金融教育に関する実践報告コンクール
第12回金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2015年)
応募状況および特賞・優秀賞・推奨実践事例賞受賞作品の紹介
第12回金融教育に関する小論文・実践報告コンクールでは、従来の「小論文部門」と「実践報告部門」に加え「研究校部門」の3部門で、金融教育に関する提言、実践事例や実践計画などを募集しました。教員、研究者、教員を目指す学生の方から26編の作品が寄せられ、厳正な審査の結果、特賞1編(小論文部門)、優秀賞4編(小論文部門2編/実践報告部門2編)、奨励賞4編(小論文部門2編/実践報告部門2編)、推奨実践事例賞3編(研究校部門)の入賞作品が決まりました。
小論文部門では「これから取り組んでみたい金融教育」「これからの時代に求められる金融教育」「金融教育をさらに普及していくための提言」、実践報告部門および研究校部門では「学校で取り組まれた実践報告」「学校で取り組む予定の実践計画」を募集テーマ例として挙げました。
入賞作品のうち、特賞と小論文部門・実践報告部門の優秀賞各2編、研究校部門の推奨実践事例賞3編の8編を紹介します。
特賞「高齢者への金融教育講座における留意点―講座の実践をとおして―」は、高齢者の金融リテラシーを高めるための講座を効果的に実施するためのさまざまな工夫について実践を踏まえて紹介した作品です。本コンクールは主として学校における金融教育を対象としてきましたが、本小論文は、高齢者の金融リテラシー向上というわが国の重要な課題に真摯に取り組み、実践による検証を経て有益な提案を多数行っている点が高く評価されました。特殊詐欺を他人事のように思う高齢者に対して、紙芝居をデザインしたり替え歌をつくったりといったさまざまな工夫をしており、問題の本質に入り込んで論文が書かれたことが感じられます。
優秀賞「データ分析(回帰分析)を用いた経済・金融教育」(小論文部門)は、データ分析・回帰分析という統計的な分析を用いて経済・金融教育を行うという提言です。経済教育において非常に重要な意味を持つデータ解析について、株価や為替レート・国債等のさまざまな経済的なパラメータの間の相関関係を、パソコンを使った回帰分析という形で高校生に分かりやすく教えることを提唱しています。さまざまな見解に対して自分たちで生のデータベースを使って自分で見て判断することができ、経済問題についての理解を深め、社会を学ぶ上で、極めて有意義であると評価されました。
優秀賞「これからの時代に求められる金融教育~起業による『金融教育プログラム「学校における金融教育の年齢層別目標」(「年齢層別の金融教育内容」改訂版)』の実践的活用~」(小論文部門)は、筆者による過去13年間にわたる金融教育への熱意あふれる取り組みを総括しています。そこでは、小学校における社会とのつながりの中でのバラエティに富んだ体験的な学習が、試行錯誤の過程や児童の成長という大きな成果と共に紹介されています。次期学習指導要領の改訂に向けて社会に開かれた教育課程やアクティブラーニングが重視される中で、時宜を得た作品であると評価されました。
優秀賞「税の使い方から考えるわたしたちの暮らしと未来のまちづくり」(実践報告部門)は、税の使途についてウェブサイトや自治体の予算書を活用して中学生に理解を深めさせる実践の報告です。分かりやすい教材を使って主体的な学びを引き出している点が評価されました。税と暮らしは直結しているため、大人になって理解するのでは遅く、中学生のように早い段階で税の使い方について考える機会を教育の場において提供することも提唱しています。
優秀賞「大学における金融リテラシー教育 アクティブラーニングと学習ポートフォリオ」(実践報告部門)は、大学での金融リテラシー講座の実践を通じて開発したプログラムを紹介する作品です。金融教育の趣旨や内容を十分に理解し、体系的な教育内容とワークシートを含めた具体的な指導方法を提示している点で有益な実践報告と評価され、優秀賞を受賞されました。
推奨実践事例賞「地域を通じた体験的な学びから、社会的自立を目指した金融教育の実践~定時制高校から見えたこと~」(研究校部門)は、定時制高校における生徒の実態を踏まえた意欲的な金融教育の実践の取り組みを分かりやすく紹介しているとして多くの支持を集めました。同校での実践は、金融教育を通じた、社会人としての人格の成長を重視しています。生徒たちが、コミュニケーション力を高めるとともに、近視眼的な生活スタイルを見直して貯蓄し、将来のライフスタイルをデザインして生活するように金融教育を実践しているとして評価されました。
推奨実践事例賞「商業教育の視点に立った金融教育の取組 AL型授業の実践~奨学金の返還と滞納の問題を考える~」(研究校部門)は、現在重要な社会問題となっている奨学金の返済負担について、ライフプランニングの立案と検討を通じて高校生に熟慮させる実践であり、広く知ってほしい内容として評価されました。奨学金の返済は、現在、学生が社会に出る入口で最初に出会う切実な問題となっており、これを含めてライフプランニングを考えさせるという実践に真正面から取り組んでいることに大きな意味合いがあるとの評価を得ました。
推奨実践事例賞「小学校における職業体験学習の実効性を探る~「私たちのハローワーク『働くことの価値』を見つけよう!」の実践を通して~」(研究校部門)は、小学校5年生が地域のさまざまな企業などで職場体験を行う実践の報告です。中学生に関しては全国で広く行われている職場体験ですが、小学生の実践は珍しく、先生方の苦労が忍ばれるとともに、綿密な指導により成果を上げていることが伝わってくるとして高く評価されました。
今回のコンクールでは、これまでには見られなかった分野を扱った小論文や、工夫を凝らした多様な授業実践が寄せられました。特賞、優秀賞、推奨実践事例賞を受賞した優れた作品が広く取り上げられ、金融教育への機運がより一層高まり、さまざまな取り組みが実践されることを願っています。