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2014年度 教員のための金融教育セミナー

2.分科会(金融教育の事例紹介とワークショップ)

小学校分科会

進行およびコメント:
国士舘大学 北 俊夫 教授

実践発表およびワークショップ(1)

「じょうずに使おう物やお金~めざせ、買物名人~」
愛媛県松前町立岡田小学校 樋口 典子 教諭

実践発表

岡田小学校は全校児童525人、豊かな自然に恵まれた地域ですが、近年、大型商業施設ができ、子どもたちの生活にも変化が見られます。そこで、主体的に生きる消費者としての態度を育成する視点から、家庭科の内容「D 身近な消費生活と環境」をその他の内容と関連付けて実践的に学ぶために、指導計画を見直し、家庭生活を総合的に捉えた題材構成を工夫しました。また、他学年他教科等においても、例えば、低学年では、道徳の授業を通して物やお金を最後まで大切に使おうとする気持ちを育み、中学年では、特別活動の時間を通してお使いすごろくのゲームやお小遣い帳をつける練習をするなど、実生活につながる体験活動を取り入れ、消費生活への関心と理解を高めています。

第5学年の実践「じょうずに使おう物やお金~めざせ、買物名人~」では、調理との関連を図った題材構成を工夫し、子どもの気付きを生かし、実生活との関連を図った問題解決的な学習に取り組みました。買物シミュレーションでは、買うか買わないか、根拠を明らかにして意思決定することで、買物の当事者となって自己の課題を見つめさせました。シミュレーションでは、我慢する、諦める、買う以外の方法を考える、貯金するなど、子どもがそれぞれ試行錯誤しながら意思決定し、限りある金銭を工夫して使おうとする姿が見られました。

第6学年では、学校行事と家庭科の学習をリンクさせて、「じょうずに使おう物やお金Ⅱ~修学旅行で無駄なくじょうずにお金を使おう~」を実践しました。修学旅行では、昼食やお土産購入などで金銭を支払う場面があるほか、遊園地でのミールクーポンの利用は、現金以外での支払いを体験するよい機会であり、学びを実生活につなげることができると考えました。まず、修学旅行の全体の費用を計算して把握させ、無駄なく上手にお金を使うために何をしなければならないかを考えさせました。次に、品物を選ぶために必要な情報を聞き取りや特産品調べなどで集め、お土産マップにまとめて、各自で買物計画を立てさせました。修学旅行では、ほとんどの子どもがメモを片手に買物をし、お小遣い帳に記録していました。その際、商品を選んだ理由を記入させたことが、自分の買物の振り返りに役に立ちました。修学旅行後の振り返りの学習では、9割が小遣いを上手に使うことができたと答えましたが、ミールクーポンについては、半数以上がうまく使えておらず、現金以外のお金の使い方について継続的な指導の必要性を感じました。

2年間を見通した題材構成や配列を工夫したことで、繰り返し学びながら、よりよい消費生活を実践するための基礎的・基本的な力を段階的に身に付けていくことができたようです。

ワークショップ

ワークショップでは、実際に、修学旅行のお土産マップをもとに、まず各自で買物の計画を立ててみました。その後、実際に教室で示された買物の計画例(予算をオーバーしている)に関して、参加者が気付いたことを指摘し合いました。選び方・買い方における工夫(まとめて買う、出し合って買う、ゆとりをもたせる、地元の特産品を買う、など)や気を付けること(賞味期限をチェックする、個数や量を確認する、日持ちするものを買う、簡易な包装を選ぶ、1日目に買いすぎない、頼まれたものを先に買う、など)が発表されました。

小遣いを使い切らない子どもについての参加者からの質問に対し、使い切れなかったことに対して上手に使えなかったと評価した子どもがいたのは、指導上の反省点であると回答されました。また、修学旅行に向けて早起きする、身の周りを整えるなど日常生活上の改善が見られたと話されました。

コメント

北先生は、本実践は消費者教育の視点から金融教育を実現しており、金融教育プログラムで提示している金融教育の内容にある「自立した消費者」、「健全な金銭観」、「生活設計」に関する項目に該当すると解説されました。また、単なるお金の使い方に留まらず、子どもの生活の改善につなげた実践である点を評価されました。修学旅行の土産物購入のシミュレーションと実体験を組み合わせた本実践は、お金の望ましい使い方を学ぶ上で、児童にとって体験や経験を踏まえた学びであると述べられました。最後に、お金を上手に使うことを小学生に伝えるためには、教師が全体を把握しておくことが必要であると話されました。「上手」には、目的や必要に応じて、無駄にしない、品定めをする、効率的に、先のことを考えて計画的に、といった内容があること、「使う」には消費する以外に、乗り物に乗る・情報を得るといったサービスも含まれること、また、「使い方」には、蓄える・貯金する、貸す・借りる、募金する・寄付する、投資する、といった多様な使い方があることを指導したいと指摘されました。

小学校分科会の模様(1)

実践発表およびワークショップ(2)

「アイデアマンをさがそう~
よりよく考え、判断し、行動する子の育成~消費者・金融教育から~」
東京都東村山市立回田小学校 曽我部 多美 校長、塚本 哲 主任教諭

実践発表

本校は昨年度まで金融教育研究校として2年間活動してきましたが、今年度も引続き消費者教育・金融教育に取り組んでいます。消費者・金融教育は、思考力・判断力・表現力を育てることができ、子どもの意欲を高め、また、学んだことをすぐに生活に生かせることから子どもたちが学ぶ意義を実感できると考えています。最も基本的な生きる力として本校が考えているのは、意識的な意思決定のできる子に育てることです。このため、授業では、ああしなさい、こうしなさいと教え込むのではなくて、子どもたちの認識を揺さぶるような単元開発を大切にしてきました。消費者・金融教育に対する保護者の支持も9割と高く、児童も9割がお金に関して考える学習に進んで取り組めたとのアンケート結果が得られています。

研究テーマは「よりよく考え、判断し、行動する子の育成」、サブテーマは「消費者・金融教育から」と設定して、全学年で取り組んでいます。1年生は生活科、2年生は道徳、3年生は地域学習と関連させて社会科、4年生は職業しらべのわくわくワーク、5年生は家庭科で家庭でのお金の使われ方について学んだ後、総合的な学習の時間に発展させて買い物と契約まで学習します。

6年生は、前半に算数の「文字を使った式」の学習のまとめとしてもうけの仕組みについて考え、後半に「我ら、アイデアマン!」という起業体験学習を総合的な学習の時間に行っています。これらは、4年生の総合的な学習の時間における「よりよい生活」や「物の値段の決まるしくみをしろう」、5年生の総合的な学習の時間の「家庭で使うお金は?」、「情報科社会で生きていくために」のネットショッピング、といった学習を踏まえたものとなっています。

6年生前半の学習のうちの「もうけの達人になろう~文字を使った式をいかして~」では、1個当たりの個々の材料(パン、肉、レタス、チーズなど)の費用・販売にかかる人件費(固定費)を提示します。班ごとにおすすめのハンバーガーを考え、1個当たりの利益(販売価格マイナス材料費)と販売個数、固定費からもうけを算出します。班ごとに開発したハンバーガーを発表し、投票方式で購入者を募ります。儲けが最も多い班の勝利というゲームですが、販売個数が多くても利益が少ないこともあります。販売個数を文字を使って表わした計算式は、エクセルシートで自動計算できるようにしてありますので、子どもたちは算数の学習の応用になっていることを実感できるわけです。

後半の学習の最後に「アイデアマンをさがそう」と題して出店計画を立てさせました。消費者の立場だけでなく、販売者の立場を考えたり、周囲の店の比較を行ったりした後に、各自に立地・対象者・ニーズを考えてハンバーガーショップをどこに出店するか検討させて発表させました。

本日のワークショップは、この2種類を行います。

ワークショップ

ハンバーガー開発チーム5班と店舗計画チーム5班に分かれ、販売しようと考えるハンバーガーや出店しようとする店舗について班ごとに企画を考え、それぞれのアピールポイントなどをまとめて、発表しました。ハンバーガーについては限定品やヘルシーなどのキーワード付きバーガー、店舗については学生向けや高齢者向けなどバラエティに富んだ発表となりました。提案されたハンバーガーや店舗について、授業で行ったように投票したところ、最も人気の高いバーガーの利益が最も高いという結果にはならず、また、すべての店舗に誰かが投資するという結果となりました。実際の授業では、誰も投資しない店舗があったことや、児童の「販売者の苦労や努力が分かった」、「将来の夢であるお店やさんの大変さを感じた」という感想が紹介されました。

コメント

北先生は、回田小学校の研究主題に「判断力」が挙げられている点について、判断力は生き方につながること、小学校では思考力や考える力ほど重要視されていないように思われるが、具体的な意思決定を繰り返し行わせ、判断力が身につくような実践を行うことは重要であると述べられました。 また、教科、道徳の時間、総合的な学習の時間との関連が十分に図られている点が特徴であると話され、金融教育は教科ではないことから様々な場面で取り組まれ、学習したことがばらばらのままにならないよう、最終的には総合的な学習の時間を利用して、知識の総合化、実践化を図ることが必要であると解説されました。さらに、商店の経営を消費者ではなく、経営者の視点から取り組んでいる点が、子ども自身に将来の進路を考える一助となること、具体的にいえば、お店を開くことも将来の夢のひとつになり得るという意味で、小学校における価値ある実践であると評価されました。

分科会全体を通して、学校における教科等間の関連という横軸とは別に、縦軸、すなわち小学校就学前の教育から大学まで、そして社会人になっても学習が継続されるという意味で、金融教育は生涯学習であることから、小学校段階でも生涯学習の基礎づくりを行うという視点や見方が求められるとまとめられました。

小学校分科会の模様(2)

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