お金について学ぶ 国際シンポジウム
基調講演
(3) 経済力と文化力。両方がバランスのいい社会を目指す教育
寺脇 研(文部科学省/文化庁 文化部長)
いま最も大切なことは、経済教育やお金についての教育の前の段階として、まずこの社会がどうあるべきか、子どもたちにどういう社会のなかで生きて欲しいと願うのか、ということを考える必要があるということです。
文化庁が提案している「文化力」(「経済力」の対語として)というものの考え方は、単に文化を盛んにしようというのではなく、社会全体を経済的尺度と文化的尺度の両方がバランスよく取り込まれたものにしようということです。
なぜここで「文化力」を強調しなければならないかというと、20世紀後半の約20年あまり、私たちの社会は経済力のことばかりを考えて、文化力の方をほとんど忘れてしまっていたと思うからです。この10年、経済指標だけみれば失業率が増大したとか、いろいろな意味で景気が悪くなったといわれています。
ところが文化力という尺度から見たらどうでしょうか。私は豊かになったと考えています。例えば、交通機関利用の際のバリアフリー化は画期的に進んでいます。これは経済的尺度ではなく文化的尺度で評価すべきことだと考えています。
バブルの頃、私たちはお金がたくさんある人は幸せで、お金を少ししか持っていない人は不幸せという考え方に凝り固まっていました。経済的な尺度で測ると、すべてのことを損か得かの二分法で考えてしまうのです。
私たちの提案する文化力とは、損か得かということではなく、気持ちがいいことか悪いことかの尺度で考えていこうということです。そうすれば私たちの社会、生き方、生活を見直していけるのではないでしょうか。
ですから教育もいままでの得になることを目指す教育から、損か得かはもちろん大事ですけれども、同時に気持ちのいい生き方をするためにはどうあるべきか、と考える教育に変わっていかなければならないと思います。
社会と経済は不即不離の関係にあります。お金に関する教育で、知識の教育は進んでいますが、決定的問題は、これまでお金に対するものの考え方、すなわち社会に対するものの考え方についての教育が不足していたということです。ここのところをどのように結びつけていくかが問われなければなりません。
新しい学習指導要領で導入された総合的な学習の時間や、学校以外のNPOやボランティア活動等を通じて、子どもたちが社会・経済と自分の生活との関わりをしっかりと考えていけるような教育が何より大切だと思っています。