キャッシュレス時代における家庭の金銭教育
キーワードは「親子で学ぶ」
(キャッシュレス化と金銭教育)
加速するキャッシュレス化の普及による金銭教育への影響
国民生活センターによると多重債務の相談件数は、減少傾向にあるとはいえ毎年度2万件を超えています。子どものうちからお金の大切さを実感させ、お金の価値や使い方を理解させる家庭の金銭教育は非常に重要です。
そうした中、政府は、さまざまなキャッシュレス推進策により、日本のキャッシュレス決済比率を、2025年までに4割程度、将来的には世界最高水準の8割をめざすとし、その決済比率は上昇し続けています【図表1】。
- (出所)
- 経済産業省「キャッシュレスの現状及び意義」を基に作成
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/image_pdf_movie/about_cashless.pdf
一方で、現金を扱う機会が減る「お金の見えない化」によって、お金は使えば減るという感覚を感じにくくなってきたと懸念する声もあります。実際、電子マネーなどのICカードを、いくらでも買える「魔法のカード」と思い、友達に見境なくおごってしまったというお子さんの話も耳にします。
自立した大人になるためには、キャッシュレスという「見えないお金」の知識や価値観を子どもに教える必要性がきわめて高いと思われます。
保護者が金銭教育に悩む「教える自信が無い」背景とは
保護者に話を聞くと、ほとんどの方が金銭教育は重要であり、キャッシュレス決済を子どもに教えることは必要と考えています。
その反面、「金銭教育なんて私には無理」、「キャッシュレス決済の教え方が分からない」という保護者の声も多く聞きます。その悩みの背景には、保護者の「金融リテラシーとITリテラシーへの自信の無さ」があるのではないでしょうか。
かつては、子どもにお金の話をすることはタブーのように扱われていたかと思います。【図表2】の「金融リテラシー調査 2019年」では、「学校等で金融教育を受けた」と認識している方はわずか7.2%、「家庭で金融教育を受けた」と認識している方も20.3%と低いのが実情です。そのため「金融知識に関する自己評価」でも、自信がある方は12.1%という低い結果になったのでしょう。
- (出所)
- 金融広報中央委員会「金融リテラシー調査 2019年」の結果を基に作成
キャッシュレス決済にはクレジットカードをはじめ、電子マネーなどのICカードやスマートフォン決済などさまざまな手段があります。それぞれの特徴を十分に理解し使いこなすためのITリテラシーに自信がない保護者は、キャッシュレス決済を子どもにどう教えるべきなのか悩み、不安に思ってしまうようです。
保護者の体験は学びの教材 分からないことは子どもと学ぶ
キャッシュレスに限らず金銭教育に自信がなく悩んでいる保護者に、私はいつも「変に気負わず、小さな子どもには普段の体験や実践していることを話すだけで十分」とお話しします。
ATMで光熱費を振り込んだり、クレジットカードで買い物をしたり、通信販売を利用するなど、日常生活でさまざまな体験や実践をしていると思います。それはキャッシュレス決済教育の立派な教材なのです。
ただし、そうした体験や実践を一方的に話すだけでなく、子どもにお金の流れや価値を考えさせるコミュニケーションをとってほしいと思います。
例えば「ATMにキャッシュカードを入れると、なぜ光熱費のお金を振り込めると思う?」などと問いかけたり、通信販売を利用するときに、お金の流れや商品が届く仕組みを説明するなど、キャッシュレスも現金も同じお金ということを子どもに実感させることが大切なのです。
子どもから、保護者の知らないことを質問されることもあるでしょう。そのときは「一緒に調べてみよう」と言ってみてはいかがでしょうか。学びの原動力となる好奇心や探求心を育むことにもつながると思います。
家庭でキャッシュレス教育を行うタイミングとポイント
キャッシュレスは何歳から家庭で教えるべきかという質問をよくいただきますが、キャッシュレスに限らず金銭教育において「何歳になったらこれを教える」、「何年生のおこづかいはいくら」というような年齢や学年での判断を、私はあまりお勧めしません。
子どもの個性と環境で判断すべきと考えます。同じ年齢でも、すでにお金の管理をしっかりできる子もいれば、まだ計画的にお金を使えない子もいるでしょう。徒歩通学の子もいれば、電車通学で電子マネーを早く利用させた方がよい場合もあります。
普段から子どもとコミュニケーションをとり、子どもの性格やお金に関するリテラシー、学校や友達関係などの生活環境を把握し、子どもの「今」に最適な学びを教えてあげてほしいと思います。
ただ、キャッシュレス決済はICカードやスマートフォンなどのツールが必要なので、そうしたツールをある程度理解できるようになってから利用させると良いでしょう。
それまでの間は、見えるお金=現金を使わせることで、「お金は使えば減る」、「お金が足りないと欲しいものが買えない」という経験をさせることが大切です。
お金の価値が分かりお金を管理する習慣を身に付けていれば、キャッシュレス決済を使うときに、「現金と同じお金」という本質的なことがスムーズに理解できると思います。