第2回「金融に関する消費者教育セミナー」(東京)
(3)講座「わが国の金融の将来展望」
本日は、「金融システムの機能を、消費者のリスク管理という側面から考える」というテーマでお話をさせていただきます。
ルネッサンスは人間を神から解放する文化運動ですが、バーンスタインは『リスク』という書物の中で、「ルネッサンスを経済学の視点から見た場合に最も注目すべきは、リスクが人間の手で管理されるべきものという認識が明確になり、普及したこと」だと分析しています。
近代的な金融システムの発展は、われわれに様々なリスクを管理する方法と、その責任の所在を明確にする仕組みとして急速に発展してきたという側面があります。
経済発展は生産能力を拡大するために資源を利用する活動で、生産設備などの資本の蓄積に依存します。この蓄積された資本が将来どのような成果をもたらすかは誰も確実にはわかりません。ですから蓄積された資本がもたらす将来の利益に対するリスクを、特定の生産者だけに負担させる仕組みでは十分な資本蓄積は実現できません。
急速な経済発展の必要条件は政治的な安定と、安定的で効率的な金融制度にありますから、過去10年間も私たちを悩ませている銀行の危機的状況がさらに長引けば、日本の経済発展の足かせになりかねないと懸念されています。
金融システムは、できるだけ多くの人から資金を集めて、それを有効に資本蓄積に結び付けると同時に、資本の将来の収益に関連するリスクを多くの人々、とくに積極的にリスクを負担する意欲と能力を持った人々に配分する機能を果たしています。
現代の市場制度の根幹は「株式会社制度」によって支えられているといっても過言ではなく、この制度は多くの株主から資金を集めて、それによって資本蓄積を実現するとともに、企業活動に伴うリスクを株主に負担させることで、効率的なリスク配分を実現しようとするものです。
この目的を具体的に実現するのが「株式市場」です。日本の株式市場はバブル崩壊後、極端に低迷して投資対象としては不向きと思われていますが、少し長い視野で見るとそうではありません。しかし個々の消費者にとっては負担しがたいリスクという印象がありますから、金融の専門家や専門業者はわれわれの代理人として、どのような収益とリスクが及ぶのかを的確に分析、評価すべく持てる能力を発揮しなければなりません。
また消費者も代理人の行動を詳細に監視し、彼らの業績を評価する役割を負わなければなりません。消費者のこのような適切な評価・判断が金融システムの機能を高め、結果として経済発展を促すことにつながるのです。
このためには金融における様々な情報を開示し、解析する機能が発揮されることと、消費者の責務を全うするための基礎知識を比較的早い段階から子どもたちに授ける必要が生じてきます。
それゆえに金融教育は高い重要性を持っているといえるのです。