先生のための金融教育セミナー
2019年度 先生のための金融教育セミナー(8月・東京)
【小学校・中学校向け】
3.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
小学校分科会2
- 進行・コメント
- 東京都東村山市立回田小学校 曽我部 多美 校長
実践発表およびワークショップ(1)
「人・もの・お金の大切さが分かり、感謝や自立の心を高める金銭教育」(全学年 全教科)
岐阜県瑞浪市立陶小学校 加納 素介 校長/久米 佐知子 教務主任
実践発表
本校は、岐阜県の東濃地方にある小規模な小学校です。平成28年度に金銭教育研究校の委嘱を受けました。校長として赴任した際は、私自身、金融教育、金銭教育という言葉に馴染みがなく、手探りでのスタートでした。ただ、委嘱を受けたからには、学校全体で取り組み、金銭教育を通して子どもたちに生きる力をつけさせたい、自立の心を育てていきたいと思いました。そこで、研究主題を「自分で考え判断して生活できる子〜人・もの・お金の大切さが分かり、感謝や自立の心を高める授業の工夫〜」としました。
金銭教育を行うにあたっては、単元構想と学習活動の2つの面で工夫しました。単元構想では、金銭教育の4つの観点(生活設計・家計管理、金融や経済の仕組み、消費生活・金融トラブル防止、キャリア教育)と各教科の学習内容の関連性を、低、中、高学年それぞれで洗い出しました。そして、各単元に「知る・気づく、考える、判断する、行動する」の学習サイクルを組み込んだ単元構想図を作成しました。学習活動については、6年生では修学旅行という良い題材がありますので、これを活用しました。学習サイクルの「知る、考える、判断する」までを授業で行い、「行動する」を修学旅行に組み込みました。教室にお土産屋さんを再現し、「決められた予算の中で、喜んでもらえる買い物をしよう」という課題で授業をしました。子どもたちは相手の好みや値段、消費期限、個数などを考慮して予算内で買い物をすることを学び、実際の修学旅行では、じっくり考えてお土産を買う姿が見られました。
本校のある陶は、陶器の町です。そこで2年目は地域の力も借りて、全校で焼き物に取り組みました。地元の陶磁器工場を見学したり、かつて陶器を馬車で運んでいた街道など陶器に関わる歴史に触れながら地域の産業と文化を学び、最後は粘土製作に没頭しました。こうした過程を経て、子どもたちは、自分たちの故郷に対して誇りと愛着を深めることができました。
成果と課題ですが、「お金についての知識・理解」、「仕事や将来についての家族との会話」、「計画的なお金の使い方」の面で顕著に成果が見られました。また、周囲に関心を持ち、主体的に動く姿が多く見られるようになったことも成果だと思います。今後は、引き続き地域や家庭にご協力いただきながら、感謝と自立の心をさらに高めていく教育ができればと思っています。現在は、これまでに培ったものを基に横断的な学びとしてのカリキュラム・マネジメントを進めているところです。
ワークショップ
ワークショップでは、買い物において大切なことを子どもたちにどう教えれば良いかを考えるため、子どもたちと同様に、予算5千円でお土産の買い物計画を立てていただきました。参加者からは、「消費期限や値段だけを気にするのではなくて、相手への思いが伝わるようなお土産を選べると良い」、「良い選択肢がなければ買わないという判断ができることも大切」といった意見が聞かれました。
コメント
曽我部多美先生より、次のようなコメントがありました。
資料にあった陶小学校の子どもたちの表情がとてもよく、金銭教育を通して、子どもたちの地域を愛する気持ち、地域をより良くしたいと思う気持ちがしっかり育ったことが伝わってくる発表でした。
陶小学校の実践は、単元に「知る・気づく、考える、判断する、行動する」の学習サイクルを組み込んだものでした。「行動する」の部分が修学旅行での買い物体験にあたるわけですが、本校でも移動教室での買い物体験を取り入れていますが、買い物をするだけで終わらせず、振り返りをして、次の買い物に活かすところまで行うようにしています。修学旅行は買い物体験の題材としては最適だと思います。授業での買い物の学習が難しい場合は、本校ではタブレットを使ってネットストアでの疑似体験をさせたこともあります。
実物を使って買い物体験を行う場合は、「ノート」を使うのも良いと思います。軽いノート、分厚いノート、キャラクターのノートなど10冊くらいノートを提示して選ばせて、なぜそれを買うのか理由を考えさせます。ノートは子どもにとって身近な必需品で、お小遣いで買えるので、実感を伴って理解できます。
実践発表およびワークショップ(2)
「安心を買う?〜もしもの時に備えて保険や貯蓄について考えよう〜」(6年 家庭科)
山梨県上野原市立秋山小学校 和智 宏樹 教諭
実践発表
本校は山梨県の山間部にある小さな学校です。平成29・30年に金銭教育研究校になり、昨年度は学校全体で三つの実践を行いました。その中で私が行った実践が、6年生の家庭科での「安心を買う?〜もしもの時に備えて保険や貯蓄について考えよう〜」です。
「保険や貯蓄を扱うのは難しすぎるのではないか」という懸念もあったのですが、すべてを理解できなくても、小学生なりに考える経験をしておくことは無駄にならないと思いましたので、思い切って授業をつくりました。学習の流れは、1.ワークシートを使用して1ヶ月の生活にかかるお金をシミュレーションする、2.不測の事態への備えとして保険や貯蓄について考える、3.保険や貯蓄を考慮して1ヶ月の生活にかかるお金をもう一度シミュレーションする、というものです。
ワークシートの設定は、父・母・子の3人家族、ひと月に使えるお金は20万円です。「光熱費・通信費」「食費」などの各項目には、「贅沢コース」、「通常コース」、「節約コース」を用意し、子どもたちにも検討しやすいようにしています。子どもたちは、保護者の方にも相談しながら、光熱費や食費のほか、お洒落をしたり出掛けたりするのに必要なお金も考え、ワークシートに書き込みました。ちょうど修学旅行がありましたので、旅行の明細を見せて、「目に見える形では使っていないけれど払っているお金があること」を気づかせました。それが保険代であること、そのお金で安心を買っていることを説明しました。保険には沢山の種類がありますが、わかりやすいように、生命保険、医療保険、自動車保険など数種類に絞り、それらを考慮してもう一度20万円の使い道を考えさせました。子どもたちは、何度も書き直しながら、ワークシートに書き込んでいました。
学習後、子どもたちからは、「お父さんやお母さんは大変だなと思った」、「20万円もあるなんてお金持ちだと思ったけど、いろいろ考えたら20万円では足りなかった」、「保険や貯蓄の大切さが分かったけれど、人それぞれの考え方によるものだということも分かった」といった感想がありました。子どもたちは実践を通して家計管理の難しさを知り、親への感謝の気持ちを持つことができました。また、ものやお金に限りがあることを理解し、大切にしたり、計画性を持って取り組んだりする態度を養うことができたと思います。金融教育を限られた教育課程にどう取り入れていくのかは引き続き課題ではありますが、各教科における「発展的な学習」として取り入れるなどして、今後は「選択を適切に行う力」をより向上させていきたいと考えています。
ワークショップ
子どもたちと同じワークシートを使って20万円の生活費の使い方を考え、発表し合いました。また、このワークシートを地域や自校の児童に合わせてカスタマイズするとしたらどのように変更するかなどを話し合いました。
和智先生からは、「体験していただいたとおり、限られた予算内での優先順位は子どもたちの間でも異なります。各々の違いを共有し、理解し合うことも大切だと考えています。ワークシートを複雑にしすぎると子どもたちが違いを比較しにくくなるので、できるだけシンプルにしています」とコメントがありました。
コメント
曽我部多美先生より、次のようなコメントがありました。
和智先生の実践はとても興味深い実践でした。家庭科では家計管理をとても大切にしています。20万円あっても食費や光熱費など必要なお金を払ったらそれほど余裕がないこと、その余裕がないところから、家族は保険や貯蓄で不測の事態にも備えているということが子どもたちにもよく伝わったと思います。
保険については、本校でも取り上げたことがあります。子どもたちにとって身近で比較的理解しやすい自転車の保険を取り上げ、もしもの時に備えるには貯蓄と保険のどちらがいいのかを考えました。
今回の学習指導要領の改訂で私たちが問いかけられていることは、「今、学校で教えていることは、時代が変化しても子どもたちの生活に役立つのか」ということです。子どもたちが自分の力で未来をつくっていく、そのための資質と能力を養うのが学校教育であるということです。金融教育はまさに子どもたちのこうした資質と能力を育む教育であり、大変重要な教育であると思います。