高校生小論文コンクール
第18回「金融と経済を考える」高校生小論文コンクール(2020年)
講評
第18回「金融と経済を考える」高校生小論文コンクールには、1,802編の応募がありました。テーマは金融や経済に関することであれば「自由」です。厳正な審査の結果、特選5編、秀作5編、佳作30編の入賞作品が決まりました。
データや調査に基づいて考察を深めた作品、身近な体験をきっかけに投資や起業に着目して書き上げた作品など、多様なテーマの力作が集まりました。その中から特選に選ばれた5編の概要を紹介します。
金融担当大臣賞「祖母から学んだ経済戦略」の筆者は、大分県別府市の明礬(みょうばん)温泉の名物「地獄蒸しプリン」の生みの親である祖母から商品開発の苦労、全国に知れ渡るようになるまでのプロセスを聞き、仕事に対する姿勢、心の持ち方を学んでいきます。今から26年前、祖母はおまんじゅうくらいしかお土産のなかった明礬温泉に何か面白いことができないかと考え、高温の温泉から噴出する蒸発熱を利用したプリン作りを考えました。試行錯誤を繰り返して作り上げた、それまでの概念を覆す苦いキャラメルのプリンはブームとなり、祖母はプリン工房を設立、80歳になるまで働き続けました。祖母からは、三つの経済戦略である「常に周りに目を向ける」「自分の『したい』を実行に移す」「気張らない」を学びました。結果に期待せず、遊び心でプリン作りを楽しんだことがお客さんに伝わったのかもしれないと分析しています。自分自身も祖母と同じように「最後の青春」を楽しめるように、学校では多くの教養を身につけ、社会に出てからは多くの経験を積んでいきたいと結んでいます。審査員からは「大変素晴らしい祖母の体験をかみ砕いて分析できている部分が良かった」「祖母のプリン作りから起業の要点をよく引き出している」と評価されました。
文部科学大臣賞「株式投資で考える日本の未来」は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、支給された10万円の特別定額給付金を元手に株式投資を始めた筆者が、その過程で日本の経済状況、投資の意味、資産運用の実態などを学び、学校での金融教育の大切さにまで論を展開しています。家族会議で「給付金」の活用について話し合う中で、筆者は企業支援として株式投資を思い立ちます。親の承諾・協力を得て、まずスマホで1,000円から簡単に株取引ができる証券会社の口座を開設し、「給付金」の趣旨を考え、自身の損得ではなく、コロナ禍の状況下で応援したいと考えた企業に投資することにしました。投資に関して学ぶうちに、日本人は世界と比べ預金の割合が高く、資産運用が少ない実態を知ります。理由としては、他者に迷惑(損害)をかけたくない、お金の話はしないという国民性に加え、学校で金融教育が十分にされていないからではないか、イギリスのように段階的に金融教育が行われれば、資産運用に興味を持つ人口も増えるのではないか、と考察を深めています。筆者はこれからも寄付や投資を経験し、自分にできる範囲で日本の経済に少しでも貢献していきたいと結んでいます。審査員からは「多様な側面から捉え、具体的かつ深い考察をしていると感じた」「単なる投資ではなく企業支援という発想、自分の利益と今回の投資の趣旨との葛藤も見られ、高校生らしさもある」といった評価を受けました。
日本銀行総裁賞「自然と共存し人に優しい農業とは」は、高校で農業を学んでいる筆者が「農業への道」を模索する作品です。筆者は、曾祖母が畑で作った野菜を近所の人におすそ分けして喜んでもらっている姿を見て、農業は人を幸せにできる仕事ではないかと思い、農業が学べる高校へ進学しました。しかし曾祖母は、高校の入学式当日に他界します。「農業のバトンを渡された」と感じた筆者は、農業の道を進んでいこうと固く決意し、いろいろと調べ始めます。その中で、曾祖母が「農協には出すもんじゃない」と言っていたことを疑問に思い、農協の仕組みを調べると、出荷した作物が安く買い取られていることや、無農薬野菜も農薬を使った作物も同じ値段がつけられていること、多くの農家が農協しか出荷先を知らないといった問題点に気付きます。しかし、農協へ出荷することのメリットもあると考え、農協で働いた経験のある現役の農家にも話を聞き、農協の長所と短所をさらに深く理解します。そして、農業で安定した収入を得るためには、まず農協に出荷し安定した収入を得て農業を軌道に乗せて、次に自分でも販売していくことで「人とのつながり」も広げていきたいと考えます。ビオトープを作り交流の場とし、自然と共存する農業、特に無農薬の良さを伝えていくという目標を定め、夢の実現のため努力することを誓います。審査員からは「高校1年生ながら自分の進む道を高らかに宣言した清々しい文章」「農業について複数の市場の形態を調べ、自分なりの経営戦略を議論していて深みがある」との評価を得ました。
全国公民科・社会科教育研究会会長賞「お金がすべてじゃない」の筆者は、「お金と幸せ」の関係を探るため、116名にアンケートを実施します。「お金の量は幸せに比例しているのか」「お金で幸せを買うことができるか」という設問への答えから、お金の価値が人によって異なることを実感します。花屋の店主である父親にも同じアンケートを取ったところ、「幸せはお金の量に比例する・幸せはお金で買える」という回答でしたが、父親から、お金は自分が努力をして得た対価であり、お金を持つことは仕事上で多くのチャレンジや努力をしたという証しでもあるので幸せを感じるし、それ以上に、お客様の喜びや笑顔に幸せを感じる、との考えを聞き、自分の働きかけと顧客からの信頼や評価、笑顔の受け渡しとしてお金を得る幸せがあることに気付きます。さらに、筆者はお金と幸福度について国際的なデータをもとに考察を進めます。いずれのデータからも、お金がもたらす幸福度には「飽和値」があることを知り、そこから、お金から幸せを感じる基準は人それぞれであり、お金を幸せの基準と考えていない人が多いとの結論に至ります。筆者は、自身の仕事や結婚は「お金に左右されたくない」という思いを強くし、幸せの基準をお金に合わせている人には、「幸せになるために一番必要なものはお金ではない」と伝えたいと結びます。審査員からは「オリジナリティが感じられる展開だった」「自分でアンケートを取った行動力や、海外と比較し日本の立ち位置を相対化した点が評価できる」などと評されました。
金融広報中央委員会会長賞「これからの消費者教育の在り方」の筆者は、夏休みにパン屋で初めて有料レジ袋を3円で買いました。母親に「それはパン屋さんとあなたの立派な契約だね」と言われ、身の回りのほとんどのことは「契約」で成り立っていると気付きます。契約は「大人がするもの、できるもの」と思っていましたが、「あなたは、18歳で大人になるんだよ」と母親に言われ、はっとします。高校1年生の自分もあと2年で大人の仲間入りをするが、はたしてその自覚と責任を持てるだろうか。2018年に「民法の一部を改正する法律」が成立し、2022年4月から施行されることで、18歳になると親の同意がなくてもアパートを借りたり、クレジットカードを作ったりできるようになることについて、自己決定権が尊重され、社会参加ができるようになる反面、消費者被害などの悪い面もあると考えます。そして、社会経験の浅い18歳の新成人が悪徳業者にだまされないようにするためにも、現在の消費者教育をもっと充実させる必要があると提案します。審査員からは「教育現場の議論を聞いていたかと思うくらいよく書けていた」「消費者教育の重要性を説いている。自分の意見をしっかり述べている点も良かった」と高い評価を得ました。