アウトドアのスキルが役に立つ 楽しみながら備える新・防災術
いざというときに備える最低限の道具類とは?
今回は、平時のキャンプにも防災にも必要不可欠な、生命を守る心得と道具の選び方についてです。
初心者・一般向け
- 事故、災害
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- サバイバルの3の法則
- 生命を守る心得と道具
3の法則をもとに生命を守るキャンプスキル
“サバイバルの3の法則”という言葉をご存じでしょうか。
人間が生き延びるための3つの要素のことです。
1つ目はまず体温。低温にさらされるなどして適切な体温を維持できないと、人は3時間しかもたないと言われています。
2つ目は水分。水分を一切摂らないと3日間しか生きられません。
そして3つ目が食べ物。体温が守られ、水分も摂れても、何も食べない状態が30日間(3週間という説も)続けば生存は難しくなります。
逆に、体温をキープできて水分も摂れれば、30日間は何とか生き延びられるとも言えます。
災害時を考えてみましょう。
2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震では電気・水道・ガスの3大ライフラインを喪失しました。
東日本大震災では、完全復旧には電気で約1週間、水道約3週間、ガスは5週間以上かかっています。
地中配管が複雑な地域ではもっと時間がかかるでしょう。
3の法則によると、3日以内に飲料水が必要ですが、給水車もすぐには近くに来られません。
暑い季節などは長蛇の列に並ぶのも身体に負担をかけます。
家に備蓄できる量には限りがあり、先が見えないなかで残り少ない水や電池などをハラハラしながら使うのも大きなストレスになります。
ましてや自宅に戻れない状況なら、どんなに多くの備蓄品を用意していても当面は役立たせることはできません。
だからこそ日常とは違う不便な状況のなかで、衣食住を自ら補充できるキャンプ経験をおすすめするのです。
キャンプなどの道具には、万が一苛酷な状況になってもできるだけ生き延びられるように性能・機能を高めたものが多くあります。
前号で触れた、寒さ・暑さに対応する機能性素材のウエアや、安全な飲料水を得るための浄水器などもそうです。
野外の生活で確保すべきは衣食住の3つのDOOR
では、ほかにどのような道具が役に立つのでしょうか。
楽しみつつ万一に備える基本道具の選び方
キャンプのスタイルは人それぞれ。
家族や仲間とバーベキュー、水遊びなどで賑やかに過ごすのも、1~2人程度で焚き火を眺めて静かな時間を持つのも楽しいものですが、いずれにしても野外で食事を作り、寝泊まりするためには、最低限の道具が必要です。
災害時の避難に使用することも考えた選び方を挙げていきます。
テント
ドーム型、ワンポール、2ルームの大型、コンパクトな山岳用など、さまざまな種類があります。
レジャーとしてなら目的に合うものを選べばよいでしょう。
しかし、災害時に何日も複数人で過ごすことを考えれば少し違ってきます。
重要なのは内部に人が立てる高さがあること。
1~2泊寝るだけなら天井が低くてもよいのですが“仮設住宅代わり”としては、空間が高く広いことがストレスを大きく軽減します。
商品説明には○人用と書いてありますが、これはその数の寝袋が並べられるという意味です。
4人用テントに4つ寝袋を並べると荷物はほとんど置けません。
1人なら2人用、2人なら4人用テントが楽。
私の場合、1カ所で長く滞在する際は夫婦2人で8人用の大型を使います。
広くて非常に快適です。
買う前には、テントを張った状態でいくつか展示しているような大型店でサイズ感などの確認を。
キャンプ場の見学もおすすめです。
気になるテントを使っている人に声をかければ、良い点や不便な点などを教えてくれるはずです。
キャンプ場に日帰りで見に行くのも一手
寝具
体温維持と睡眠確保のため、寝袋とマットは必須です。
寝袋にはマミー型と封筒型があります。
マミー型(左)と封筒型(右)の寝袋、上はマットの一例
マミー型は顔以外をすっぽり包み込み、保温性が高く、軽量コンパクト。
ただ慣れないと窮屈に感じるかもしれません。
封筒型は布団に近い感覚ですが、場所をとり、保温性も劣ります。
どちらのタイプでもよいですが、春から秋のスリーシーズン用を用意しましょう。
寒い季節は厚着をして入ったり、湯たんぽ、シュラフカバー(寝袋の結露や汚れを防ぎ保温性を高めるためのカバー)などで対応すれば十分です。
寝袋の下に敷くマットも、寝心地の確保に加え、地面からの冷気や熱を遮断するために必要です。
好みや運びやすさ、価格などで選べばよいでしょう。
照明
メイン照明のほか、ヘッドランプも人数分用意しましょう。
メインの照明は電池、ソーラー、ガス、灯油など、使いやすいものならどれでもよいと思います。
照明にも多くの種類があるので使い勝手を考えて選ぼう
大切なのは各自の手元照明です。
何らかの作業をしたいとき、懐中電灯よりも、両手が自由になるヘッドランプが楽です。
寝るときも枕元に置いてください。
椅子とテーブル
1~2泊のキャンプならレジャーシートや石に座ってもよいでしょう。
しかしそれ以上に及ぶ可能性がある避難時には、椅子とテーブルがあれば居住性は格段に上がります。
あると快適性がぐんと高まる椅子とテーブル
どちらも強度や安全性に優れ、コンパクトに畳めるものが多数出ています。
傾斜した地面にバーナーなどを直接置くと、鍋ごと倒れたりしてやけどする恐れがあります。
テーブルで安全をキープしましょう。
火力
安全な水を得るには煮沸が必要です。
アウトドア用品店には山用のOD缶というガスボンベや、灯油、ホワイトガソリンなどを使うバーナーもあります。
けれど平地ではそこまでの機能は必要ありません。
手軽に買えるカセットボンベを使うタイプがよいと思います。
カセットボンベ用のバーナーは各種出ています。
それらでもよいですし、近年は風除けが付いたアウトドア向けカセットコンロもあります。
ふだんは家で鍋物などに使用していれば、野外でも使い方はいつも通り。
さらに火をおこす技術も身に付けていれば、拾った枝などで焚き火ができます。
雨天時のみカセットボンベを使えば、ボンベ3本程度で約1カ月間はもたせられます。
調理・飲食道具
持って行ける道具であればアウトドア専用である必要はありません。
むしろ家で使い慣れた道具のほうがよいとも言えます。
ただ、鍋は必ず蓋付きで。エネルギー効率が全く違います。
レンジフードなどをバーナーの風除けに使うことも大切です。
食器やカトラリーは感染症予防のためにも各自専用のものを用意しましょう。
割れにくいプラスチックや金属製のものを使ってください。
ふだん台所で使っているジッパー袋(丈夫な厚手のもの)も何枚か用意しておくと、湯せんでの炊飯や食材の整理などさまざまな場面で役立ちます。
コラム100円ショップのグッズも使える!工夫次第でバランスのよい備えに。
最近では100円ショップでもアウトドア用品を取り揃えてています。
100円や500円の品で大丈夫なの?
そんな疑問もあるかもしれません。
結論から言いますと、安くて便利なものはどんどん取り入れよう!です。
例えば体温を守るエマージェンシーシートも100円なら、惜しげなく切って、ベストや靴に敷くインソールにできます。
レジャーシートをテープでつなげば日除け・雨除けのタープになります。
ホイッスル、鈴、連絡事項を書くホワイトボードなども被災時の生存確認に役立つでしょう。
コーヒーフィルターも水のろ過に使えます。
水入れ、固形燃料、トング、火吹き棒、メスティン(長方形の炊飯鍋)などのキャンプ用品も、耐久性は低いですが避難時に使えます。
園芸用ポールや自転車カバーなどで簡易なタープを作る人もいます。
ただし本来はどう使うべき道具であるかを知ってから使ってほしいと思います。
安価な道具で使い方を間違え、ケガなどしては大変です。
アウトドア用品店で機能性や安全性に十分に配慮した品に触れ、そのうえで代替可能と判断できるものが100円ショップの品にあれば、使ってもよいでしょう。
ちょっとした遊びのキャンプならば失敗してもいいんです。
けれども命を守るべき災害時には確実に安全に使える品を持っていたいものです。
消耗品などは安く抑え、生命に関わるものは多少高くても確かな性能の品を選ぶ。
そんなバランスをうまく取れればベストでしょう。
本コンテンツは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」Vol.66 2023年秋号(2023年(令和5年)10月発刊)から転載しています。
広報誌「くらし塾 きんゆう塾」目次