お金について学ぶ 国際シンポジウム
基調講演
(1) 様々な組織が提供するツールを使って、金融理解度を高める授業
グウェン・ライシュバック(前・東ミシガン大学アメリカ消費者教育センター所長)
課題の多いティーンエイジャーの金融理解
まず、アメリカのティーンエイジャーの金融理解度がどれくらいかについてお話しします。最も大きな調査は2年に一度ジャンプスタート個人金融教育連盟が行っており、家計管理における保険、家計の予算、退職後の計画、税法、投資等に関して質問したところ、50%を少し上回る正解率しか得られませんでした。
これは落第点に近く、まだまだ努力しなければならないことがたくさんあるという結果です。高得点の人は、株式市場のゲームを使っているとか預金口座を持っていることがわかりました。日本でも証券取引所から株式ゲームが提供されているそうですから、金融理解度を高めるのに役立つかもしれませんね。
それからNCEE(全国経済教育協議会)が同じく2年に一度調査を行い、経済教育、金融教育などが各州でどのようになされているかを調査しています。アメリカでは教育が中央集権化されていませんので、各州毎の実態を知ることが大切なのです。
これによると31州が家計管理で「何を教えるべきか」という基準を立てて要綱を確立しているほか、17州では「こういうものを教えなければならない」「これは絶対に必須である」という基準を設けていました。しかしながらテストを実施しているのはごく少数の州で、大部分の高校生は家計管理をほとんど学ぶことなく卒業しています。
またASEC(米国貯蓄教育協議会)の調査によると、「親から家計管理の概念を教わったか」という質問に対して、「教わった」と答えたのは25%だけでしたが、別の調査では90%以上の人が「親から学んでいる」と答えています。
一見矛盾する数値ですが、これは積極的に「こうこうですよ」と教わってはいないけれども、親の金融管理の習慣を身近に感じることによって学習しているということなんですね。
さまざまな組織が活発な活動を展開
それでは家計管理や金融の理解度を上げるための教育を行っている組織をみてみましょう。最も大きな組織はジャンプスタート個人金融教育連盟で、150ほどの組織・企業・政府団体から成り立ち、幼稚園から12年生までを教育対象としています。ここには最も豊富な家計管理の教育資料があってオンライン化されていますので、教師はこれを授業の教材としてよく使っています。
次にASECには、「ボールパークエスティメート」というオンラインのチェックシートがあり、それを利用して、仮に自分が何十歳まで生きるとした場合、退職するまでの所得はどれくらいか、退職後にいくらお金が必要で、いくら貯蓄や投資をすればいいのかを計算できるようになっています。
この他にも消費者の理解度促進コンソーシアムのウェブサイトには「66のお金を貯める方法」というパンフレットがあり、日本の社会にも大いに有効なものがあると思います。
以上のほかに、カリキュラムのガイドを作ったり、ワークショップを開いている全国経済教育協議会、高校生向けのカリキュラムを作っているNEFE(全国金融教育基金)、起業家教育や家計管理教育のプログラムを作っているジュニア・アチーブメントなど、多くの組織が金融の理解度を向上させる活動をしています。
政府、地域社会、ビジネス界も後押し
政府も現在、全米での経済知識のテストに向けて準備を進めています。これは2006年に完成する見込みで、高校生を対象にした第一回テストがこの年に予定されています。この出題のなかには家計管理に関する問題もいくつか入ります。
それから全米すべての子どもを教育対象とする法律ができています。アメリカ初の連邦法として、家計管理教育・家計金融教育を取り上げている点で注目されています。この法律には27のテーマがあり、その中には、経済・消費者・家計管理の教育分野が含まれています。
上院のランキング委員会でも学生に対する家計管理、金融理解度に対する関心が高まり、FRBのグリーンスパン議長が聴聞会で証言したり、証券取引所委員会のハービービット氏が証言を行うなど、マスコミや他の政府機関からも注目をあびるようになりました。
いまアメリカでは、金融に対する理解度を高めてハイスクールを卒業し、将来効果的に資産管理ができる成人になって欲しいと、政府も、地域社会も、ビジネス界も高い関心を寄せているのです。