特別対談
人生100年時代を豊かにする キャリアプランニングと金融リテラシー
経済評論家 山崎 元×金融広報中央委員会委員 日本銀行副総裁 若田部 昌澄
人材価値を高めるキャリアプランニングとは
若田部 山崎さんは個人向けの資産運用について何冊も本をお書きになり、金融リテラシーの教育や啓蒙にも熱心に取り組まれています。そういった活動を始められた経緯を教えていただけますか?
山崎 私は北海道の札幌で育ちましたが、どうしても東京に出たいと思っていました(笑)。一方、一番やりたい仕事のイメージは精神科医でした。
若田部 何かきっかけはあったのですか?
山崎 小・中学校のころからジークムント・フロイトの本を読むなど、人間の気持ちに興味がありました。今もその興味は行動ファイナンスへの関心に生かされていると思います。でも、現役で東大理Ⅲは難しいと思い、経済学部をめざしました。卒業後は早く実際の経済に触れたくて、大手商社で為替のディーリング業務に就きました。その後は、転職を繰り返しながら、20代と30代は主にファンドマネージャーとして職業人生を歩んでいました。
若田部 その後、個人の資産運用に関心を持たれたのですね。
山崎 2000年ごろからです。それまで行ってきた年金運用などの機関投資の運用理論を、個人の資産運用に当てはめたら役に立つのではないかと考えました。
若田部 そうした活動をされてきた山崎さんと、人生100年時代をより豊かに生き抜くために必要なキャリアプランニングや金融リテラシーについてお話ししていきたいと思います。まずは、自分の人材価値を高めるというキャリアプランニングが大切だと思いますが、いかがでしょうか。
山崎 人材価値は「(能力+実績)×働ける時間」という関係でおおむね評価できます。能力も実績も得るには時間がかかり、だからこそ計画的に取り組むキャリアプランニングが意味を持ちます。
若田部 働ける時間を長く持つ若い世代には、ぜひ知っておきたいポイントになると思います。具体的にはどのようなことが必要でしょうか?
山崎 自分の「時間」と「努力」を有効に「投資」することです。投資の対象は、勉強や人間関係などさまざまです。自分がどのような分野で働いていくかを絞り込みながら、人材価値をつくっていくとよい。
若田部 年齢的な目安はありますか?
山崎 年齢のめどを言いますと、28歳までに自分が働いていく分野を決め、35歳までにおおよその人材価値を完成させる。そして45歳からは、60歳を過ぎた自分は何をして、いくら稼いで、そこから何年働くのかというセカンドキャリアについて考え始めるとよい。
若田部 投資のように今自分が持っている時間やできる努力をなんらかの資産に変えていく。その資産はスキルであったりネットワークであったり人であったり。
山崎 その通りです。私は12回転職しながら、運用の専門家としての実績をつくりつつ自分の人材価値を完成させていきました。
そして、将来も仕事を続けられるよう、42歳のときに働き方を変えることを考えました。企業に籍を置きながら並行して評論活動を行う「副業」の働き方を選択しました。この仕事は定年がないし、将来もマイペースで続けられます。企業から受け取る給与所得は減りますが、私は時間と発言の自由を確保できるし、企業側は、私の経験やノウハウを生かすことができる。双方にメリットがあるので、こうした働き方が交渉で合意できたのだと思います。
今は働き方改革の流れの中で、企業が副業を認めるようになってきているので、会社勤めを続けながらやりたい分野を模索しやすくなりました。副業はまだ一般的ではないかもしれませんが、今後副業する人が増えて、いずれは、普通のことになるでしょう。転職や副業の選択肢を持っておくことは、自分の可能性を広げるためにもよいことだと思います。
- 本対談は、距離の確保やマスク着用等の新型コロナウイルス感染防止対策を徹底したうえで実施しました。