金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(2023年10月改訂版)
2.金融教育の目標と方法
(1)金融教育の目標
金融教育の目標は、「生活設計・家計管理に関する分野」、「金融や経済の仕組みに関する分野」、「消費生活・金融トラブル防止に関する分野」、「キャリア教育に関する分野」の4つの分野に大別できる。図表4「学校における金融教育の年齢層別目標」では、この4分野に則した分野目標と、具体的な256項目の年齢層別目標を整理している。
以下①では、小学校から高等学校までの教育課程を通じて達成することが望まれる分野目標の概要を整理している。
また②では、「金融教育を実践する上で念頭に置いて頂きたい視点・概念」を取りまとめた。256項目の年齢層別目標を効果的に達成していく上で、それぞれの項目を通じて共通のキーとなる視点・概念を念頭に置いて教育を行うことが効果的と考えられる。こうした観点から重要と考えられる視点と概念を整理した。
なお、金融教育の4つの分野と主な視点の関係を図式的に示せば、次の図表3の通りである。
図表3 金融教育の4つの分野と主な視点
① 金融教育の分野目標
A.生活設計・家計管理に関する分野
- <資金管理と意思決定>
- ものやお金には限りがあること(希少性)を理解し、大切にする態度を身に付けるとともに、限られた予算の下で、よりよい生活を築く意義を理解し、実践する技能と態度を身に付ける。この際、資金管理に関する意思決定について、基本的な視点や概念(トレード・オフ、機会費用、効率、公正、価値観等)を理解し、実践する態度を身に付ける。
- <貯蓄の意義と資産運用>
- 貯蓄の意義を理解し、貯蓄の習慣を身に付けるとともに、期間と金利の関係を理解し、長期的、継続的に貯蓄・運用に取り組む態度を身に付ける。併せて、金融商品の基本的な特徴を理解し、運用に当たっては、リスクとリターンの関係などを踏まえ、自己責任の下で判断する態度を身に付ける。
- <生活設計>
- 生活設計の必要性を理解した上で、計画的にお金を使う態度を身に付けるとともに、将来を展望し、職業選択とも関係付けながら、自分の価値観に基づいて生活設計を立てることができる。また、生活設計に必要な様々な知識を身に付け、それを活用して自分の暮らしを考える。
- <事故・災害・病気などへの備え>
- 事故や災害、病気など、日常生活において様々なリスクが存在することを理解し、身の安全を確保する方法を理解し、実践するとともに、他人に損害を与える可能性を認識し、安全な行動を心掛ける。併せて、不測の事態に備える必要性と、備える方法としての貯蓄と保険の機能について理解する。
B.金融や経済の仕組みに関する分野
- <お金や金融の働き>
- お金の働きや役割、金融機関や中央銀行の機能・役割を理解するとともに、金利の働きと変動の理由について理解する。
- <経済把握>
- ものやお金の流れと家計、企業、政府等の役割について理解するとともに、市場の働きや機能を知り、市場経済の意義や海外経済との関係について理解する。
- <経済変動と経済政策>
- 景気の変動と物価、金利、株価等との関係や、政府の経済政策、中央銀行の金融政策について理解し、景気変動や経済政策と自分の暮らしや社会との関係を理解する。
- <経済社会の諸課題>
- 経済社会が抱える問題について幅広く関心をもち、情報収集の技能を身に付けるとともに、経済社会の課題解決に向けて合理的、主体的に考える態度を身に付ける。
C.消費生活・金融トラブル防止に関する分野
- <自立した消費者>
- 消費者の権利と責任を理解し、自立した消費者として行動するための基礎知識と態度を身に付ける。情報通信技術を含め、消費生活に関する情報を収集し適切に活用できる技能を身に付ける。
- <金融トラブル・多重債務>
- 消費者問題の発生する背景について理解し、お金との望ましい付き合い方について日頃から考える態度を身に付けるとともに、金融トラブルや多重債務の実態を知り、巻き込まれない態度を身に付ける。また、法律や制度を知り、それらを活用したり、専門機関に相談したりして事態に対処できる知識と技能を身に付ける。
D.キャリア教育に関する分野
- <働く意義と職業選択>
- 勤労の意義と働くことで得られるお金の価値を理解し、自分の職業選択について主体的に考える。また、労働者の権利と義務について理解し、それを生かす態度を身に付ける。
- <生きる意欲と活力>
- 付加価値の創造が経済社会発展の原動力であり、付加価値を生み出すために、人々の様々な努力と創意工夫が必要であることを理解するとともに、自らの夢を描き実現の方法を考える力や、実現に向けて努力する態度を身に付ける。
- <社会への感謝と貢献>
- 社会との様々なつながりを理解し、ルールを守り、コンプライアンスの精神とともに、自分を支える他者に感謝する心を養う。また、よりよい社会を築くためにみんなで協力することの意味を理解し、何ができるかを考え実行できる態度を養う。
図表3 金融教育の4つの分野と主な視点