金融・生活シンポジウム2003
どう変わった?暮らしとお金~金融ビッグバンがもたらしたもの~
パネルディスカッション
(2) 金融ビッグバンが目指したもの
荻野 金融ビッグバンとは、結局何を目指したのでしょうか?
山口 国境とか業態間のバリアをはずすというのが、金融ビッグバンの一つの柱だった。もう一つの柱は、様々な調整機能をやめ、そのかわりに自由化して、競争を促進しようとしたことです。
バリアをなくすことでどういう影響が出たのかといいますと、一つは金融機関の再編成がおきたことです。もう一つは金融機関数が大きく減少したことです。三つめは、外資の参入が本格化してきたことです。
金融ビッグバンの狙いは、金融市場を活性化して、外国に負けない金融市場にしようということだったのですが、実際には外国との差はどんどん広がるばかりで、金融ビッグバンだけではうまくいかないことが明らかになりました。
それから金融ビッグバンによって金融機関相互の競争が激しくなりますから、サービスを受け取る側は有利になるはずだということで、利用者利便の向上ということも金融ビッグバンの狙いの一つでした。
ところが、これも狙い通りにはあまりいかなくて、金融機関の店舗がどんどん減ったために、支店の営業マンがいつも来てくれていたかつての利便さがなくなったりといったこともおきました。利用者の利便性に関しては、むしろ悪くなっている部分もあります。
競争が激しくなるということは、金融機関が効率的な経営を行わなくてはいけません。二八(にっぱち)の理論というのがあって、金融機関の預金が10あると、大体二割の預金者が全体の預金額の8割を持っているのです。効率性を追求すると、この2割の預金者に対しては非常にサービスが良くなるけれども、残りの8割にはむしろサービスが低下するということもおきるわけです。
ですから、競争が激しくなれば、すべての利用者にとって同じように利便性が高まるという考え方は甘いということを頭に置いていただきたいですね。つまり、金融ビッグバンにはプラス面とマイナス面、両面あるということです。
荻野 次のキーワード、不良債権問題というのは金融ビッグバンとどう関係するのでしょう。
荻原 日本の銀行ほど、どんぶり勘定の商売をしてきたところは、今までないと思います。ところが金融ビッグバンになって、昔どんぶり勘定で買ったものがほとんど不良債権になったという状況が出てきています。
これから、銀行も儲かる商売をやらなければいけません。ですから、本当に大金持ちだけを相手にする銀行もあれば、普通の庶民を相手にする金融機関もあり、これからその棲み分けが進んでいくと思います。
山口 不良債権問題が発生して、過去に貸したお金が焦げついています。金融機関の多くが、不良債権の処理で損失が発生して、利益が出ないという状態になっているわけです。
何故そんな損失が出ているのかというと、バブル崩壊の後遺症が原因です。それから現在の不況で不良債権がたまってきています。金融ビッグバンの中でいろいろと工夫して利益を捻出しているけれども、それだけでは追いつかないくらいの損失が出てきているというのが、これまでの現状です。
荻野 大石さん、利用する側として実際どのように感じていますか?
大石 まずは冷静に、自分が今どれだけのキャッシュフローを持っているのか、将来に向かって自分の収入には何があるのか、支出としては何が出ていくのかを理解して、自分なりの組み立てを作らなくてはいけないということだと思います。
金融ビッグバンの中で油断のならない時代がきていますが、年金も当てにならない、医療費も自己負担比率が高まってくるなど、厳しい状況がくると思うのです。その中で自分は今後どういう収入構造になるのか、どういう支出が必要になってくるのか、かなり冷静な目で判断することが、まず必要ではないかと思います。
金融広報中央委員会のホームページでは、生活設計のシミュレーションができるんですね。まずそこで自己評価をしてみることが、第一ステップとしてはいいのではないかと思います。