金融・生活シンポジウム2001
どうなる新世紀のくらしとお金~ペイオフ解禁を目前にして~
パネルディスカッション
(4) 法整備がもたらす金融販売環境の変化
玉置 蝋山さん、消費者保護という観点からの法律がいまごろ出てくるというのもちょっと遅いなという感じもいたしますが、いかがでしょうか。
蝋山 金融商品販売法について、その効果を少し補足しましょう。まず一つが、損害賠償の請求が速やかに認められることです。この法律の特徴の一つとして、自分が十分な説明を受けなかったということをきちんと立証でき、損害賠償額が、例えば1,000万円預けたのに600万円になったので、その差の400万円を請求するといったことが明示されている点です。これが明示されているので、裁判はスピーディーに行われるはずです。そういう点では、販売側への抑止効果が非常に大きいと思っております。
2番目は、勧誘方針の策定と公表が義務づけられたことによる効果です。これをきちんと行わない業者に対しては、消費者から事実上のペナルティを与えることができます。
例えば、証券会社のセールスマンが電話をかけてきたとしましょう。その時「どういう勧誘方針ですか。公表されているでしょうから、ファックスで送ってください。そしたらこの電話を聞きましょう」というような態度をとる。ごちゃごちゃ言っていたら、「勧誘方針がはっきりしていないような会社は信用できませんので、お断りいたします」という、毅然たる態度がとれる。
こういう行為が、証券会社あるいは金融商品を販売しようとする業者の意識革新につながりますし、一面では非常に怖いペナルティになると私は思います。そういう点では皆さん方がこの法律の制定を活用して、一歩賢くなることが大事だと思います。
3番目として、鳥越さんに自動車のケースで褒められたのでもう1回自動車を例に出しますが、自動車メーカーでは苦情がくると、どこに問題があるのかを、販売や製造、設計、材料など、いろいろ調べて場合によっては古い製品をリコールしたり、苦情を新製品の開発に活かしたりします。つまり苦情と全生産販売過程が結びついているわけです。
日本の金融機関にはその結びつきがない。苦情こそ市場情報の、消費者情報の宝庫であるという発想がない。新しい法律のもとに、この点についてもぜひ業者の方に認識を改めていただきたいと思います。
玉置 イギリスではビッグバンの後にもう少し消費者に密着した法律ができているように思うのですが。
蝋山 金融商品販売法は先ほど説明があった通り、商品先物取引と元本が法律で保障されている郵貯を除いて、ほとんどすべての金融商品を対象としています。実は日本の法律としてはこの横断的な網羅の仕方は画期的と言ってよいでしょう。
従来の日本の法律では、預金については銀行法、貯金については郵貯法、商品ファンドについては商品ファンド法、抵当証券については抵当証券法、投資信託については投資信託法と、商品ごとに縦割りにしてきたわけですから。
なぜ、このような横断的な法律になったかというと、どれも将来の収益を基準にして購入するという共通要項があるからです。つまり、金融商品の販売において、統一のルールを作ったというわけです。
ルールが共通でなければフェアな競争はできないと思います。情報提供でも同じだと思います。そういうフェアな競争を実現し、業界ごとでデコボコがないようにしようと。そのことが結果的には、消費者に対しても公正なサービスを提供することになると思います。
玉置 法律が整備され、消費者を保護するルール作りも進んでいますが、資産の管理、運用では消費者の情報収集や勉強が欠かせない課題だと思われます。原さん、素朴な質問ですが、どういった手段で勉強したらよいのでしょうか。
原 この会場の皆さんも、多分その第一歩というふうに思って足を運ばれた方が多いんだろうと思います。これについては私なりに三つほど考えております。
一つは、先ほどから話が出ているように、正確な情報の100%開示を目指していくことだと思います。
例えば、6月ごろに生命保険の予定利率引下げの話が出たときに、毎週のように週刊誌が「どこの生保が危ない」という記事を載せていました。生命保険は相互会社ですから、株価という客観的な指標では見えないだけに、正確な情報がないと勉強といっても限度があります。そういう意味でも正確な情報の提供を求めていくことが重要です。
二つ目が、消費者自身の勉強です。情報不足の感じをもたれているでしょうが、意識して集めるとかなりの情報が出てきます。マスメディアだけでなく、金融広報中央委員会からもたくさんの情報が出されています。他にも各金融機関のディスクロージャー誌やホームページも情報源となります。
それから、いい情報ばかり集めずに、国民生活センターや消費者生活センターに寄せられた苦情の内容を見るなど、マイナス情報も集めてみると、企業の様子が立体的になり、適正な判断につながります。
三つ目は、やはり消費者の行動だと思います。消費者が、こういう事業者はだめだということをチェックして、そことは取り引きをしないなどの行動で示していくことです。ただ賢い消費者になるのではなくて、健全な市場をつくるために、金融機関に対する態度や行動も重要だと思っています。
玉置 個人金融資産の運用は、個々の暮らしを豊かにするとともに、その運用法を少し工夫することで国の経済の豊かさにもかかわってくることがわかりました。私たち個人の金融資産を有効に働かせるためにも、金融を取り巻く環境の変化を認識して、リスクとのつきあい方や運用の方法を改めて考えていただければと思います。