家のたたみ方と墓じまい
「空き家」放置の問題点と解決法は?
「空き家」問題の現状
少子高齢化や優遇税制が空き家急増の要因に
近年、日本では人の住まない「空き家」が増加の一途をたどっています。総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、2018年の全国の空き家は約849万戸で、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は、実に13.6%を占めています【図表1】。
- (出所)
- 総務省「平成30年住宅・土地統計調査」を基に監修者作成
空き家は、「売却用・賃貸用」、「二次的住宅」、「その他の住宅」の3種類に分類され、そのうち、「売却用・賃貸用」は、住む人がいなくなった家の買い手や借り手を探している状態の空き家を指します。また、「二次的住宅」は、別荘など普段は人が住んでいない家のことで、空き家に分類されてはいますが、基本的には所有者が利用、管理している状態です。つまり、「売却用・賃貸用」、「二次的住宅」に分類されている空き家については、特段問題はないといえます。
問題になるのは、買い手や借り手を募集しているわけでもなく、「空き家」としてそのまま放置されている状態の「その他の住宅」であり、空き家全体に占める割合は、2018年で41%に上っています。
「その他の住宅」が増えている背景にあるのは、少子高齢化や世帯構成の変化です。国土交通省の「平成26年空家実態調査 集計結果」を見ると、人が住まなくなった理由は「死亡した」が35.2%で1位となっているのと同時に、住宅(空き家)を取得した理由の1位が「相続した」の52.3%と、全体の半分以上を占めています【図表2】。
- (出所)
- 国土交通省「平成26年空家実態調査 集計結果」を基に監修者作成
つまり、空き家になるきっかけは、親が亡くなり相続で家を引き継いだ場合が多いということが分かります。
ひと昔前は、子、親、祖父母の三世代同居をする世帯も珍しくありませんでしたが、核家族化が進む現在では、夫婦と子どもだけで暮らすことが一般的になってきています。そのため、親の死後に家を相続することになったときには、すでに自分の家を持っている、あるいは通勤・通学の理由で、親から相続した家に移り住むことが難しいケースが多くなっているのです。
本来ならば、相続した家に誰も住まず、遠方などの事由により定期的な管理も難しければ、売却や賃貸など、何らかの対策を検討すべきでしょう。しかし、家や土地のコンディション、立地などの問題や、親が残した家財の処分に気後れするなどといった心情的な理由で放置してしまう人も多くいるようです。
さらに、税制上の「住宅用地の軽減惜置の特例」も、空き家をそのままにしてしまう一つの要因といわれています。住宅用地については、固定資産税や都市計画税の特例措置により税金が軽減されています。具体的には、建物が立つ住宅用の土地に対しては、200㎡までは固定資産税が6分の1に、200㎡を超える部分に対しては3分の1に軽減されます。また、都市計画税については、200㎡までは3分の1に、200㎡を超える部分に対しては3分の2に軽減されます【図表3】。
区分 | 固定資産税 | 都市計画税 |
---|---|---|
小規模住宅用地 (住宅1戸につき200㎡まで) |
評価額×1/6 | 評価額×1/3 |
その他の住宅用地 | 評価額×1/3 | 評価額×2/3 |
- (出所)
- 総務省「固定資産税制度について」を基に監修者作成
建物を解体するにしても費用がかかるうえ、更地になると特例措置の対象から外れて税額が上昇してしまうことから、建物を解体せずに放置してしまうケースもあるようです。
こうしたさまざまな要因により、空き家は右肩上がりで増加をしており、今後も増え続ける可能性が高いと思われます。
空き家放置によって起こり得るトラブルとは
空き家を放置しているだけであれば別に問題ないのではと思う人もいるかもしれません。しかし、空き家はさまざまなトラブルを引き起こす原因となるのです。
例えば、老朽化による建物の倒壊。日本の戸建て住宅は木造が多く、定期的な換気など適切な管理を怠ると、劣化が早まります。そのため放置期間が長引くと、地震や台風などの自然災害で倒壊してしまうリスクが高まり、通行人などに被害が及ぶような事故も起こりかねません。
また、建物の外壁の落書きが放置されたり、周囲の雑草が生い茂っているなど、ひと目で空き家だと分かるような状態になっていることで、不法侵入や不法投棄、放火といった犯罪リスクが上昇します。そのエリアに住むほかの住民にとっては、それだけでも不安ですが、その結果、エリアの資産価値まで下がってしまう可能性もあるわけです。すなわち、空き家の放置というのは自分だけの問題にとどまらず、近隣への悪影響をも招くことにつながります。
また、空き家問題と聞くと、過疎化の進む地方だけの話だと思う人もいるかもしれません。確かに、都市部の空き家率は地方に比べれば低くなっていますが、実は都市部の方が空き家の数自体は多く、なおかつ住宅が密集していることから、空き家が周囲に与える悪影響の度合いは、地方より高くなることもあるのです。
法整備による対策 悪質な場合はペナルティーも
1990年代後半、人口や世帯の減少が先行して始まった地方において、空き家は急速に増加し、各自治体において独自の条例を制定するなどの対策が取られてきました。その後、空き家の増加が都市部にも広がってきたことなどを受け、2015年5月に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が全面施行されました。
この法律により、保安上危険な状態や衛生上有害となる状態、著しく景観を損なっている状態、生活環境の保全に対して現状が不適切である状態など、適切な管理がなされていない空き家は「特定空家等」に認定され、当該空き家の所有者に対して、市区町村は段階的に改善を促します【図表4、5】。
状態 | 具体例 |
---|---|
倒壊など、著しく保安上危険となるおそれのある状態 |
|
著しく衛生上有害となるおそれのある状態 |
|
適切な管理が行われていないことにより、 著しく景観を損なっている状態 |
|
その他周辺の生活環境の保全を図るために、 放置することが不適切である状態 |
|
- (出所)
- 監修者作成
- (出所)
- 国土交通省「『特定空家等に対する措置』に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」を基に監修者作成
措置の流れを確認すると、まず、行政の関与が必要だと判断された空き家について、所有者の確認や立入調査などが行われます。その結果、「特定空家等」に該当すると判断されると、市区町村から空き家の所有者に対して、改善を促す「助言」が行われます。
「助言」に従わなかったり、直ちに改善が必要だったりすると、助言よりも強く適正管理を促す「指導」が行われます。それでも状況が改善されない場合は、「勧告」が行われます。「勧告」が行われると、「住宅用地の軽減措置の特例」が適用されなくなり、固定資産税や都市計画税の優遇から除外され、更地並に課税されることになります。
「勧告」を受けても所有者が対応しないと、改善の「命令」が出されます。「命令」は行政からの最も厳しい通告であり、一刻も早い対応が求められます。命令に従わなければ最大50万円の過料が料されることもあります。
「命令」を受けたうえで改善が見られない場合には、「行政代執行」が行われます。「行政代執行」とは、空き家の所有者に代わって行政が強制的に解体など必要な対策を行うことで、その際にかかった費用は、所有者に請求され、費用を支払わなければ資産が差押えられることとなります。
しかし、総務省の「空き家対策に関する実態調査(2019年1月)」によれば、2015年度~2017年度に実施された10件の行政代執行のうち、所有者から費用を全額回収できたのは1件のみでした。所有者に費用を負担する能力がなければ、結果として税負担になってしまうのです。