先生のための金融教育セミナー
平成20年度教員のための金融教育セミナー
2.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)
分科会3(高等学校)
- 進行およびコメント:
- 国立教育政策研究所 工藤 文三 初等中等教育研究部長
実践報告およびワークショップ(1)
「社会生活に関する法」(商業科・経済活動と法)
熊本県立玉名高等学校 山形 隆 教諭
実践報告
前任校の熊本県立松島商業高校で熊本県金融広報委員会から金融教育研究校の委嘱を受け、「金銭トラブルから身を守ろう」という課題で2年間実践活動を行いました。1年目の1学期は各自が興味のあるテーマについて調査研究を行い、夏休みには日本銀行熊本支店を見学し、熊本県消費生活センターを訪問、2学期には2班に分かれて「オレオレ詐欺」と「通貨偽造」についてのパンフレット作成等を行い、3学期に研究成果発表会を開催しました。2年目は、「経済活動と法」という科目で、法律知識の習得、金融広報中央委員会の冊子「きみはリッチ?-多重債務に陥らないために-」の活用や、インターネットの「ポリスチャンネル」の視聴を通じた学習を行い、「ネットオークション詐欺」というテーマで金融教育公開授業を開催しました。
この実践活動の成果は、借金の怖さ、貯蓄の大切さを知ることができたことや地域の人々に金融教育を広められたことで、今後は家庭科や社会科との連携にも取り組んでいきたいと思っています。
ワークショップ
5~6人のグループに分かれ、「ネットオークション詐欺」について、想定事例における行動の問題点、対処法・解決策、被害に遭ったときの対処法を話し合いました。参加者からは、「教材研究より先に時代が動いていて、どう教えていくか難しい状況にある」、「警察への被害届や消費者センターへの相談を生徒に教えるといい」、「対処法だけではなく、『結局泣き寝入りすることが多い』という現状を教えると、生徒は危険性をより強く認識するのではないか」等の意見がありました。
コメント
工藤先生から「取り上げる意義や価値のある題材で、学習の広がりも確保されている。単なる座学ではなく参加型の学習になっている点もよい。指導案は整理されていて再現性もあるが、ネットオークションの問題点を理解させると同時に、関心を持たせる、推測させるという目標も書くとよりよいのではないか。専門家の講演会、実地見学、公開授業や研究成果発表会の開催等、広がりを持っている点も優れている」というコメントがありました。
山形隆教諭の実践事例は、金融広報中央委員会の平成18年度金融教育公開授業(全国リレー講座)の実施報告で紹介されています。
実践報告およびワークショップ(2)
「カネは天下のまわりもの? 人生楽ありゃ苦もあるさ!」
FP/生活経済ジャーナリスト いちのせ かつみ 氏
実践報告
ライフプランというのは、将来の夢に向かってどう生きていくかを考えていくことです。定年後の理想的な「24時間時計」を具体的に書いてくださいというと、皆さん、その難しさに気づきます。そこで、第三者のライフプランを周りの人たちと一緒に考えて、自分と違う価値観を学びながら自分の人生を考えるといいと思います。例えば、子どもに人気のあるアニメのキャラクターを取り上げて、彼らにどういう仕事が向いているかを考えさせます。どんな進学コースに行くのかを決めて教育費がどれくらいかかるか調べたり、結婚は何歳ぐらいでするつもりかということから結婚費用を調べたり、夢のマイホームの間取りを書かせることから住宅ローンの話に踏み込んだり、広い範囲でいろいろなことを考えさせたり感じさせるといいです。このようなライフイベント表を作成していくと、将来どれだけのお金が必要になるかが見えてきます。
「桃太郎」という昔話があります。桃から生まれた桃太郎は、過去、現在、未来に流れていく命、きびだんごは自己投資、犬は心を育む、猿は頭を使う、キジは体を鍛えるという意味を持ち、この3つの生きる力を得ることによって、鬼、つまり人生の荒波に打ち勝っていくことができる、自己投資をしてキャリアを積めば成功が待っていることを「桃太郎」は教えてくれています。
ワークショップ
ワークショップでは、参加者が各自のマイホーム計画を含めた人生設計や、定年後の理想的な「24時間時計」を考えました。
質疑応答、コメント
「不確実な時代にあって、社会背景が子どものライフプランにどういう影響を与えるか」という参加者の質問に、いちのせ氏から「低金利の下でお金を株で殖やそうと考えたり、大きな夢を持たずに安定性を重視するとか、ニートの問題とか、時代背景の影響は大きいが、それでも大人としては未来に向けて希望を持てるような話をしていきたい」というお話がありました。
工藤先生から、「アニメのキャラクターを取り上げることによって子どもたちが自由に討論できたり、調べ学習、開かれた学習ができる。また、仕事や進学を考えることはキャリア教育につながる。高等学校での金融教育は小中学校の到達点で、よく整理して力をつけていかないといけない。金融教育をカリキュラム化して順序立てて教えるのは大変難しい状況にあるが、科目の特性にベースを置きつつ、公民、数学、歴史等と連携し、金融に関する能力や知識を身につけさせるのが今後の課題と考えている」というコメントがありました。
いちのせかつみ氏の実践事例は、金融広報中央委員会の金融教育公開授業(全国リレー講座)における各地の実施報告で紹介されています。