平成15年度「全国金銭教育協議会」
パネルディスカッション
「学校における金融に関する消費者教育の進め方」
新しい時代の金銭教育が目指すもの
宮坂 いちのせ先生はホームレスの方たちの取材をしておられますね。私たちはホームレスになるような人生は失敗だと思っていますし、口には出さないまでも、ああいうふうにならないために勉強せよとか、金銭に対してだらしなくてはいけないとか、収支のバランスをちゃんと取れとか教えるわけですね。
ああいう人生になるのを防止するために金銭教育が有効であると考えている向きがないでもない。しかし、人生の選び方は多様であって、個性的であるべきで、何をもって成功とし、また失敗とするかということは非常に難しく、そこへ切り込むことが金銭教育の課題ではないか、と教えていただいたような気がします。
また極めて今日的なテーマの売春という問題も出ました。こういうことは人としてあってはならないことだと教える時に、肉体の問題と精神の問題を区分し、また連関させつつ教えることが大切だと思います。
普通、学校の先生はこうした問題を起こした子どもに「もっと自分を大事になさい」と訓戒します。でも「自分を大切にする」とはどういうことか、その言葉で得心がいくでしょうか。人生の転落を予防するのに金銭教育はどんな意味を持つのか、いちのせ先生に伺いたいのですが。
いちのせ いろいろ人にお話を伺いますが、聞けば聞くほど「そういう生き方もあるな」と感じます。たとえば苦しい所にいる人の世界にはその世界の約束事があって、決して人を騙してはいけないとか、皆のためにやる時はやる、というような約束がちゃんとあるんですね。
一人ひとり生き方も違えば目標も違いますから、何が正義で何が悪かというのは難しい問題です。ただ学校教育は大事です。社員研修などを行っていますと、社会に出て初めて一から学ぶといった人がすごく多いのです。こんな状態では誘惑に負けても無理からぬなと思うほどです。
金銭と無縁で生きることはできないのですから、学校の中で社会の仕組みや金銭の役割、流れを体系付けて実践的に教えることが必要だと思っています。
宮坂 それではフロアからご感想をどうぞ。
フロア いつも協議会は建前ばかりに終わる、ともどかしい思いをしてきましたので、今回は正直な言葉が聞けてとてもよかったです。私は金融広報アドバイザーで消費生活アドバイザーもいたしておりますが、学校の先生方もたくさん相談にみえます。その時思うのは、なんて世間知らずなんだろうということなんですね。
金銭教育を進める中で一番お願いしたいのは、現場の先生方、まず変わってください。そして現実をしっかり見つめてくださいということです。今の子どもたちに本当に必要なのは何なのか、今の世の中はどうなっているのか、そこにちゃんと目を向けてください。
これからの子どもは世界に出ていくわけですから、どんな生き方をし、どんなお金の使い方をしていくのか、しっかり考えていただきたいと思います。
宮坂 今おっしゃったことが今回の協議会のまさに課題を明示していると思います。金銭教育が始まって30年を超え、一つの成果、頂点に達しつつありますが、これまでの成長を墨守してただ後へつなげていけばいいのではなく、大きな勇気をもって新しく刷新していくことが必要になっていると思います。
その時大事な視点は、今の子どもたちの生活現実、日本の社会がどうなっているかということをリアルに踏まえながら、慎重かつ大胆に子どもたちに生き方についての模索を求めていくことです。
その時に金銭教育は強力な武器になって、子どもたちがものを考える素材を提供することになるでしょう。現場の先生方は協力しながら、勇気をふるって挑戦していただきたいと思います。
今回の協議会は建前に終わることなく、なかなかのものであったと自画自賛いたします。