金融教育に関する実践報告コンクール
「金融教育を考える」第7回小論文コンクール(平成22年)
講評
「金融教育を考える」第7回小論文コンクールでは、「金融教育に関する授業や学校行事での実践報告」「これから取り組んでみたい金融教育」「これからの時代に求められる金融教育」「金融教育をさらに普及していくための提言」「その他」の5つのテーマを設定しました。教員や研究者、教職を目指す大学生から25編の作品が寄せられ、厳正な審査を経て、特賞1編、優秀賞2編と奨励賞5編の入賞作品が選ばれました。特賞および優秀賞を受賞した3編を紹介します。
特賞「マネー・コンピテンシーの育成を目指した単元開発―『コミュニケーション・メディア』としての貨幣から“つながり”をみつめる活動を通して―」は、小学校における新しい金融教育の単元を構想した論文です。筆者は、子どもによる犯罪事件の報道や学校現場における生徒の問題行動の報告から、お金が介在する事例を目にする、金額も高額化していると指摘し、人と人のつながりを構築、維持していくための手段としてお金を捉え直す必要があると提唱。本研究では、お金を、「わたし」と他者や社会を結び付ける「コミュニケーション・メディア(媒介物)」と捉え、お金とかかわるための総合的な力を「マネー・コンピテンシー」と定義しています。保護者や地域、外部機関との連携などによる相互交流を基盤にした学習活動を通した高学年用の10時間の授業計画をまとめています。実践には至っていないものの体系的かつ論理的にまとめられている、と高く評価されました。
優秀賞「金融教育ができる教員を養成しよう―北海道教育大学と北洋銀行のチャレンジ―」は、北海道教育大学と北洋銀行との共同研究として、同大学の教養科目のなかに「金融教育」の講座を開設し、平成22年度に全15回の授業を行った実践報告です。授業は、道内3カ所のキャンパスをテレビ会議システムでつないで実施され、1年生を中心に56名の学生が受講しました。内容は貨幣と金融に関する基礎知識に関するものから、社会人としてのマネーモラル・銀行の役割と社会的責任、小・中学校の社会科、生活科、家庭科における具体的な金融教育の授業方法など多岐に亘りました。「金融について学びつつ、金融教育の実際に触れることができた」と受講した学生の反応も良好であったと報告されています。今後は専門科目としても開講できるよう準備を進めたいと述べています。学校における金融教育の担い手育成の好事例として、高い評価を得ました。
優秀賞「仮想取引体験授業の有効性と問題点-行動経済学的な視点から-」は、大学における金融教育の実践報告です。従来のファイナンス教育は、学生にとって身近でなく、金融市場の理論的な説明に終始してきたことが問題だ、と指摘した上で、金融取引の体験がない学生にそのしくみと難しさを伝える手立てとして、仮想取引体験を取り入れた授業を紹介しています。ゲーム感覚で金融の知識を学ばせる試みは、学生の積極的な授業参加を促し、金融知識の習得だけでなく、実際の取引で犯しがちな過ちや誤った認識に気づかせるうえで有効である、と述べています。一方で、授業目的を達成できるような適切な体験教材の作成には時間と労力が必要であることや、仮想体験から学生が間違った教訓を学んでしまわないように注意しなければならないなどの課題があることも指摘しています。オリジナルな教材により行われており、仮想取引体験授業の利点・有効性だけではなく問題点・課題も分析している点が高く評価されました。
今回は2年振りに特賞を授与しました。また、9名という多数のグループでの取り組みを初めて賞することにもなりました。大学や大学生からの応募も増え、金融教育が、小学校から高等学校の学校現場のみならず、大学にも広く普及してきていることを示唆する結果となっています。
実践報告については、指導計画の添付が望ましいと募集要項に記しましたが、添付や言及がみられないものもありました。研究の主題や設定理由、研究の目標・仮説、目標とする児童・生徒像、検証・成果などを記述するとともに、年間(単元)の指導計画も盛り込んでいただきたいと存じます。引き続き、各地で行われている実践報告のほか、金融教育を実践するためのカリキュラム・環境・課題などを体系的に論じた論文の応募を期待しております。