先生のための金融教育セミナー
2019年度 先生のための金融教育セミナー(8月・東京)
【高等学校向け】
2.パネルディスカッション
「新学習指導要領の下での金融教育」
- パネリスト
-
- 玉川大学教育学部 樋口 雅夫 教授
- 東京都立国際高等学校 宮崎 三喜男 主任教諭
- 中村 新造 弁護士
- コーディネーター
- 金融広報中央委員会事務局 金融教育プラザリーダー 岡崎 竜子
最初に、新学習指導要領が目指す子どもたちに必要な資質能力を育むための狙いについてご紹介いただきました。樋口氏は、「新学習指導要領では、学校と社会が目標を共有し、これからの時代をつくる子どもたちを育てるという観点がとり上げられています。全国の先生方が情報を共有し、社会の各方面の方々とも連携協働し、より良い授業を通して、より良い学校、より良い社会を目指していくことが求められている」と話されました。
続いて、新学習指導要領が目指す教育を実際に学校で指導されている立場から、どのように考え、また実践されているのかについて、宮崎氏にご意見を伺いました。宮崎氏は、「これまでも主体的な学びの授業を実践してきましたが、今後、さらに探究型の授業にギアチェンジしていく必要があると考えています。また、外部と連携した実践では、出前授業だけでなく政策提案型の授業などを取り入れてはどうか、そして、時間が足りないという問題については、何を教えるかというコンテンツベースの授業から、どのような力を身につけさせるかというコンピテンシーベースの授業に移行していく勇気を持つことが大事ではないかと思います」と述べられました。この発言を受けて樋口氏は、「単元を貫く大きな問いを立て、考察、解決していく中で、必要な知識も身についていく。限られた時間数で授業をどう構成するかが、今、求められている」と話されました。
次に、成年年齢が引き下げられる背景と留意点について、中村氏・樋口氏にお話を伺いました。中村氏は、「少子高齢化もあって、18歳を大人として扱うことによって、国づくりの中心となる若者に積極的に役割をはたしてもらい、社会に大きな活力をもたらしてほしいという考えが背景にあると国は述べています」と述べられました。一方で、「成年年齢の引き下げにより、18歳になった時点で未成年者取消権が消滅することで、消費者被害が増える惧れがあります。成年年齢が引き下げられるので、高校以前で契約について教えることとなりますが、契約という知識だけでなく、お金を使いすぎるとこうなる、貯めるためにはこうするといった、実践的な学習も必要になってくると思います。これまで学校以外で教えていたことが、学校教育の中に入ることとなるため、さまざまな工夫が必要になるのではないか」と述べられました。成年年齢が引き下げられる中での学校教育の取り組みを宮崎氏に伺いました。宮崎氏は、「学校教育においては、なぜ契約自由の原則には例外があるのか、どのような点に気を付けて消費行動を行えば良いのか、といった具体的な問いを設け、主題を探究させる必要が出てくる。成年年齢の引き下げにより、18歳になった時点で未成年者契約取消権がなくなるため、消費者を守るための法的規制や行政による施策が行われていることを理解し、これからの1年半で学校がどのように消費者教育を進めていくかが問われています。生徒指導も含め学校全体として行うこと、公民科と家庭科の授業内容を調整するなど、教科間で連携するといった教科として行うことを整理していくことも必要です」と語られました。
高校生に金融教育として何を教えていけば良いかについて、宮崎氏・中村氏に伺いました。宮崎氏は「制度設計者としての考え方と、制度活用者としての考え方の二つの視点で教えるようにしています。自分ならばどうするかというような主題を与え、生活に根差した学習に近づくようにしています」と話されました。中村氏は「就職する子どもたちは、お金を手に入れ、大人の仲間に入っていきます。18歳で未成年者取消権がなくなり、お金を借りたら、返さなくてはいけないことやそれに関連したリスクを伝える必要がある」と話されました。
最後に、新学習指導要領が目指す教育について、樋口氏は、「高校生に身につけさせたい力とは何なのか。生徒個人と社会をつなぐ媒介がお金であることを思えば、お金を通して社会に対して関心を持ち、より良い人生を送りたいという気持ちなどを育むことが、金融教育に期待されています」と話されました。宮崎氏は、「新学習指導要領は、金融教育を通して、高校生にどのような資質や能力を身につけさせるかを考えるチャンスだと思います。金融教育や消費者教育は、5年後、10年後のことを見据えて教育することを忘れてはいけないと思います」と語られました。中村氏は、「学校教育においては、18歳で未成年者取消権という防波堤がなくなること、親権という保護がなくなることを生徒に伝えるようにしていただきたいと思います。明治時代から続いてきた20歳成年年齢制度の下で生きてきた私たちが経験していない世界に入っていくこと、これからの子どもたちは、これまで高校卒業から20歳になるまで2年程度あった助走期間を経ることなく成年になるのだということを理解していただきたいと思います」と結ばれました。