先生のための金融教育セミナー
2019年度 先生のための金融教育セミナー(8月・東京)
【小学校・中学校向け】
3.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
中学校分科会2
- 進行・コメント
- 山梨大学大学院総合研究部教育学域 教育実践創成講座(教職大学院)
神山 久美 准教授
実践発表およびワークショップ(1)
「自分らしく生きる」(1年 道徳)
福岡県朝倉市立秋月中学校 山下 大樹 教諭
実践発表
金融教育研究校として2年間にわたって本校で行った金融教育の実践内容をご紹介します。
生徒に実施したアンケートから、「計画的なお金の使い方が身についていない」、「インターネットでの買い物で金融トラブルに巻き込まれそうになった」といった生徒がいることがわかりました。そこで研究主題を、「確かな金銭感覚を身につけ、主体的に行動する生徒の育成〜主体的・対話的で深い学びを位置づけた学習活動を通して〜」に設定しました。
本校の教育活動の特徴として、キャリア教育、外国語教育、ふるさと教育があります。夏休み中には「稽古館夏講座」というユニークな講座があります。これは、知・徳・体・キャリア分野から40以上の講座を設け、生徒が自主的に選び、さまざまな体験活動ができるものです。その中で、地域の伝統文化を体験して学ぶ「和紙」と「染め物」では、生徒自らが作品について考え、製作し、秋の文化祭では販売を行いました。生徒は、ニーズに合わせて商品を作る難しさや、原材料費を考えながら利益をあげる商売の厳しさを理解することができました。
本校では、毎年5月に、全校生徒で茶摘みを行っています。そこで、金融教育のキャリア教育の視点から、「秋月中ブランド茶を製作し、販売しよう」をテーマに学習を行いました。完成したお茶をいくらで売れば良いのか、労働費、製造費、袋代などを考えて、販売価格を検討しました。生徒からは、「商品代にはいろいろな費用が入っていることを知ることができた」、「働くことが社会を支えていることに気づいた」といった感想がありました。11月には、各学年で金融教育公開授業を行いました。1年生は道徳で、自作資料「夢の夢」を使用して、将来の夢や人生設計を貯蓄型と投資型の視点から考えました。2年生は社会科で、江戸時代の人々の金銭感覚について考えました。3年生は学活で、マネープランゲームを行い、自分が理想とする人生の実現に向けた生活設計を立てることと正しい金銭感覚を身につけることの大切さを学びました。
2年間の成果は、生徒が働く意義とお金の価値を理解し、確かな金銭感覚を養うことができたこと、地域と連携しながら生徒が自ら考え、行動する主体的・対話的で深い学びの場が持てたことです。今後の課題としては、学校全体で金融教育に取り組むため、教科間の横断的な連携を含めた全体的な教育計画を作成する必要があると思っています。また、身近な事象から課題を引き出して、生徒が主体的に考え、行動ができるような問いや学習課題の工夫が必要だと考えています。
ワークショップ
20分の模擬授業の後に、「夢の夢」という自作資料を使って、自分らしい生き方について考えていただきました。資料の主人公が見た夢を題材に、少しずつお金を貯めて、老後に世界一周旅行の夢を叶える「コツコツ型人生」と、貯金はできないが、若いうちからやりたいことをやる「チャレンジ型人生」のどちらが良いかを選択し、その理由を考えていただきました。
参加者からは、「コツコツ型人生とチャレンジ型人生の良さ、また、それぞれのリスクについても共有することができて良かった」、「同じ資料を読んでもいろいろな考え方があることに改めて気づいた」といった意見も聞かれました。
コメント
神山久美先生より、次のようなコメントがありました。
山下先生の実践発表は、道徳科としての枠組みで行われたもので、大変興味深い内容でした。新学習指導要領の「特別の教科 道徳」のA内容は、自分自身に関することで、山下先生が目標となさった向上心や個性の伸長は、新学習指導要領では一括りの項目となっています。先生のご報告の生徒たちの様子から、ひとりひとりの充実した生き方につながる活動であったと思われました。C内容は、集団と社会との関わりで、ここに先生が重視した「勤労」が含まれています。「勤労の尊さや意義を理解し、将来の生き方について考えを深め、勤労を通じて社会に貢献すること」とあり、今回の稽古館夏講座や秋月中ブランド茶の製作・販売という体験的な学習を通して、これらが適切に達成されたのではと思われました。地域と連携して、生徒が主体的・対話的で深い学びができる場をつくり、実践なさったことは大きな意義がありました。
新学習指導要領では教科横断型が強く打ち出されています。今回の実践は、道徳科だけでなく家庭科や社会科などと関わりがあり、今後、教科横断型のカリキュラムとしても発展させられる内容だと思いました。
実践発表およびワークショップ(2)
「私たちの消費生活『消費者としての自覚をもとう』」
(3年 技術・家庭科(家庭分野))
茨城県古河市立総和中学校 小島 達矢 研究主任/岡安 利明 教務主任
実践発表
金融教育研究校として2年間に亘って行った金融教育の実践についてご紹介します。まず、アンケートで生徒の実態を調査したところ、日頃からお小遣いなどの金銭管理を行っていないこと、金融や経済の仕組みに関する理解が十分でないこと、家族との将来の夢や進路についての会話が少ないことがわかりました。また、本校では、87%の生徒が携帯電話やスマートフォンを持っており、約10%の生徒が通販などでの失敗経験がありました。この結果から、1.金融教育の視点の作成、2.知識活用型授業の導入、3.金融教育の視点を活かした授業実践を行い、より良く判断し主体的に行動する態度を育成するための金融教育の在り方を追求することにしました。
金融教育の視点の作成については、『金融教育プログラム』にある金融教育における4つの分野(「生活設計・家計管理」、「金融や経済の仕組み」、「消費生活・金融トラブル防止」、「キャリア教育」)から8つの重要概念を選択し、本校の金融教育の視点としました。知識活用型授業の導入にあたっては、各教科の授業を「課題把握場面」、「知識活用場面」、「課題解決場面」に分けて授業を構成することにしました。
金融教育の視点を生かした授業実践として、「生活設計・家計管理」の分野では、第2学年の学級活動で、「一人暮らしのお金の使い方を考えよう」という題材で授業を行いました。第3学年の英語では、「友達を観光地に誘おう」のテーマで、ペアで行きたい観光地を選び、内容と金額を比較しました。「金融や経済の仕組み」の分野では、数学の授業で、正の数、負の数を使った収支計算の授業を行ったり、携帯電話の料金プランの比較に関する授業実践を行いました。「消費生活・金融トラブル防止」に関する分野では、第2学年の道徳で「法ときまりとお金」という題材を用い、法律の基礎知識を学んだり、どうすれば詐欺にあわずに生活できるのかを考えました。「キャリア教育」に関しては、第1学年の学級活動で、「自分の将来に必要なものは何だろう?」という題材で、マネープランゲームを行いました。こうした授業実践で、生徒が暮らしや社会について深く考え、生き方や価値観を磨く力を育むことができました。
研究のまとめですが、金融教育の視点と授業実践のポイントを明確にすることによって、各教科における金融教育の内容や要素が明確になり、多くの生徒の理解が深まりました。生徒の自立する力や社会と関わる力を育成する手立てとして有効であったと思います。今後の課題としては、生徒が金銭について深く考えたり、消費活動をする際に知識を活用する機会を増やす必要があると考えています。
ワークショップ
ワークショップでは、先生方に金融教育の視点を踏まえた指導案を作成していただきました。生徒が興味を持ちそうな課題の設定・導入と、教師による効果的な発問、学習課題の解決に繋がる手立ての工夫について考えていただきました。小島先生からは、「教師の役割は、子どもたちに確実な知識を定着させること。そして、自分の立場に置き換えてどうすればより良く生活していけるかを子どもたちに考えさせることが必要だと思います」とのコメントがありました。
コメント
神山久美先生より、次のようなコメントがありました。
2年間にわたる金融教育研究校としての実践のうち、特に技術・家庭科(家庭分野)に関するご報告を頂きました。『金融教育プログラム』では、金融教育の4つの分野が設定され、最終目標の「よりよい生活と社会づくりへの取り組み」へとつながっています。総和中学校の取り組みは、この4つの分野から目標を明確に定めた後に各教科で創意工夫のある実践がされていることが特徴で、金融教育の目標や意義を学校全体で共有した実践となっていました。
家庭分野の実践に関してご質問がありましたが、ネット通販での契約成立時期は、消費者が商品の申し込みをした後に事業者から承諾の通知が到着した時点となります。電子消費者契約法という法律で、教員が消費生活に関する法律知識がないので教えるのが不安という声もありました。成年年齢引下げに関する高校生向け教材として消費者庁「社会の扉」があり、教員用解説書を読むと基本的な法律の説明があります。18歳成年時までに指導すべき内容を教員が理解し、目の前の中学生にどう教えたらよいか考えてみるとよいと思います。
本日の報告では、アクティブ・ラーニング的な授業方法を導入し、生徒たちを引きつける工夫のある授業づくりがされていました。ロールプレイング教材やワークシートは、先生方が生徒の状況にあわせて工夫すると良いと思います。