2014年度 教員のための金融教育セミナー
2.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
中学校分科会
- 進行およびコメント:
- 国立教育政策研究所 大杉 昭英 初等中等教育研究部長
実践発表およびワークショップ(1)
「マネー教室」
奈良教育大学 キャリアアドバイザー・
前 奈良県河合町立河合第二中学校 校長 柿本 篤子 氏
実践発表
私は、昨年度末で中学校を退職し、今年度から奈良教育大学に勤務しております。中学校退職までの6年間、2校の校長として赴任させて頂きましたが、その2校でマネー教育、いわゆる金融教育を行いました。本日は、「生きる力をはぐくむマネー教育」と題して、前任校である河合第二中学校での取り組みをご報告させて頂きます。
同校では、「高め合い 力を発揮しよう! 大好き河合二中! 自慢できる学校!」をスローガンに、「学びを育む基礎学力・体力向上」、「キャリア教育(体験学習)」、「道徳教育・ボランティア活動」を重点に取り組んできました。特に体験活動を重視し、できるだけ多く取り入れました。例えば、ファイナンシャル・プランナーの方に出前授業をお願いしたり、外部へ体験活動に出向く授業を行ったりしました。また、学校から地域や保護者の方にできるだけ情報発信するとともに、評価を頂き、それらを活かす、というようにPDCAサイクルに則って学校経営を行ってきました。キャリア教育の一環としてマネー教育を行ってきたのは、お金や金融の様々な働きを理解させて、それを通して自分の暮らしや社会について考え、自分の生き方や価値観を磨いてほしいと願って取り組んだものです。
1年生では、「お金って大事! 考えてみよう」と題して、金銭教育ゲームでお金の大切さを学習しました。2年生では、校外学習として、職業・職場体験、3年生では、「マネー教育」と題して、第1回の「くらしとお金(教育費とその他のライフイベント)」から、第7回の「消費者トラブル(賢い消費者になるために)」まで、年間で約7回のカリキュラムを実施しました。また、最後に「お小遣いの使い方」についてのディベートを2回行いました。
3年生の「マネー教室」実施後にアンケートを実施しました。外国のお金、銀行の仕組み、株式などで「少し難しかった」という意見もありましたが、「とても役立つ」といった回答が6割強でした。保護者からも肯定的な回答が9割強あり、「マネー教育のような将来に役立つ授業は続けてください」といった意見が寄せられたほか、地域の方からも「将来を見据えて、まさに生きる力をつけておられますね」と評価する意見を頂戴しました。
ワークショップ
「外国のお金」、「株式会社の仕組み」、「生きていくにはお金がかかる」の三つの授業テーマについて、各グループで一つ選択して頂き、それぞれ実際に授業を行うとした場合の学習内容、指導上の留意点、資料について、話し合い、発表して頂きました。各グループの発表内容は、「生徒自身に何を考えさせ、何を理解させるのか」を明確にした上で、効果的な授業案を取りまとめたものでした。また、指導案を検討する過程で生じた疑問、課題について、活発な意見交換が行われました。
コメント
大杉先生より、柿本先生のマネー教育は幾つかの問題単元で構成されており、生活問題と深くかかわっているため、総合的な学習の時間として他の教科に好影響を与える構造となっている、また、株式の授業については、2010年から2020年までという時間の概念が入っているが、午前中のパネルディスカッションにおける大竹先生のお話の中で、「時間が変わると子どもの持っている気持ちが変わっていく」という説明があったこととも関連して、金融教育を実践していく中では「時間」という新しい概念を組み込んだ内容が考えられる、とのコメントを頂きました。
実践発表およびワークショップ(2)
「生徒の実態に応じた金融教育~職場訪問・職場体験学習・上級学校調べを通して」
東京都渋谷区立松濤中学校 大内 弘全 主幹教諭
実践発表
私は、本年4月の異動で渋谷区の松濤中学校の勤務となりましたが、本日は、前任校の、同じく渋谷区にある鉢山中学校で実践した金融教育について、「生徒の実態に応じた金融教育」と題して、ご紹介します。鉢山中学校は、東京都金融広報委員会から平成25~26年度の2年間にわたり、金融教育研究校の委嘱を受けました。学校全体の生徒数は100名ほどであり、少人数ということを活かし、体育館に集まり、学校全体で生徒の学んだことを発表する機会を数多く持ったり、外部企業、地域との交流・連携を図ったりしながら、学習を進めています。その一環として金融教育を取り入れてみようかと考えました。
金融教育研究校委嘱の話を頂いたのは平成24年ですが、実は私自身はお金について積極的に教えたことがなく、当時、躊躇していたというのが正直なところです。私の専門は歴史ですが、金融教育の話を伺って、「政治と経済は深い繋がりがあるのではないか」と思ったり、「日常にはお金に関する話題が多く、経済活動が重視されている」ことなどを考え、「少し金融教育を取り入れてみよう」、「そのためにどうしたら良いか」を考え始めました。他区で行っている金融教育を取り入れた学習活動なども参考にしました。金融教育を始めるに当たり、今回やったことを次の世代に受け継ぐために「誰もができる形にすること」が必要であると考えたほか、これまで行ってきた「キャリア教育との関連」に着目し、生活に欠かせない収入、支出について考えさせることを取り入れました。
金融教育の学習を通して、生徒たちは少し将来について考え、予測するとともに、両親、家族に対して感謝の念を持つようになってきたと思っています。将来設計を考える際には、もちろん学歴も必要ですが、資格も必要であり、そのために「中学校の勉強が大切だ」というように生徒たちに自覚が現れ、行動が見られるようになってきたようです。ケインズが、「この世で一番難しいのは新しい考えを受け入れることではなく、古い考えを忘れることだ」と表現していますが、世間も、生徒たちの実態も変わってきている中で、自分自身も古い考えを捨てることの重要さを、金融教育を通して、学習する機会を与えられたことに感謝しております。
ワークショップ
鉢山中学校で実践された各学年における職場体験学習の指導案、ワークシート等に関する説明の後、グループごとに、「今、行われている授業にどんな工夫を加えると金融教育の授業として面白いものができるか」、「どの学習内容で行うのか」、「教科なのか、領域なのか」、「何を使って行うのか(教材はこんなもの)」について考えて頂き、発表して頂きました。各グループから、遠足や修学旅行、歴史、模擬裁判、消費税など、生徒たちの興味や関心を持たせるような様々なテーマと指導例を披露して頂き、参加者間で情報共有することができました。
コメント
大杉氏からは、次のようなコメントを頂戴しました。
本日は、若手の先生とベテランの先生、いろいろな教科を担当する先生にご参加頂いたことから、意見交換が多様性に富んだという意味で大変有意義であったと思います。学校で担当教科が異なるとなかなか相互に話をする機会が持てないのが実情のようですが、本日の意見交換のように、学校の中でもいろいろな話し合いをして頂くと、金融教育というのは教科横断的な学習なので、効果的な指導に繋がっていくと思います。是非、本日の成果をお持ち帰り頂いて、金融教育を深めて頂ければと思います。