先生のための金融教育セミナー
平成20年度教員のための金融教育セミナー
1.来賓挨拶/パネル・ディスカッション
(1) 来賓挨拶
まず、文部科学省初等中等教育局の牛尾則文視学官よりご挨拶を頂きました。牛尾視学官は、学習指導要領改訂の基本的な考え方などに関する説明の後、金融教育に関連する学習指導要領の改善点を解説しました。
その具体例として、社会科では、小学校3・4年生の販売の学習で販売者の側の工夫を扱うようにしたこと、小学校5年生で価格や費用について取り扱うものとしたこと、中学校社会科の公民的分野で金融の『仕組み』の理解を盛り込むことによって、金融制度をより詳しく扱うようにしたことなどを挙げました。また、小・中学校の家庭科では、『身近な消費生活と環境』という単元で、物や金銭の大切さや消費生活に関する学習を充実させていると述べられました。
(2) パネル・ディスカッション
続いて、「金融教育のわかりやすい実践に向けて」をテーマに、金融教育をわかりやすく教えるための工夫などについて、パネル・ディスカッションを行いました。
パネリストは、国立教育政策研究所の工藤文三初等中等教育研究部長、岐阜大学教育学部の大杉昭英教授、ファイナンシャルプランナーで生活経済ジャーナリストのいちのせかつみ氏、コーディネーターは金融広報中央委員会事務局長の恵谷英雄が務めました。
学校で金融教育に取り組むことによる効果としては、「金銭感覚を養い、子どもなりの価値観や将来の見通しをもつことが、生活の自立、生活と社会の理解、金融トラブルの防止につながる」(工藤部長)、「子どもたちの自立と自律の基礎が養われる」(大杉教授)、「スーパーのチラシや本物の100万円の札束を使って『サプライズとリアリティー』を重視した出前授業を通じて、ニーズ(必要な物)とウォンツ(欲しい物)の違いや、お金の怖さを実感させることができる」(いちのせ氏)といった点が挙げられました。
時間等の制約が厳しい中で金融教育を実践するための工夫については、「各教科は教科としての目標以外にも幅広い機能を持っており、その中に金融教育の視点をセットすることが大事だ。たとえば、複利計算を算数や数学で取り上げると、間接的に金利の学習になる」(工藤部長)、「『足利義満はなぜ金閣寺を建てたか』というテーマで行われた、ある小学校の社会科授業では、『日本は金持ちだと外国に思わせて、当時の国際通貨である明(中国)のお金が欲しかったのではないか』という意見が出て、歴史教育だけでなく金融教育としても興味深かった」(大杉教授)と、教科・科目横断的な教え方の具体例が紹介されました。
最後に、これから初めて金融教育を実践しようとする先生に向けて、各講師からアドバイスの言葉がありました。工藤部長は、「金融広報中央委員会刊行の『金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-』を活用して、できそうな項目を採り上げて実践してみることが近道だ。こうした取り組みを通じて、例えば住宅ローンにおける元利均等と元金均等での返済総額の相違といった金融リテラシーを、小・中・高のどこかの段階で教える必要がある」と話されました。
大杉教授は、「例えば『同じ大きさの二匹の鯛でなぜ値段が違うのか』、『約20円で作れる1万円札で、1万円の物が買えるのはなぜか?』といった『疑問形の学習テーマ』を設定し、それを追究するために必要な知識を準備して、子どもたちがわくわくするような授業を実践していただきたい」と話されました。
また、いちのせ氏は、携帯電話の授業を紹介し、「小学校(4年生程度)では、『携帯電話は必要か』というテーマでグループ分けして、自分の考えをアピールしてもらう。中学生には、携帯の機能を調べてもらって、お金のかかる機能とかからない機能に分けさせる。また高校生には、先生自身の携帯電話の利用明細書を示して、どの料金プランがいいか考えてもらう。その過程で、ニーズとウォンツの違い、上手な使い方、使用にまつわる危険性、道徳の問題など、いろいろな点で子どもたちの中から新しい発見が出てきます」と提案されました。