金融商品なんでも百科
(平成27・28年用)
金融機関選びのポイント
決算書、ディスクロージャー誌の見方
決算データを読む
金融機関の財務内容の健全性について調べたいときには、直接決算データにあたってみることになります。ただし、決算データから金融機関の経営状況を知るには、以下のような財務知識が必要となります。
決算データを利用する方法
決算データを参照するには、金融機関の店頭においてあるディスクロージャー誌を利用する方法があります。ディスクロージャー誌は法律で作成が義務づけられている年次報告書で、決算データのほか、その金融機関の業務内容、事業の方針、経営者の紹介などさまざまな情報が記載されています。また、手数料一覧や商品・サービスの案内なども掲載されているので、健全性のチェック以外の用途にも利用できます。なお、金融機関によっては、ディスクロージャー誌を店頭など顧客の目に触れるところに置いていない場合もあるので、その場合は、窓口で「ディスクロージャー誌をください」と言ってみてください。
ディスクロージャー誌を利用する場合に注意しなくてはならないのは、1つの金融機関について入手しただけでは経営状態の程度を十分には判別できないことです。複数の金融機関を比較すると、金融機関の経営状態がわかりやすくなります。ただ、複数のディスクロージャー誌を入手するには、どうしてもいくつかの金融機関に足を運ぶ手間がかかります。
複数の決算データを集めるには、(1)新聞に掲載された決算状況を見る方法と、(2)財務省・証券取引所で閲覧できる有価証券報告書・決算書を見る方法のほか、(3)業界団体がまとめている資料を参照する方法などがあります。
新聞を利用するには、毎年5月と11月に発表される年度・半期の決算状況が掲載された過去の新聞を、図書館などに置いてある新聞の縮刷版で探すとよいでしょう。決算状況が掲載された新聞には、同じ業態の金融機関の主な経営指標が一覧表になっています。
有価証券報告書・決算書を利用するには、財務省・各地財務局、各証券取引所の閲覧コーナーに置いてある各金融機関の有価証券報告書・決算書が便利です。また、全国の消費生活センターには、生命保険・損害保険会社の決算書が置いてあります。
決算データの見方
実際に決算データを読みこなすのは、かなり難しいと思いますが、ここでは、決算データを理解するのに必要な最低限の知識を紹介しておきます。なお、さらに詳しいことを知りたい方は、業界団体が作成している以下の資料をご利用ください。
- 「生命保険会社のディスクロージャー~虎の巻」(生命保険協会へのリンク)
- 「損害保険会社のディスクロージャーかんたんガイド」(日本損害保険協会へのリンク)
自己資本比率・ソルベンシーマージン(支払余力)比率
経営の健全性をみるには、自己資本比率(銀行の場合)やソルベンシーマージン比率(保険会社の場合)に注目する方法があります。いずれの比率も、高いほうがひとまず経営が健全であるといえるでしょう。
銀行の自己資本比率について、現在は、海外に営業拠点を持っている銀行は8%、国内のみで営業している銀行は4%を維持することを、また保険会社のソルベンシーマージン比率については、200%以上を維持することを、それぞれ監督当局から課されており、それを下回ると経営改善計画の作成、実行などを求める早期是正措置が発動されます。
自己資本とは、実質的な財産にあたるものです。通常、総資産から借入金や発行した債券など(これを「他人資本」といいます)を差引いたプラス分が自己資本となりますが、これがマイナスになってしまうと債務超過に陥ります。
銀行の自己資本比率は、リスクアセット(資産の種類ごとに貸倒れの危険性のウェイトを乗じて加算したもの)に占める自己資本の割合として算出します(この場合の自己資本も、財務諸表上の該当項目そのものではなく、国際的なルールにしたがって計算したものです)。
一方、ソルベンシーマージン比率は、災害や保険会社資産の暴落など通常の予測を超えて発生したリスクに対して、保険会社がどの程度準備があり、支払能力があるのかを示す指標です。資本金やこうしたリスクへの準備金を通常の予測を超えて発生する保険金払戻しのリスクの総量で割った比率となります。
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ソルベンシーマージン総額=資本金(または基金)、ならびに通常の予測を超えるリスクのために積立てている準備金などの額
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リスクの合計額=通常の予測を超えるリスクに対応する額
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ソルベンシーマージン比率=ソルベンシーマージン総額÷(リスクの合計額×1/2)×100
自己資本比率 | 措置の内容 | |
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国際統一基準適用先 | 国内基準適用先 | |
8%未満 | 4%未満 | 経営改善計画の作成およびその実施命令 |
4%未満 | 2%未満 | 資本増強計画の提出および実施、配当または役員賞与の禁止またはその額の抑制、一部の営業所における業務の縮小または廃止、子会社等の業務の縮小または株式などの処分、業務の縮小または新規の取扱いの禁止など |
2%未満 | 1%未満 | 自己資本の充実、大幅な業務の縮小、合併または銀行業の廃止等の措置のいずれかの実施 |
0%未満 | 0%未満 | 業務の一部または全部の停止命令 |
ソルベンシー マージン比率 |
措置の内容 | |
200%以上 | なし | |
100%以上200%未満 | 経営の健全性を確保するための改善計画の提出およびその実行の命令 | |
0%以上100%未満 |
次の保険金等の支払能力の充実に資する措置に係る命令
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0%未満 | 期限を付した業務の全部または一部の停止の命令 |
全国銀行協会「やさしい銀行のよみ方Part1~よくわかる銀行のディスクロージャー~」
生命保険協会「生命保険会社のディスクロージャー虎の巻」
経常利益
金融機関の営業活動の成果は経常利益に現れますので、これに注目しましょう。ここ数年間の営業活動がうまくいっていることを確認するとともに、今後も利益が増えていきそうかどうか見通します。利益が増えていくと、金融機関の自己資本が増えていきます。自己資本に反映される利益は、経常利益に特別損益を加えたその期の利益ですが、何よりも経常利益が黒字(プラス)であることが重要です。さらに、(経常)利益の黒字幅が前期よりも大きい状態、つまり増益が毎年続いていれば、自己資本も着実に増強されていくことになります。