高校生小論文コンクール
第19回「金融と経済を考える」高校生小論文コンクール(2021年)
講評
第19回「金融と経済を考える」高校生小論文コンクールには、1,612編の応募がありました。テーマは金融や経済に関することであれば「自由」です。厳正な審査の結果、特選5編、秀作5編、佳作10編の入賞作品が決まりました。
エシカル消費や大量消費といった身近な問題から考察を深めた作品、コロナ禍での寄付に着目して書き上げた作品など、多様なテーマの力作が集まりました。その中から特選に選ばれた5編の概要を紹介します。
金融担当大臣賞「父を見て学んだ経営者の姿勢」の筆者の家は、創業50年になる焼肉店です。コロナ禍で店の収益は下がり、休業せざるを得ない時もあったといいます。そんな中、父親は焼き肉弁当の販売を始め、その広い人脈から人気をよび、利益も出るようになります。さらにお弁当の利益を元手に、近くの飲食店20店舗と協力し、自由に外出できない子どもたちにエールを送りたいとの思いから、児童養護施設へ集まった寄付金とお弁当をプレゼントする活動をスタート。その後も地域を元気づけようと活動を続け、お正月には70発の花火を打ち上げました。筆者は一生懸命な父親の姿を通して、経営者として三つの大切なことを学びました。一つは素早い状況判断から新たなことを始めること、二つ目は自分のためではなく人のために活動すること、三つ目は最終目標を決めそれに向かっていくこと、とまとめています。自分自身も地域や人のために何ができるかを考えるようになり、社会に出てからも色々なことに柔軟に対応できるようになりたいと結んでいます。審査員からは「父から経営者のあるべき姿を学び、大切なことを明快にまとめていた」、「コロナ禍で大変な父親のことをよく観察している。それについて自分なりに考察し将来のことにも思いを馳せているところが非常に良かった」といった評価を受けました。
文部科学大臣賞「ものを大切に使うということ」は、一つの服を大事に何年も使ってきた父親と、次から次へと流行の服を買っては捨てている筆者との服に対する感覚の違いをきっかけに、現在の大量消費の問題を指摘した作品です。筆者は身近な人に「服を捨てる理由」についてアンケート調査を行いました。デザインや好みの変化が主な理由と分析します。また、SNSによる流行の目まぐるしい変化や若年層の節約志向が、大量生産・消費されるファストファッションの普及につながってきたと考えます。加えて、中学2年生の時、大手洋服チェーン店で経験した職場体験での大量の新作と売れ残ったセール品の入れ替え作業で覚えた違和感についても言及します。ファストファッションだけを悪とするのではない解決方法として、消費者自身の意識・行動の変化、ファッションレンタルサービスやフリーマーケットアプリの利用などをあげています。また、ファストファッション問題はアパレル業界だけでなく、現在の大量生産・大量消費社会にもつながっていると考えるようになります。審査員からは「身近な人たちの意見や自分の意見を捉え直しながら、ひとつの論旨を築き上げているところがよい」「消費者としての楽しみと環境のバランスという二律背反していることについて言及している」ことなどが評価されました。
日本銀行総裁賞「エシカル消費で持続可能な社会へ」の筆者は、日本の菓子類とベルギー製のチョコレートの包装の違いから、環境保全という大きなテーマに言及します。小学校4年生の時、ドイツに住んでいた筆者は友人宅で日本の煎餅に対し「過剰包装だね」と言われたことをきっかけに、環境や社会、地域にとってより良い商品を選択するというエシカル消費について考えるようになります。2013年にバングラデシュで起きた商業ビル倒壊の大惨事は、倒壊の危険性が指摘されていた建物を放置し労働者を低賃金で劣悪な環境で働かせていた結果だったことを捉えて、エシカル消費の大切さを訴えます。また、エシカルな取り組みを行っている企業の事例を調べ、わかりやすく説明しています。さらに私たち自身が普段の生活からエシカルに暮らすことで持続可能な社会へシフトするきっかけになると結んでいます。審査員からは「高校生らしく身近な話題をきっかけに気候変動や海外の労働環境などについて広がりを持たせている。また、様々な事例について議論を展開。視野が広く、論旨が明快」と評価されました。
全国公民科・社会科教育研究会会長賞「消費者としての私たち」の筆者は、化粧品や生活用品といった身近な買い物を通して、動物実験の実態、エシカル消費、フェアトレードに気づき、製品に対する知識を正しく持つことが必要だと訴えています。安さやデザイン性、利便性を重視していた筆者が、友人から動物実験を行っていないリップスクラブをプレゼントされたことで、その判断基準を見直すことになります。化粧品などの生産過程では動物実験が行われていること、世界では毎年、1億匹以上の実験動物が犠牲になっているという現実を知り衝撃を受けます。チョコレートの生産過程では、過酷な児童労働があることにも触れ、どのような選択をすべきかを自分なりにリサーチします。その結果、環境や社会に配慮した「エシカル消費」「フェアトレード」に注目するようになり、現在はエシカル・フェアトレードに対する認知度が低いため、製品購入の選択肢に入っていないと指摘しています。審査員からは「動物実験やフェアトレードに関して実践的な調査を行っていること、いわゆる経済学の「外部性の内部化」を軸に考え、多面的・多角的な考察になっていること、高校生として良い提言になっていること」などが評価されました。
金融広報中央委員会会長賞「寄付でつながる社会」は、コロナの影響で小遣いを使う機会が減った筆者が使いみちの選択肢に寄付を考え、仕組みや種類、意味、循環する経済などを学んでいくプロセスが書かれています。昨年1年間の累計で「強制貯蓄」が20兆円程度になるという日銀の試算から、コロナ禍を乗り切るためにお金を必要とする人に届ける方法として、投資ではなく寄付を選びます。その利点として、フードバンクやクラウドファンディングの事例にふれながら、誰でも参加できること、支援がより広がること、気持ちもつながることの3点をあげます。また、「世界寄付指数ランキング」のデータから日本には寄付文化が根付いていない現状を指摘し、支援の輪を広げることが大切だと訴えます。そして、「寄付という温かい血液が日本中に巡り、もっと元気な日本になってほしい」と結んでいます。審査員からは「寄付には投資にはない良さがあることを自分なりの視点で記している」「クラウドファンディングについて近隣の具体的な事例をあげるなど、身近なものとしてとらえていた」と評価されました。