金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(2023年10月改訂版)
4.金融教育の指導計画の作成と実施に向けて
(4)教材化と指導方法の工夫
① 教材化の工夫
一般に教材は、目標の実現を目指し指導内容をより具体的に示すと同時に、児童生徒にとって興味・関心を喚起するものでなければならない。また、学習場面に応じて効果的に活用できる性格を備えることも必要である。
ア.金融教育の視点を加味する
金融教育の内容は、教育課程上、各教科等に位置付けられていることから、教材は当該教科等の教材という性格をもっている。金融教育としてのまとまった内容が設定されているわけではないため、その教材は、当該教科等のねらいを実現するためのものという位置付けにならざるをえない。このため、金融教育の視点を加味して教材化したり、活用面で工夫したりすることが必要となる。
例えば小学校社会科第3学年において、地域に見られる販売の仕事を取り上げる場合、金融教育の視点から考えると、仕事の様子とともに、売り上げを高めるための販売の工夫や仕事のやりがいなどを加味した教材を作成することが考えられる。また、中学校技術・家庭科(家庭分野)における商品やサービスの適切な選択、購入、活用に関する学習の場合、金融教育の視点から考えると、予算の制約や商品の特性と価格などの資料を含む教材を準備し、選択と意思決定の過程が分かるよう工夫する。
イ.児童生徒にとって身近で具体性のある教材
金融教育に関わる学習内容を目に見えるようにし、児童生徒にとって自分事として実感できるようにするためには、分かりやすく具体性のある教材を工夫することが大切である。例えば、毎日の家庭生活の中から衣食住に関わる題材を教材化したり、地域の中で児童生徒の目に触れるものを取り上げたり、マスコミで話題になった題材をヒントにして教材化したりする工夫が考えられる。また、中学校や高等学校で金利について学習する場合、新聞に掲載されている様々な広告などを手がかりに、金利について比較させ関心をもたせて、さらに調べ学習を通じて追究を深める活動を取り入れるなどの工夫が考えられる。
ウ.疑問を喚起する教材
教材はその活用も含めて工夫することにより、児童生徒の興味・関心や疑問を喚起することが可能である。例えば、クレジットカードを題材としてその支払いと決済の仕組みを理解させる場合、販売店における代金の請求の仕組み、カード会社における業務などについて、より具体的な素材を教材化することが考えられる。その際、「なぜ、カードで買い物ができるのか」、「販売店はどのようにして代金を受け取るのだろうか」、「カードで買い物をするとき、どのようなことに注意したらよいか」などのように、その後の探究活動につながる具体的な問いを引き出すよう工夫することが大切である。
エ.作業的な活動を促す教材
金融教育の取り組みには、お金と関連して商品を比較して選択したり、将来を設計したりする学習が多くみられる。また、選択と意思決定に関連して、お金に置き換えて計算する学習が行われたりする。このような学習の特色を考えると、教材化に当たって児童生徒による調査、比較、予想、計算などの作業が可能であり、作業を通して納得解が得られる活動を工夫することが考えられる。具体的には、様々な作業ができ、学習を進める中でその結果が見えてくるようなワークシートの工夫を行いたい。
なお、学校のICT環境の整備が進んでいる。2023年に閣議決定された「教育振興基本計画」においては、全国の小中高等学校におけるICT環境の飛躍的な進展を受け、教育のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた段階的なデジタル化の過程として、初等中等教育においては「デジタル教科書・教材・学習支援ソフトの活用に向けた取り組みの推進」が、高等教育においては「面接授業と遠隔授業を効果的に組み合わせたハイブリッド型教育やデジタルを活用した教育の高度化を図る」ことが求められている。金融教育の分野においても、ICTを活用した教材の作成や、それを使用した実践事例の蓄積が求められている。