平成14年度「全国金銭教育協議会」
(2)分科会報告、意見交換
宮坂 広作(東京大学名誉教授)
第1分科会(幼稚園)
全国金銭教育協議会が行われるようになってからかなりの間、各分科会の話し合いの中に、「金銭教育アレルギー」ともいうべき問題がよく出された。さすがに今日では、そうしたことは少なくなったが、幼稚園分科会では、いまだにそんな雰囲気がある。
それは、この分科会が他の分科会よりも遅れているということではない。「こんな小さいうちから金銭、金銭といわなくても」「幼児のうちくらいは夢や幻想の世界に遊ばせたい」「あまり早くから金銭に注意を向けると、金銭に執着する卑しい大人にならないか」といった気持ちが、幼児教育関係者には強いようである。つまり、子どもの発達段階という観点からして、時期尚早ではないかという疑問が根強く存在する。
幼児の教育では、イマジネーション、ファンタジーといった次元が重要であることはもちろんである。しかし、夢や空想の世界にだけ遊んでいるのが幼児教育のすべてではない。アニミズム的思考を尊重するとともに、自然についてのリアルな認識もきちんと育てなければならない。
社会についての認識も同様である。いくら通園バスが一般化していても、交通安全のためのルールはきちんと教えておく必要がある。買い物の経験を園外でしている子どもは多いのだから、園内で買い物ごっこ、お店やさん遊びをするのは、子どもたちの生活経験に即して思考力(前頭葉機能)を発達させる、すばらしい保育方法である。
こうして、買い物ごっこ、お店やさんは、幼児教育における金銭教育の定番であり、これまでも研究校でたびたび取り組まれてきた。本年度の場合も、新潟中央幼稚園、和歌山たちばな幼稚園の2園から、このテーマに関わる実践のレポートが行われた。
中央の方は、園児作品展のバザー・即売会で親子ともども買い物をしたり、父母保育参観(研究保育)の日にお店やさんごっこをしたりしている。10円のコインを作って使用し、自分の作品を買ってもらえるように工夫して制作したり、売り方を反省したりしている。とにかく子どもたちが楽しんでやるようにしようというのが主眼で、理屈が先行していない。
たちばなの方は、「ガバチョ」という園内通貨を作り、1年中園内で通用させている。オープン保育で、ホールのさまざまなコーナーのひとつにお店コーナーを設け、常時開店しており、ここでは園児が銀行業務も行う。
毎週火曜日は「お店の日」で、グループ・クラスがすべて出店し、学期に1回「大売り出し」の日がある。ガバチョ貨幣をゴミ拾いや草取りなどの労働奉仕でもらえるシステムもある。お店やさんごっこによる金銭教育としては、創意工夫に満ちた体系的なもので、これまでの研究の頂点に位置している。
楽しみながら知恵が育っていく、子どものすこやかな発達に貢献する幼児金銭教育の実証が、また2つ積み重ねられた。この方向でのさらなる工夫を期待したい。