高校生小論文コンクール
第17回「金融と経済を考える」高校生小論文コンクール(2019年)
講評
第17回「金融と経済を考える」高校生小論文コンクールには、1,630編の作品が寄せられました。テーマは、金融や経済に関することであれば「自由」です。厳正な審査の結果、特選5編、秀作5編、佳作30編の入賞作品が決まりました。
決済、家計管理といった身近な経験を通じて考察を深めた作品、高校生らしい視点で地域社会、日本経済の課題と提言を綴った作品など、多彩なテーマの力作が寄せられました。その中から、特選に選ばれた5編の概要を紹介します。
金融担当大臣賞「キャッシュレスを通して見えてきたこと」の筆者は、鹿児島から修学旅行で東京に行った際、キャッシュレス生活に挑戦します。お小遣いは3万円。1万円をデビットカード、1万円を交通系ICカード、5,000円をQRコードを使ったスマホ決済、5,000円を現金で持参しました。結果は、友人とスイーツを分け合った750円以外はキャッシュレスで済ますことができました。残高確認や紛失等に気を付ける必要がありますが、体験した感想は「便利だ」ということでした。今回、キャッシュレス生活に挑戦しようとした理由は、他の先進国に比べると日本のキャッシュレス決済の普及率は低く、さらに筆者の住む鹿児島は日本全体より低かったためです。東京と地方ではなにが違うのか、メリットやデメリットは?など、自身が行ったイギリスの例なども挙げ、過疎や少子高齢化が進む地元の現状と課題に向き合います。審査員からは「キャッシュレス化について、自分自身の体験からはじまって、世界の現状や、自らが住む県内における課題などをよく考察している」「きわめて文章力が高く秀逸」との評価を得ました。
文部科学大臣賞「飛び立て!日本の仲間たち」は、中国でのアジアサイエンスキャンプ、ガーナでのボランティア活動を体験した筆者が、閉塞感が高まる日本社会について考察しています。中国では経済特区が多くある広東省を訪問。「中国のシリコンバレー」といわれるこのエリアは、「海亀」という若きエリートたちが海外で得た知識と技術を持ち帰り、経済成長を牽引しています。筆者は、日本でも再び海外留学する学生を増やし、彼らが最先端技術を身につけ日本に戻れば、日本の経済成長を牽引できるだろうと考えます。日本の生産年齢人口は半世紀後の2065年には約4,500万人まで減るとされているものの、イギリス・フランスよりは多いので悲観せず、国民一人一人が未来に立ち向かえる論理的思考力、創造性、対人関係能力を習得することが肝要と述べています。また、ガーナではインフラの整備や衛生環境が不十分だったことに驚くと同時に、満員電車に揺られる日本人は幸せなのか? とガーナの人から問われ、「幸福」について改めて考えます。審査員からは「海外に目を向け、海外から学ぼうとしている」「課題意識がよくわかる文章で、いろいろと自分で考えたことが詰まっている」点が評価されました。
日本銀行総裁賞「未来を造る『声』」の筆者は、岩手県の水沢に暮らしながら一関の高校に通学しています。一関は、駅と学校、図書館、文化センターをはじめ、学生に必要な書店、文具店、塾などがほどよく点在していて、活気もあり、引っ越したいと思うほど魅力的です。筆者は、町の発展には、「次世代を担う若者の育成が重要」であり、「地域住民の生の声を拾って現場に活かすことも大切」と考えます。また、全員の同意を得なければならないと物事を進められないのであれば、新しい試みに乗り出すことはかなり困難だろうと、決定方式の選択は地域の経済発展に影響すると指摘します。また住民の声をスムーズに行政に届ける仕組みも大切であると訴えるほか、母親が30年前に留学したアメリカの町で災害時に行われていた取り組みを紹介し、「逆境に立ち向かって打破するたくましさのある町にしていきたい」「若者に失敗を恐れずに行動させる温かい見守りがあれば、町は次第に明るくなっていくのではないだろうか」と締めくくります。審査員からは「いつも通学している身近なところから、自分なりの地域活性化策を考えている」「意思決定システムについて本質的なところまで考えている」などと評価されました。
全国公民科・社会科教育研究会会長賞「予算生活から見えてくる損と得」の筆者は、経済観念がしっかりした母親によって幼い頃から金銭教育を受けてきました。今回、初めての家族での海外旅行にあたり、母親と一緒に予算を立てることになりました。旅行先は家族会議で多数決によってグアム島に決定、おいしい食事をしてのんびりすることが目的です。予算立てにあたっては家族全員の希望を聞きリストを作成、図書館で借りたグアム情報の本を参考にして、食事代、買い物代など次々に予算を決めていきます。ベテラン主婦である母親からの助言も反映して作成した予算案は家族会議にかけられ、無事承認されたことに筆者は喜びます。こうして実現した念願のグアム島旅行、予想外の出費もありましたが、最終的には赤字になることなく家族それぞれが十分に余暇を満喫できました。筆者はこの経験からお金のありがたみを再認識し、この先も有意義なお金の遣い方をしていこうと思いを新たにしました。審査員からは「国会や財政をきちんと理解している筆者が、あえて家庭に限定して書いているところを評価」「ユニークな体験で他の人に読ませたい」などと評されました。
金融広報中央委員会会長賞「祖父から学んだ働き方」の筆者は、スーパーマーケットを起業し経営者として働き続けた祖父を持ち、商業科の専門高校で学ぶ高校3年生です。優しくて働き者だった祖父は、地元の日南市だけでなく若い頃に修業を積んだ奈良県橿原市にも、子供たちの本を買うための寄付を毎年していました。筆者は小学生の時、祖父の寄付金で購入された「戸村文庫」の存在を知り、驚きます。その寄付活動で市からも表彰される祖父を尊敬するようになった筆者は、祖父の亡き後も、祖父のような大人になりたいと勉学に励み続けます。高校3年の実践の授業には「課題研究」と「総合実践」があり、ものをうまく売るために必要なこと、働く際の責任などについて学び、改めてお店の経営を長く続けた祖父に思いをはせます。そして「働くことは大変だけれど、世の中の働く人は皆、大切な誰かのために働いているのではないか」「誰かの笑顔を見るために働ける人間になる」と結びます。審査員からは「自身の体験から未来志向につなげており、まとまりがある」「祖父の行為に胸を打たれ、ビジネスの世界に飛び込む選択をしたこと、自分はどうしたいか、という考えがよくわかる」などと評価されました。