第44回 全国婦人のつどい
「くらしと経済」
特別講演(要旨)「どうなる新世紀のくらしと経済」
改革には企業の整理淘汰も必要
日本経済を立ち直らせるきっかけは何か。財政の出動を求める人もいますが、ことはそれほど単純ではありません。
アメリカの経済学者は、「政府が国債を発行して景気浮揚策をとればとるほど、国民は不愉快になってくる。子どもや孫に負の遺産を残すことに痛みを感じるのだ」と言っています。
確かに、今の日本は財政が出動すればするほど、われわれ消費者の気持ちが縮んでしまうという状態に入っています。政府は30兆円を超えて国債を出さないと言っていますが、国民は歯止めがかかってホッとしている面があります。
そこで構造改革が重要となるわけです。世界中が競争相手になったのに加え、2010年には少子高齢化が本格化するため、これまでの行政や財政、税制で対応できるはずがありません。
しかし、改革を行うために走り出そうとしたら、不良債権という大きなゴミが前方をふさいでいたのです。それを処理しなければ前には進めません。これが今の日本の現状ではないでしょうか。
不良債権処理は、企業の整理淘汰と関連する問題です。銀行から借りたお金を返せない企業は、会社更生法や民事再生法等によって出直しますという方法が用意されています。このように、名誉ある撤退も一つの選択なのですが、日本ではご法度というイメージが強く、銀行が支えるケースが多いのです。それがまたマイナス要因となっています。
加えて、バブル景気の余波で、例えば本来は20社でよかった業界が30社になっているという状況もあります。これを英語でオーバーカンパニーといいますが、先に述べたように潰せないのでオーバー分の企業の存続のために新たな借金が生まれます。さらに、業界では生き残るための値下げ競争が行われ、各企業の利益が減るとともに、全体の物価を押し下げる要因にもなっているのです。
こうした悪循環を断ち、経済を建て直すには、不良債権を抱えている企業やオーバーカンパニーを整理淘汰する必要があります。
景気回復への荒海を乗りきるために
今の日本経済は荒海に乗り出した船といえます。荒波がおさまってようやく21世紀の島影が見えてきます。当面はこの荒海をどう乗り越えるかが大事であり、そこに今後の賢い暮らし方もあるわけです。
はっきりしているのは、もう右肩上がりの時代ではないということです。所得神話も、土地神話も、銀行不倒神話もなくなりました。そして終身雇用神話も同様です。これからは転職が当たり前になるでしょう。こうした状態を把握して、これからの生活のあり方を考えるべきでしょう。
荒海ですから船から放り出されるかもしれません。そうした場合の備えも必要です。一つは食料にあたる預貯金です。荒海の時代は専門家でも間違えますから、元本が保証されていない投資には注意が必要です。
二つ目は、救命具に相当する住宅です。都心の賃貸住宅は安くなってはいますが、賃貸の家賃はインフレなどに連動して上がることもあるので、小さくても、セカンドハウス的なものでも自分の住宅を手当てするといいと思います。
三つ目は知力、つまりスキルです。これからはやはり教育投資や自己投資が重要です。また、グローバルな対応も必要です。
例えば、最近増えている外貨預金を保有するのも一案です。日本人はすぐ円換算して損得をはじこうとしますが、ドルはドルで、ユーロならユーロで増やしておけばいいのです。それを海外に行ったときに使うのです。あるいはインターネットで外貨を使っていろいろなものを安く買うこともできます。こうすることによって、グローバルな経済をみることができます。
日本人の場合、資産運用や貯蓄はそれ自体が目的になりがちです。しかし趣味や勉強、旅行など何かをするためにお金が必要なのであり、利殖が目的ではありません。
チャップリンの映画、「ライムライト」の中に「人生に必要なものは勇気と想像力、そして、少々のお金だ」という名台詞がありますが、人生の目的をかなえるために少々のお金が必要であると考えて対応しておけば、荒波がすぎた後に落ち着いた日本経済、豊かな暮らしが訪れるのではないかという気がいたします。