第3回「金融に関する消費者教育セミナー」(京都)
講演「学校教育における金融に関する消費者教育」
金融に関する消費者教育を進める上での配慮事項
そこで、配慮事項ということですけれども、私と同年代のある女性が、「私は学校で銀行のことなんか習わなかった」と言い張るのです。「そんなことはないでしょう、昔からそういうことは教科書にあったはずです」と申したのですが、要は、結局知識としての指導は受けたはずなのだけれどもその人のものになっていないということです。
このところをどうするかということです。先ほど申しましたように、教育課程の中でどうかということです。学校には学校の教育目標がありますよね。どういう生徒を育てたいかということです。それを教科・科目等ごとで具体化するわけですけれども、その中で金融に関する消費者教育についても目指すところを明確にする必要があるのだと思います。
こういう子どもたちをうちの高校では育てましょうとか、うちの中学校では育てましょう。その中に金融に関する消費者教育という視点もやはり入れていただく必要があるだろうと思います。そういうふうに意図的にやっていく必要があるというふうに思います。
また、当然、下の学校段階での学習も踏まえて、そういう経験をしてきているということを思い出させながら授業を進めていただければということです。
その過程において、子どもたちひとりひとり、発達や生活経験の違いがあり、しかも、生活経験の少ない子どもたちが、金融にかかわることを素直に理解することができるかということがあります。大人だって難しい面がありますよね。言葉は朗読できる、けれども意味がわからないといったことが非常に多いわけです。
それは自分の経験がなく、考えたこともないからです。だから、そこのところをどうやって具体的に補っていけるかということで、その手がかりとして教科書があるわけです。最近の教科書には、消費者教育はもとよりかなり金融関係のことも載っています。
いまいくつかコピーを持っていますけれども、昔と比べるといろいろ出てきています。例えば高校の現代社会では、資金が不足している人と、資金に余裕がある人との間で資金を融通し合うことを金融と言うことを述べた上で、それが金融機関を仲立ちにして行われることを説明し、金融機関の種類を列挙しています。
でも、それがどう違うのか、教科書を読んだだけでは、生活経験がないからわからないのですね。そこをわかりやすく、どうやって伝えていったらいいかということが課題になるわけです。
あるいは高校の家庭基礎でも、家庭の収入、支出のところで、有価証券や保険金の話とかも預貯金とともに出てくるし、ライフステージのところでいろいろな金融商品、貯蓄の手段としての金融商品も出てくるのですが、これは読んだだけではなかなかわかりませんよね。そこのところを何とか補っていけないかという話があります。
それからもう一つは、先ほど会長からハンバーガーの話がありましたけれども、中学校の社会科のある教科書では、ハンバーガーのことが教材になっています。
これは導入のところで使うのですけれども、駅前の地図が示されていて、いろいろ条件が書いてあるんですね。ハンバーガーショップの利用客はどういう客層で、メニューはだいたいいくらぐらい、1回の単価はいくらぐらいなのか、それからそれぞれ場所の特性が書いてあります。高校生がたくさん通るとかですね。
そして、あなただったらどこにお店を出しますか、プラス・マイナスを考えて理由を説明する、こういう内容が教科書の中に入ってきつつあります。こういったことを手がかりにして、知識だけではなくて、自分で考えて、ああそうかとわかる実践が必要ではないかということです。
これは富山県のある中学校の例ですが、実際に、一つの単元を全部ハンバーガーでやってみたという実践があります。それは第一番目に「ハンバーガー1個59円で儲かるか?」ということで、『家計と商品の選択、市場経済と価格、消費者の権利保護』についてハンバーガーを軸にして学ぶ。
二つ目に「ハンバーガーの原材料はどこからどうやってくるの?」ということで『流通の仕組み』を学ぶ。次に「私がレジで払ったお金はどこに行くの?」ということで『金融の働き』を扱う。
そして、「店長の仕事から労働と会社を見つめよう」ということで『職業意識と働く人たちの生活向上、企業の仕組み』を学ぶといったような授業実践です。そういうことがいま行われつつある。そういった実践の情報をできるだけ学校へ提供していきたいと思っております。
それから、そういった教材のほかに、体験的な学習とか問題解決的な学習を取り入れていただく、あるいは情報手段の活用をしていただくということが重要です。また、先生方の研修の充実も課題だろうと思います。できれば先生方自身の授業をほかの教科・科目の先生方に見てもらうことで学校の中の協力が進んでいくということもあろうかと思います。
それから、関係団体との連携ということですが、なかなか文部科学省も単独で、それぞれの教育課題についての資料を出すことが難しく、金融広報中央委員会はじめ、いろいろな関係の役所や団体、機関等から資料を出していただいて助かっております。
本日、金融広報中央委員会が用意された教材は全国の高校にも届けられています。こういったものも重要な手がかりになるだろうと思います。私どももこうした教材の普及にはできるだけ協力をして、充実が図られていくようにしたいと思っています。
また、学校でゲストティーチャーを呼ぶ取り組みも進みつつあります。そういう時に大事なのは、学校も丸投げをしないということです。事前・事後指導を含めて、学校のねらいや授業のポイントを明確に伝えていただいて、役割分担するということが大事だろうと思います。それは見学に行ったりするときも同じですし、体験活動を実施する時も同じだと思います。
正直に申し上げて、これからに期待する部分が大変多いところでございます。私どももなかなか努力が行き届かなくて恐縮ですが、そちらに目を向けておりますので、これから実践を積み重ねていただいて、もしよければ、こんな実践があるということをぜひ文部科学省や金融庁、あるいは金融広報中央委員会に送っていただければ参考になろうかと思います。
そういうことで、これからも金融に関する消費者教育の充実に今後もご尽力いただきますことを期待いたしまして、私のお話を終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)