を目指しているのかといいますと、まず1つはお金を通して心を養うということです。とくに、幼稚園から小学校にかけて行われる金銭教育は、小遣い帳をつける、買い物をする、作物を育てる、それを販売するなど、いろいろな体験学習を通じて「自立する心」、「思いやる心」、「感謝する心」を養うことを目指しています。
二つ目は生きる力を養うこと。これは金銭教育の発展型というべきもので、3つのことを念頭においています。一つ目は消費者トラブルや多重債務など、人生の躓きになりかねない問題について、基礎知識をしっかり身につけてもらうこと。二つ目は体験や実習等を通して、身の回りから社会や経済・金融のことを知ってもらうこと。
三つ目は職業体験などを通じて、働くことの意味や楽しさを知り、自分の将来について考えてもらうことです。
以上ご紹介した私どもの活動は、今後まだまだ工夫すべき点があると思いますが、次代を担う若い人たちが「社会でどのような役割を見出していけるか」ということをしっかり考えてもらえるような、そんな教育支援になればと願っています。