アウトドアのスキルが役に立つ 楽しみながら備える新・防災術
なぜ、キャンプのスキルが防災に役立つのか?
初心者・一般向け
- 事故、災害
タグ(キーワード)
- 防災
- 楽しみながら備える
- キャンプの知識と技術
キャンプのスキルが可能にする家族や個人の自立的な避難
近年、自然災害は世界的に増加傾向にあります。
どこで生活していても、突然避難を余儀なくされる事態は誰にでも起こり得ることです。
しかし、自治体などの避難所には地域の全員を受け入れるだけのキャパシティはありません。
避難生活の環境を整えるための備品や備蓄食にも限りがあります。
“公助”に頼るだけでなく、この機会に“自助・共助”も考えてみてはどうでしょうか。
阪神・淡路大震災や東日本大震災の後、防災用品や非常食などを備蓄する家庭は増えました。
しかし、いざ自宅が被災して避難生活となったとき、それらを上手に活用することはできますか?
備蓄型の防災策だけでは、もしものときに使えるかどうか、不安があります。
この数年は空前のキャンプブームが続いています。
家族で出かける人もいればソロキャンプを楽しむ人もいて、道具類もかなり進化してきました。
キャンプとは、衣食住すべてを大自然の中に持ち出して過ごす時間にほかなりません。
その道具やテクニックこそが、災害時に野外に避難して生き延びるために役立つのです。
私は中学生のころからキャンプ場以外でのテント泊を楽しみ、国内外各地でキャンプをしてきましたが、防災×キャンプの発想に至ったのも2011年の東日本大震災がきっかけでした。
被災した人たちは、避難所に入れても硬い床で安眠できず、プライバシーもありません。
温かい食べ物もなかなか口にできませんでした。
また自家用車で寝泊まりする人たちの中には、狭い場所で長く過ごすことでエコノミークラス症候群になってしまう人もいました。
そうした状況を知り、自分たちが経験してきたキャンプのスキルこそ避難時に生かせると気づいたのです。
避難所に行くのではなく、自分たちでテントを張り、温かな食事も用意できる自立的な避難ができれば、ストレスが減り、健康を保ちやすくなります。
さらに重要なのは、公助に頼らないことで、公共施設の限られたスペースや資源に余裕が生まれ、避難所で過ごす人たちや現地自治体の負荷も減るということです。
もちろん、単にキャンプ道具一式を保有しているだけではいざというときにうまく使いこなせません。
日常でアウトドアを楽しみながら、手持ちの道具の使い方や自然の中での快適な過ごし方に慣れておくことがカギでしょう。
アウトドアには一定の知識が必要です。
管理されているキャンプ場も、絶対に安全な場所とはいえません。
身の安全を守ること、周囲の自然を壊さないことなどすべてが自己責任。
しかし、だからこそ人間が自然の中で生きるという太古からの知恵を、現代の便利な道具を使って、楽しく追体験できる場でもあるのです。
焚き火の扱いなどは、子どものみならず、大人にとってもきっとわくわくと胸躍る経験になるでしょう。
野外の生活で確保すべきは衣食住の3つのDOOR
衣食住という日本語には大きな意味があります。
衣→食→住とは、まさに人間が生き延びるための優先順位。
古来多くの災害を経験してきた日本ならではの言葉でしょう。
私はこれを、アウトドア(OUTDOOR)にかけて3DOORSと呼んでいます。
1つめのDOORは“衣”
災害に直面するのは暑い季節とは限りません。
温暖な時期でも、朝晩の野外は冷え込みます。まして冬であれば身体の冷えはつらいもの。
人間は低体温の状態が3時間ほど続くと生命に危険が生じます。
寒さに耐え得る衣類や寝袋、マット、携帯カイロや湯たんぽなどの保温材を準備し使い方に慣れておくと安心です。
現代では季節や気候、環境に合わせた機能性素材のウエアもさまざま出ています。
組み合わせて重ね着することで寒さから身体を守れます。
保温シートなど身近な素材も、身体に巻き付けたり、切ってテープで貼り合わせて動きやすい“衣類”にしたり、あれこれ試してみるのもいいでしょう。
夏でも雨の日や夜は冷え込むので油断は禁物。
どうしたら寒さをしのげるか、体験しておこう
また夏場は熱中症予防も大切です。身体のどこを冷やすと効果的なのかもアウトドア体験を通して知っておきたいところです。
2つめのDOORは“食”
食の基本として重要なのが水と火の確保です。
温かな食事に火は不可欠ですが、まずは水。3日間水分を摂らないと人間の身体は危険な状態に陥ります。
水道は断水し、ペットボトルの水も手に入らず、給水車が来ないとしたら?
河川や湧き水、池などはあるかもしれません。けれど泥が混ざり、細菌による衛生面の心配もある水をそのまま口にするわけにはいきません。
飲料水として安全な水をいかに確保するかは最重な課題です。
自然の中で手に入れた水の中の不純物やバクテリアを、高精度で除去できるコンパクトな浄水器があります。
欧米では今、トレッキングなどを楽しむ際も水筒は持たず、途中の湧き水を浄水して飲む人々が増えています。
高性能な浄水器があれば川の水などもろ過して飲める。
ただし放射性物質や海水の塩分は取り除けない
しかしそれでも不安だったり、高性能な浄水器がない場合は、重ねた布、砂と木炭などで水をろ過して濁りや汚れを除いたうえで、さらに数分間、鍋やケトルでぐらぐらと沸かせば殺菌ができます。
安全な水を作るためには、火が必須なのです。それでは火はどうやって手に入れるのでしょう。
カセットコンロやバーナーがあれば火は簡単に得られます。それらがない場合は焚き火です。
着火するのにライターやマッチは便利ですが、水に濡れると使えません。
そんなときのために、第3の火起こし方法を身に付けておくとよいでしょう。
安全な水を手に入れるためにも火は不可欠。
ライターやマッチがないときに、火を起こす方法を知っておく
それがメタルマッチと呼ばれるもの。金属の棒をナイフの背などで強くこすると、濡れていても火花が出ます。
それを火種に移し、小枝から少し太い薪へと育てていけば焚き火の完成。
煮炊きができ、暖をとれ、灯りにもなる火を自分で起こせると、平時のキャンプもいっそう楽しくなるはずです。
3つめのDOORは“住”
住とはつまり、過ごす場所の確保です。
テントの設営に慣れておきましょう。
灯りも複数必要です。懐中電灯やヘッドランプ、ランタンなどはキャンプの必需品。
ただ、乾電池式だけだと長期の使用には不安があります。
ソーラー充電タイプもぜひ試してみましょう。また、避難ではトイレ問題もあります。
断水すると水洗トイレは使えなくなります。非常用の使い捨てトイレなどを、キャンプ時に使ってみるのも1つの方法です。
自然の中で楽しく過ごす その技が生きる技術になる
手ぶらで行くだけでゴージャスにもてなしてくれるグランピングや、電源なども揃った場でのオートキャンプも快適なものでしょう。
けれども自然の中であえて不便に立ち向かうキャンプは、当たり前と思われているインフラがない環境でも自ら生き抜くすべを、遊びながら身に付けられる場です。
それが、災害時にも心を落ち着けて自立的避難ができる技術につながります。
次回はキャンプ道具の選び方を含め、被災に備えるためのより具体的なテクニックをお伝えしていきます。
いざというときに備える最低限の道具類とは?コラムいざというときに必須なのは現金だけじゃない!
アウトドアで過ごすには現金は必須です。
山に登る人も必ず現金を持って行きます。
天候の悪化によりテント泊の予定を変更して山小屋に泊まることはあるし、水や食べ物を買ったり、交通費や通信費などに使えるからです。
被災時も同様。避難に備えて、小銭と数枚のお札は非常持ち出し袋や自家用車内に入れておくべきです。
災害で携帯電話がつながらなくなった場合、公衆電話は無料になっていても、電話機の種類によっては最初に入れる10円玉が必要です。
現金があれば、稼働している自動販売機も使えます。
また、避難する際には身分証明になるものも持って出るのが望ましいでしょう。
健康保険証、運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなどがそれにあたります。
それらのコピーを非常用持ち出し袋に入れておくとよいでしょう。
災害時には、キャッシュカードや通帳が失われても、本人であることの証明ができれば、預金を引き出せるようになることも多いです。
保険証書、家や土地の権利書なども、失われて内容がわからなくなっては困りますが、すべてコピーして持ち出すのでは紙の分量もかさばるので、スマホなどで撮影しておくのがおすすめ。
自宅では本物とコピーを別々の場所に保管しておけば、万が一家が壊れてもどちらかを後で回収できる可能性が高くなります。
離れた場所に暮らす家族などがいれば、コピーを預けておくのもよい方法です。
本コンテンツは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」Vol.65 2023年夏号(2023年(令和5年)7月発刊)から転載しています。
広報誌「くらし塾 きんゆう塾」目次