金融広報中央委員会の歩みと最近の取組み
-創立70周年に寄せて-
執筆:金融広報中央委員会会長 武井 敏一
はじめに
中立・公正な立場から金融広報活動を行う「金融広報中央委員会」(愛称:知るぽると)は、前身の貯蓄増強中央委員会が創立されてから今年で70年を迎えます。
当委員会の歴史は、戦後日本の金融教育の軌跡と重なります。
本稿では、当委員会の道のりを時代とともに振り返りつつ、最近の取組みをご紹介します。
戦後のわが国の金融教育の変遷
貯蓄奨励運動として始まった戦後の金融教育
第二次世界大戦後、日本は戦後復興のために巨額の資金が必要となり、政府と日本銀行が主導して国民に貯蓄を奨励しました。
蓄積された資金は重工業などに優先的に割り当てられ、復興の礎(いしずえ)が築かれました。
貯蓄を全国一体となって推進するために1952年に創立されたのが貯蓄増強中央委員会で、現在の金融広報中央委員会の前身です。
戦後に貯蓄推進が国民運動に発展したのは、国家の経済復興のためには、国民は貧しい中でも一層倹約に励み、自主的に貯蓄を行うという「勤倹貯蓄」の考え方もあったためと言われています。
「勤倹貯蓄」から「計画貯蓄」奨励へ
~高度成長期の金融教育
その後、日本は、未曽有の高度経済成長期を迎えます。
当時、日本の家計は欧米並みの豊かさを求めて耐久消費財の消費を増やし、それがさらなる経済成長を生み出しました。
時代の変化の下で、当委員会では、現在の貯蓄は将来の消費につながるとして、「貯蓄は未来との対話」をスローガンに掲げ、「計画貯蓄」の奨励に軸足を移しました。
「明るい生活の家計簿」の普及に努めたほか、学校では、「こども銀行」(学校が銀行や郵便局と連携して自主運営する貯蓄制度)が全国に展開され、貯蓄習慣の育成に一役買いました。
「貯蓄奨励」から「金融広報」へ
~構造改革期の金融教育
1970年代に入ると、日本は2度のオイルショックを経て経済・金融両面での構造改革の時代に突入します。
個人の価値観は多様化し、その中で金融教育を推進していくには、従来のような「貯蓄」に焦点を当てるのではなく、広く金融経済に関する情報を提供することが国民のニーズにかなうとの認識が高まります。
「情報の提供」から「金融リテラシーの習得」へ
~現代の金融教育
当委員会は、2001年には組織名を現在の「金融広報中央委員会」に改称しました。
その後の20年間で、国内では2005年のペイオフ全面解禁を、国際的には2008年のリーマン・ショックを契機として、個人の金融リテラシー向上が内外で重要課題になりました。
当委員会では、2005年を「金融教育元年」として、若年層向けの取組みなどを強化し、2007年には「金融教育プログラム」を発表しました。
同プログラムでは、授業で金融教育を効果的に進めるための方法や実践事例を取りまとめています。
この間、「家計の金融行動に関する世論調査」を毎年実施しているほか、2016年には「金融リテラシー調査」をスタートさせて、実態把握に努めています。
若年層の金融リテラシー向上に向けた取組み
次に、当委員会が最近取り組んでいる、若年層に向けた金融広報活動から、2つご紹介します。
成年年齢の引下げへの取組み
2022年4月に成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ、これまで以上に若年層の消費者トラブルの増大が懸念されています。
自立した消費者となるための第一歩は「契約」に関する知識を身に付けることです。
当委員会では、主として高校生や中学生を対象としたパンフレット(「18歳までに学ぶ契約の知恵」)や動画を作成し、全国の学校などに配布しています。
「18歳が、変わる!―アキラとマモル バンド編」(成年年齢引き下げについて、見てわかる動画)
契約に関する基本事項、消費者保護の法律・制度、代表的な消費者トラブルとその対応方法などをわかりやすく解説しています。
情報通信技術の活用
受講者(特に若年層)が、お金に関して学ぶきっかけになれば、との思いから、金融経済教育推進会議 (注)では、2021年11月に「マネビタ~人生を豊かにするお金の知恵~」と題するeラーニング講座を開講しました。
- (注)
- わが国の金融経済教育に関する諸課題への取組みを審議することを目的として、2013年6月に設置された会議。当委員会が事務局を務める。
金融経済教育推進会議
金融経済教育に関係する官庁、団体および当委員会が連携して作成し、専門家が主要なテーマのエッセンスをわかりやすく解説しています。
18歳成人となったばかりの若者にも役立つ、基本的な金融リテラシーを効率的に学べる点が特徴です。
無料ですので、ぜひ受講してみてください。
「マネビタ」とは、マネーとビタミンを合わせた造語です。「身体にとって必要不可欠なビタミンを食物から摂り込むように、人生に必要不可欠なお金の知恵をこの講座から摂り込んでほしい」という願いを込めています。