貯蓄・生活シンポジウム 1999
21世紀 どう変わるくらしと経済~本当の豊かさへの処方箋~
パネルディスカッション
(4)「豊かさ」を実感するためにやるべきこと
佐藤 貯蓄広報中央委員会(現・金融広報中央委員会)のアンケート調査結果によれば、「心の豊かさ」を感じる条件としてまっ先に挙げられたのが「健康」でありました。続いて「経済的な豊かさ」、「家族との絆」が上位を占めております。そこでお三方に、「私が考える真の豊かさ」というテーマでお話し願いたいと思います。
鳥越 逆説的な言い方ですが、私は7割の人が豊かさを感じていないことに安心しました。大多数の人々が、今の物質的に豊かな日本社会に満足してしまっているのではないかと予想していました。
「豊かでない」と思っている間は、大丈夫かと思います。私たちの親の世代では、一生懸命働いて、自分の子どもや孫に豊かな社会を残そうということが、最大公約数的な目標だったと思います。それが私たちの国をここまでにしてきた原動力、モチベーション(動機づけ)であったわけです。
今、アメリカ経済が非常に活性化していますが、私はギャンブル経済だと思っています。株とか、デリバティブとか、楽をしてお金を儲けようという精神になっている。今のアメリカと同じように日本がなっていくのはまずいと思っています。
「豊かでない」と感じている日本人がたくさんいて、実態経済をきちんと運営していく。現在の金融システムを否定するつもりは全くありませんが、楽をして金儲けをしようと考えない方が、国全体としてよい方向に進むということが最初にあります。
また、みんなと同じ生活をしなければと思うと、追われる焦りが出て「豊かさ」は感じられなくなります。そのモチベーションが大量生産・大量消費のサイクルを支えていることにもなっており、そこの仕組みを変えないといけないと思います。
そのためには個性的で、クオリティのある生活の構築を考えていく必要があります。それは「自己責任」で、自分で考える。こういう発想に切り替えていかないと、なかなか「豊かさ」の実感というのは得られない気がします。
吉永 豊かさというのはすごく抽象的で、皆さんの中でそれぞれ異なり、また、形にもなりにくいものだろうと思います。そこに「本当の」とか「真の」とかがつくと、何十年かかっても分からない哲学的な課題になるという気がします。
また、条件がないと心の豊かさが感じられないとすると、非常に危ういなと思います。例えば「健康」ですが、若いうちはよいでしょうが、高齢になるとこれほど危ういものはないわけです。何も条件をつけずに、自分が生きていて良かったと思える精神力。これが、「豊かさ」をつくり上げてくれるのかなという気がします。
明るく豊かな老後のためには、1日1つ笑えたら幸せとか、だれかとおしゃべりができたら幸せだとか、そう感じられる気持ちの強さ、大きさを作ることが必要で、そのために今、立止まって考えなければいけないと思っているところです。
原田 21世紀の日本を活力ある国家にしていくには、賛否両論はあるにしても、経済白書などに出てくる3つのキーワードがその方向性を示していると思います。
第1は「機会の平等」。日本では今まで結果の平等が重視されてきましたが、悪平等にもなる可能性があります。人間の力をフルに発揮させるには「機会の平等」を与えることだと思います。
第2は「所得格差の是認」の問題です。これは努力した人が相応に報われるということ。例えばアメリカのビル・ゲイツのような人が尊敬されるような社会にしなければいけない。貧富の差が努力の結果として出てくることはある程度まで是認すべきだということです。
第3は「リスクテイク」。すべての問題に対して消極的ではなく、例えリスクがあったとしても前向きに挑戦していくという気持ちを持つ。この3つは、これからの日本を引っ張っていく大きな流れになるだろうと認識しております。
佐藤 最後に、国民が「豊かさ」をより実感するための方法を一言ずつお伺いしたいと思います。
鳥越 住宅の善し悪しが豊かさを感じさせる度合は大きい。特に日本の都会の住宅は世界的なレベルでいえば狭い。都市の高層化を進め、1戸あたり最低100m2くらいの広さになるように、都市の再開発をすることが重要だと思います。
吉永 行政が福祉センターや会館などをつくっても、実際にはうまく使えなくて不満だけが残るということが多い。行政まかせにするのではなく、自分は何が欲しくて、何をしたいのかをみんなが考えて、それを要求していくことが大切だと思います。
「どういう町に住みたいか」ということは、「どういうふうに生きたいか」ということでもあると思います。それをみんなが考えることによって、人のネットワークもできるし、楽しいことにもつながっていく。いろいろな要求が出て、気持ちが活性化し、結果的に地域の経済も良くなると思います。
原田 日本でもこれから2~3年の間にインターネットが大変な勢いで普及していくと思いますが、インターネットをうまく使っていけるかどうかということが、いわゆる幸せというものにも大きく関係してくるのではないかと思います。
本年の7月の数字ですが、世界のインターネット・ホストコンピュータのシェアはアメリカが73%を占めています。2番目は日本でわずかに3.7%。この数字が示すように、アメリカではビジネスにおいても、家庭生活においても情報化がすっかり定着しています。
このような状況は、2~3年の間に日本にもやってくると思います。これをうまく利用することによって、家電がもっと便利になったり、健康診断ができたりします。さらには高齢者も含め、インターネットでビジネスをすることも可能になってきます。情報化に適合していくことがある意味で、幸せを実現するために重要ではないかと思います。
佐藤 本日は少子・高齢化問題を中心に、日本を取り巻く変化をいろいろ取り挙げましたが、必ずしも悲観的なことばかりではありません。経済企画庁が6月に発表した「こうすれば日本は楽しくなる」というレポートには、団塊の世代が高齢に達すると新しい需要が爆発的に増えると予測しております。
また人口減少の問題も、逆の発想をすれば1人あたりの土地面積も広くなるし、余裕が生まれる。要は「自分の豊かさ」を実現するために、自分のやり方で努力し、取り組んでいくしかないのではないか、という気もします。本日のシンポジウムの論議が、少しでも皆様の参考になれば幸いです。