金融教育に関する実践報告コンクール
第11回金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2014年)
応募状況および特賞・優秀賞受賞作品の紹介
第11回金融に関する小論文・実践報告コンクールでは、「小論文部門」と「実践報告部門」の2部門で、金融教育に関する提言、実践事例や実践計画などを募集しました。教員、研究者、教員を目指す学生の方から26編の作品が寄せられ、厳正な審査の結果、特賞1編(実践報告部門)、優秀賞4編(小論文部門2編/実践報告部門2編)、奨励賞6編(小論文部門3編/実践報告部門3編)の入賞作品が決まりました。
小論文部門では「これから取り組んでみたい金融教育」「これからの時代に求められる金融教育」「金融教育をさらに普及していくための提言」、実践報告部門では「学校で取り組まれた実践報告」「学校で取り組む予定の実践計画」を募集テーマ例として挙げました。
入賞作品のうち、特賞と小論文部門・実践報告部門の優秀賞各2編の5編を紹介します。
特賞「中学生に起業家精神を養い育てるための授業実践~地域人材の活用から見える経済分野においての社会参画~」(実践報告部門)は、21世紀の日本をたくましくリードするチャンレンジ精神旺盛な人材を育成するには「起業家教育」が効果的であるとし、「中学校から会社をつくろう」という授業実践を提唱するものです。起業家の立場からの学習をすることは、生徒の記憶に鮮明に残ると述べるとともに、子どもの学習活動を、問題把握、問題分析、意思決定、提案・参加の4つの段階からプロジェクト的に組織する、社会参画の視点を持った授業として実践しています。
実践の過程では、生徒が授業時間以外にも課題に自ら取り組んだり工夫したりする姿が見られたほか、実践の結果、生徒の関心や意欲が本取組で刺激されたことが確認できたと紹介されています。中学生であれば、もう少し高度なことを期待したいという意見もありましたが、本実践は、地域の人を巻き込んで行っている点、生徒の主体的な学びを促している点が高く評価されました。
優秀賞「“いいお金儲け”の授業をしませんか!-暮らしを良くしていく公正で持続可能な社会が、見えてくる-」(小論文部門)は、刺激的なタイトルで読者を惹き付けた上で、本文では二宮尊徳の言葉や近江商人の教えである「売り手よし、買い手よし、世間よし」を引用して、「いいお金儲け」の授業を取り入れることを提唱しています。
実践されている授業について、本文中でもっと詳しく紹介されていると良かったとのコメントも出ましたが、分かりやすく訴えかける文章で記述されていると評価されました。
優秀賞「『リスクの問題』を重視した金融・経済教育のあり方について」(小論文部門)は、金融機関勤務の経験を踏まえて、消費者の資産管理や借り入れ時における正しいリスク認識の必要性を訴え、中学生・高校生に対する金融教育においてリスクに関する教育を重視すべきと主張しています。
作品の中では、中学校・高等学校で使用されている教科書を確認したところ、リスクやクレジットカードなどの記述が乏しいことから、教科書における金融・経済に関する記述内容を充実させるべきであるとも主張しています。そして、自動車保険の保険金の一部が不払いであった事例や消えた年金問題などの社会問題を取り上げれば、具体的な事例に基づいた教材を生徒に提供できると述べるとともに、経済の変動に備えて資産運用や資産管理を適切に行うことは必要であるため、学校教育の段階でリスクを考慮した金融経済教育が行われることが求められるとまとめています。
本作品で扱っているリスクは、生活に身近なものに限定されており、リスク全般について体系的に言及されていない点に限界はあるものの、投資に対する社会的関心が高まってきている現在、時宜を得た作品であると評価されました。
優秀賞「地域教材や人権教育からの学習を深化・発展させる金銭教育の可能性について~管理職としての関わりから全校的な取り組みをプロデュースする手法~」(実践報告部門)は、全校児童33名の小規模小学校において担任教諭と助教員の二人とともに取り組まれた実践の報告です。
若い世代を育成しながら金銭教育の取り組みのノウハウをOJTや事例研究を通じて伝えていこうとされています。小学校3・4年生の複式学級、5年生の総合的な学習の時間などにおいて、若い担任教諭とともに地域の特性を活かした実践がされている点が高く評価されました。
同校ではコンビニに対抗した260円弁当を売り出す地元のスーパー店長へのインタビュー、お弁当を各自で選んで購入する体験、四国遍路開創1200年記念グッズの作成計画の立案など、多様な実践を行っています。全国に2万校ある小学校の多くが小規模校である中、こうした実践を参考に、金融教育が広まることを希望いたします。
優秀賞「ものやお金を大切にする心豊かな子どもの育成を目指す授業づくり~『農作物販売プロジェクト』の取組を通して~」(実践報告部門)は、小学校5年生が、稲作体験で収穫したコメを販売した実践を紹介したものです。児童に「実感を伴ったお金の大切さ」を認識させることを考えて、農作物を販売するプロジェクトを17時間かけて実施し、児童が商品を販売するために様々な工夫を行ったことを紹介しています。
ふり返りの授業で書かせた感想文には、商品が売れた喜びや自分たちの工夫に対する反省などが綴られ、どの児童も大きな達成感を得ていることが読み取れたほか、得られた収益が一人あたりの時給に換算するとわずか50円になったこと、その使い道について多数の児童がよく考えたいと反応したことなどが描かれています。農産物の販売体験は、各地で実施されている取り組みではありますが、児童の一生懸命な様子が伝わってきます。添付資料からも充実した実践が行われたことが窺えるとして高く評価されました。
このほか、これまでには見られなかった視点に立った小論文や、工夫を凝らした多様な授業実践が寄せられました。
本コンクールの受賞作などを参考にしながら、より多くの学校において多様な金融教育の実践が広く取り組まれることを願っています。