2015年度 先生のための金融教育セミナー
【小学校・中学校向け】
4.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)/小学校分科会2
- 進行・コメント:
- 帝京大学教職大学院 小関 禮子 教授
実践発表およびワークショップ(1)
「家計のやりくり体験・リスクと保険について考えよう」
東京都東村山市立回田小学校 曽我部 多美 校長、亀山 里美 主任教諭
実践発表
金融教育は、身近な生活と関連を図った学習ができ、子供たちにとって具体的な内容で学習を進めることができるため、意欲的に学習に取り組むことができるのではないかと思います。子供たちが主体的に自分のこととして考えることで、自らの価値観を形成し、生きる上での基本となる意思決定ができるようになるのではないかと考えます。具体的には、社会とのつながりを意識できる買い物という身近な例を体験させることで、将来、職業選択をする等のいろいろな場面で生かすことができるのではないかと考えています。
本校では学年毎に発達段階や、児童の実態に合わせてさまざまな教材開発を行っています。1年生は生活科、2年生は道徳、3年生は地域学習と関連させた社会科、4年生は職業調べと体験、5年生は家庭科で上手なお金の使い方について学んだ後、総合的な学習の時間に発展させて買い物と契約について学習します。家計管理をスタートとして、段階的にお金そのものについても学習しています。お金とは一体なんだろうということを子供たちと一緒に考えた後、家計管理に進みます。その中で特に考えさせたのが生活を充実させるために必要なお金についてです。お金の役割とともに、お金の使い方は各家庭の価値観によって全く違うということを考えます。ものを買うときには、価値観を基に本当に必要かどうかを考え、判断させることが必要になります。
6年生では、算数の時間にハンバーガーショップのシミュレーションゲームを行い、売上と利益の算出方法を学習して、そこから総合的な学習の時間に発展させ、「われらアイデアマン」という授業で商品開発や経営の基礎的なことを学んでいます。また、移動教室の買い物計画や中学校に入学する費用はいくら必要なのかということをテーマに授業を行っています。5年生で学習した家計管理から6年生では金銭を計画的に使うにはどうしたらいいかという学習に発展させています。その後、新たに保険の学習を行いました。家計管理を学習することで、子供たちは様々なものやサービスにお金が支払われていること、生活するためには多くのお金が必要だということを学び、その中から自分たちの中学校入学への準備のため、多額のお金がかかることを知ります。家庭の経済状況からどうやってそのお金を準備するのかを考え、将来に対して計画的なお金の使い方を身に付けながら家族の一員としてどう行動することが望ましいのかについても学びます。また、家族に何かあったときに、その備えについても考えられるようになって欲しいと願い、新しく保険について学習で取り上げました。
ワークショップ
実際に回田小学校で行われた、ものや金銭の計画的な使い方を考えるためのワークシートに沿って行いました。生活の中で起こる事故や災害を考え、その後、自転車事故を例に具体的にどのようなことが困るのかということや、金銭の計画的な使い方を考え、授業に保険を取り入れるとしたらどんなやり方がいいのか、子供たちが生活の中で安全な暮らしとそのリスクについて考えるために、また健全な社会人として育っていくために、どのようなことを教えていくことが必要なのかということをグループで意見交換し、その後、発表していただきました。
コメント
小関禮子先生より次のようなコメントがありました。
回田小学校では、実践をする際に、まず子供の意識調査や実態調査をしています。例えば、消しゴム一つの値段を考えさせても子供によって、ものすごく幅があります。そういう実態を全て押さえながら授業をしています。また、どの学年も教材開発を非常に盛んに行っています。家庭には様々な状況があるのでどこまで踏み込むのかということについても、お金に関わる授業全てにおいて、十分に配慮する必要があります。ただ、配慮しすぎるあまり、何もできないことになってしまうと、子供たち一人一人の生活に密着した指導ができません。知識としてサラリと流すのではなく、うちではどうなんだろう、どうすればいいのだろうと考えさせることが大事ですので、日常的に保護者、家庭との連携を取りながらどこまで踏み込むのかということについて、学校で実態を押さえる必要があるのではないかと思います。
また、回田小学校の実践にかかわり、災害等に備えるということでは、先生方が災害や自然現象も含めてニュースなど様々なことにアンテナを張り授業に取り入れるということも大切なことだと思います。私も自分が校長のときに、2校で金銭教育に取り組みました。思考力を高めるために子供たちに考えさせるという授業を意図的に組みました。その結果、学力が大変上がりました。考えさせることが学力向上につながることは確実です。そのようなプラス面を、是非考えていただきたいと思います。
実践発表およびワークショップ(2)
「地域教材や人権教育からの学習を深化・発展させる金銭教育の可能性について~管理職としての関わりから全校的な取り組みをプロデュースする手法~」
徳島県阿南市立山口小学校 島村 孝 教頭
実践発表
まず管理職として大切なことは「金銭教育は楽しいよ」ということを先生方に知ってもらうことです。そのための計画を立て、その計画を実のあるものにするために意欲を大切にする風土づくりを心掛けています。様々な事にアンテナを張り、担任と雑談を含めて十分な話し合いをすることで夢を実現することができます。先生方の若い力を育てるためには、計画だけでは素晴らしい実践にはなりません。自分がやる以上に若い人がうれしいと思うような共通体験をして、成功体験につなげることで、後の事例研究や分析も意欲的になり、子供たちの意識も変わってきます。管理職は取り組みを把握しながら成功体験につなげる、つまり担任に寄り添う立ち位置が重要です。
取り組んだことは、ものの製作と販売です。ものを作り、それを販売して得た利益で社会に貢献し、自分の夢をかなえることはどんな学習より魅力的であり、記憶に残るものだと思います。また、社会貢献に取り組むことで、子供たちも地域の人たちに認めてもらえ、社会とつながることで大きく育つことができます。やってみせ、やらせて、ほめること、そして地域の人材とのパイプ作りをしながら、教師も児童も楽しくやりがいがあって、もう一回やってみたいという意欲が湧くような展開にしていくことが重要です。成功するかどうかを心配するのではなく成功させることが大切なのです。また全校を巻き込むことや、メディアへの発信も大切だと思います。
作って販売するものは何がいいかということですが、地元の素材で、新しい歩みを刻むものが記憶に残ります。実際に山口小学校では3、4年生では、わかめと廃油石鹸を作り販売しました。わかめは400キロ売れて15万円を売り上げました。5年生では地元の四国遍路開創1200年の中でガラス細工を作り販売しました。東京・四国と合わせて93個が完売しました。販売して上げた利益から、車いすと時計を公民館に寄付して周りの方に感謝される体験をしました。金銭教育をしたことで子供たちは社会から評価されて、また頑張ろうという気持ちになっています。
ワークショップ
先生方が住んでいるところで自慢できる人・もの・ことをシートに記入していただきました。グループで情報交換した後、皆さんの地域にある豊かな農産物、野菜や果物を入れて260円で売れる弁当の絵を描いていただきました。その内容をグループで情報交換して、グループ内で一番おいしそうで、売れそうなお弁当を一つ発表していただきました。その後、小関先生より一つ最優秀賞を選んでいただきました。どのお弁当も地元の食材をふんだんに使って工夫されたお弁当でした。
本実践事例は、第11回金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2014年)優秀賞作品として当ホームページに掲載されています。
第11回金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2014年)
コメント
小関禮子先生より次のようなコメントがありました。
まずどの教育課題を選ぶかについて、取り組みやすい課題を選ぶことは大事だと思います。山口小学校では、非常にダイナミックなものを子供たちが作り、販売し、地域を巻き込んだ実践を行っています。生産・販売に関わることを教材として、子供たちに結びつけることで金融教育の実を挙げた内容だと思います。ものを作るということは、いわゆる不労所得ではなくて苦労所得です。苦労して何かを得るという、その良さを子供たちに感じさせてください。その実感が「お金を得るって大変なことで、お金って大切なんだ」という方向に進むのではないかと思います。島村先生のテーマの中に可能性という言葉がありました。一つの授業で子供が変われば学校が変わります。そして家庭や地域も変わります。このことは今日の山口小学校と回田小学校の実践例で明確になったと思います。そういう点では、至るところに教材はあります。アンテナを高く上げ、そして感度を上げれば教材となるものはたくさんあるのですが、そのときに、金融教育で子供にどんな力を付けるのかを、必ず先生方が意識する必要があります。子供の関心はとても大事です。子供たちが興味、関心を持つことはとても大事ですが、これによって、子供たちにどんな力を付けるのかということを考える必要があります。是非、子供たちの実態を見て、金融教育で目標とするものを意図していただきたいと思います。