お金について学ぶ 国際シンポジウム
パネルディスカッション
「今なぜ、学校や家庭でお金に関する教育が必要なのか」
アメリカの指導者養成プログラム
野田 高橋さんは、いま教育で何が必要だと感じていらっしゃいますか。
高橋 情報提供は進んでいますが、一人ひとりが知恵を働かせて自分の頭で考えられるようになるための教育が不足していると感じます。そこがアメリカの教育との大きな違いだと思います。
野田 ライシュバックさん、指導者育成の一端をご紹介いただけませんか。
ライシュバック 一定のプログラムに基づいて、幼稚園から高校、大学レベルの教師、ファイナンシャル・カウンセラー、ファイナンシャル・プランナーなどに対する指導を行っています。この人たちが効果的に自分の職を全うし、他の人々を教育できるように養成するわけです。
たとえば教師向けのワークショップでは、教材をどうやったら効果的に使えるか、などを示し、批判的な思考や意思決定を行う方法を教えています。そうすると先生方が教室の授業で生徒たちに批判的な思考や意思決定、家計管理など消費者としての力をつけさせていけるのです。
ファイナンシャル・カウンセラーというのは金銭上の問題を抱える人々に対するカウンセラーで、我々のところで一週間朝8時から夕方5時まで養成プログラムの講義を行います。
軍のファイナンシャル・カウンセラーの人たちもいますよ。兵役に就いている人たちは、多重債務に陥っていたり、クレジットカードを使い過ぎる等々の、問題を抱えることが多いのです。そこで我々がファイナンシャル・カウンセラーを養成し、彼らが軍に戻って問題解決の手助けをしています。
地域の学校を通じて子どもと関わろう
野田 イギリスでも国を挙げて金銭教育が行われていますね。日本でも「金銭教育が必要だ」といわれ、金銭教育を体験するスチューデント・シティの取り組みが始まっています。
寺脇 こういう取り組みができなかったのは「お金のことは子どもに教えるべきではない」という古い思い込みがあったからです。基調講演で申し上げたように、今はもう経済から文化への次の広がりを考えなくてはいけません。しかしその暇があったら円周率を教えろというような知識重視の方向へのバイアスが掛かっています。これをどのように解決していくかが課題です。
それと学校の先生に何でも求めるという考え方を変えていかない限り、これに取り組むのは難しいと思います。総合的な学習は先生以外の人が教壇に立って子どもと触れ合う時間を作っていくことを狙っていますし、完全学校週5日制は、学校に行く日を一日減らすことによって、子どもたちが家庭や地域社会のなかで過ごす時間を作っていこうということです。
国全体でたった100万人しかいない教師だけが子どもに関わっていくのではなく、一億人の大人たち皆が何らかの形で関わっていく必要があります。もちろん、それが金融や経済のプロでなくてもいいわけです。
野田 学校の先生は時間が少なくてまとまった取り組みができないとよくいわれますが。
高橋 親が知識の教育を求めているという部分もあるほか、中教審でも学力回帰の方向性が出されています。それと地域に開かれた学校であるべきと昔からいわれていますが、意外にそうではないですね。総合的な学習が始まった時、どこかが声を掛けてくれるかなと思っていたのですが、実はまだ全然声が掛からないんですよ(笑い)。大学からの要請はありますが。
いちのせ 僕は、学校はバリアを張っているということで、バリアフリーレッスンの取り組みの一つがきっかけでした。地域の達人の方何人かに声を掛けていただいて、そのなかでマネー教育を中学校で始めましたが、子どもと接するのは難しいと感じています。
まず話を聞きませんし聞けても5分間です。じっと座っていられないのです。ですから5分に一回は新しいことを取り入れたり、感じさせたり、触れさせたりしないと、すぐに飽きてしまいます。