貯蓄・生活シンポジウム 1999
21世紀 どう変わるくらしと経済~本当の豊かさへの処方箋~
パネルディスカッション
(2)金融システムの変革が与える「豊かさ」への影響
佐藤 日本の金融システムの変革も豊かさと大きく関係していると思います。2001年4月からはペイオフが解禁されますが、これが暮らしにどのような影響を与えるのか、預金保険機構の仕組みも含めて、原田さんにお話いただければと思います。
原田 ペイオフ制度とも呼ばれている預金保険制度については、金融機関が破綻した場合に、1つの金融機関の預金に対し1,000万円までは保護されるが、それを超えた部分については全く保護されないと考えている方がかなりだと思います。しかし、この見方が必ずしも正しくないという話をしてみたいと思います。
実は預金保険制度にはペイオフ方式のほかにもう1つ、資金援助方式というやり方があり、これからの主流はこの資金援助方式になるとみています。このように金融機関の破綻処理には2つの方式があります。
これをやや詳しく申し上げますと、1つは、預金保険制度の枠内の処理を済ませた後に十分にお金をチェックして清算し、1,000万円を超えた部分について清算配当率に応じて支払うという方式。
もう1つは破綻金融機関の預金・貸出が受け皿銀行に全部移管されるというケースで、この場合は預金の全額が保護されるケースが殆どです。現在、金融審議会でこのようなことについて審議されています。
因みに、アメリカの1992年から1997年の破綻処理の事例を見ると、ペイオフを採用したのは9%にすぎません。36%は預金が受け皿銀行に引き継がれて全額保護され、預金者の方には損失が出ていません。日本でも、先行きの不安を解消する意味からも、預金者保護の観点からも、預金保険制度の活用を図りながら、最終的には資金援助方式の制度が確立されると思われます。
吉永 ただ資金援助方式をとっても、受け皿銀行の経営が悪化し破綻するということもありますね。また、ペイオフ方式を採用している割合が9%であるとのことですが、9%もリスクがあるという見方もできます。
預金保険制度では1,000万円を超えた部分は全く保護されないと考えるのは誤解なのでしょうが、いずれにしてもこれからは、自己責任で資産運用をしていかねばならないということから考えた時に、大勢の人々が大変なことになったと感じたと思います。私たちはその感覚をしっかり受け止め、情報を収集し、勉強していかなければいけない。
その際、情報を提供する側には情報を正直に出してもらうということが大切です。私たちがどのくらい理解力があるかを判断する必要はなく、分からなければ専門家に解説してもらえばいい。そうすることで私たちも利口になる。とにかく、私たちには知る権利があるということをはっきりさせておきたいと思います。
今までは知らしむべからず、よらしむべきということで、悪いようにしないから大丈夫だと言われて、私たちは安心していましたが、そうでないと分かった以上、今までのようにはいかないという気がします。
原田 銀行自身がディスクロージャーを相当やっていることは事実なのですが、一般の人々がバランスシートを分析して、いい銀行とか悪い銀行とか判断するのは事実上難しいと思います。そういう意味では専門の経済誌や、格付け機関などの評価に基づいて、判断をしていくことが必要だと思います。
自己責任体制の確立という観点からもう1つの大きな話題といえば、401kという確定拠出型年金の問題があります。日本版401kプランというのは、掛け金は企業が拠出するわけですが、その運用は完全に自分の意思で決定しなければいけない。
預貯金中心の、リスクも小さいが利息も少ないというやり方もあれば、元本の値下がりもありうるが儲かる時はその金額も大きいという、ハイリスク・ハイリターンを求めるやり方もあります。どれを選ぶかはそれぞれの意志と責任に帰属します。ペイオフ制度の解禁でどの金融機関を選ぶかも大きな課題ですが、老後の所得の確保という観点からは、この判断をどうするかのほうが重要になってくると思います。